第6話 試験運用?
アッシュは貰った鉾で戦闘訓練をしながら、これからやるべき事を思い出していた。
(魂を救うのは見つけた時だけで急ぐ必要はなしと)
それと言うのも天空神ゼウスと魂の管理をする冥界の神ハデスが来たことで、この世界が安定し礎となった女性達の魂は解放されたのだ。
解放されたと言っても本人というか本魂達には理解出来ない為に、アッシュの役目が無くなったわけではない。
ただ急がなくても魂が磨り減ることが無いというだけ。
しかし肝心の居場所までは分からないので、世界中探して回るのは決定事項。
(つくづくポセイドン様がつけてくれた転移能力様々だな)
行った事のない場所でもマップに反映されるぐらい大きな池や湖なら無条件で選択出来るので、移動の手間が減る。
それを使えばお花畑ヒロインより先にアイテム回収が出来るし、アッシュが装備すれば永遠にヒロインが手に入れる事は出来ない。
(不死が役にたつのは初めてだな)
呪いとも言える加護を恨んだ事もあるが、アッシュはいわゆる神話時代から生きてきたので、昔は不死に近い能力を持つ者はそれなりにいたし、ポセイドンのお気に入りゆえにオリンポスの神々とも良好な関係を築いていたので、吹っ切るのは早かった。
(なるようになるってね)
長い生を楽しんだ方が良いと開き直ってからは、ありとあらゆる事に挑戦してきたので実に多芸多才になっている。
不老不死だけでも破格なのに食事も睡眠も必要としない体。
ただし水だけは必須なので酒だけが唯一の癒しと言える。
酒と水は違うのではと思わぬでもないが、水分と言う意味では同じらしく酔わないからと世界中の酒を飲み歩くのが趣味となっていた。
(そういやこの世界の酒ってシャンパンぐらいしか飲んだことないな)
ゲームが全年齢対象だったからなのか、ゲーム内で出てくる飲み物は紅茶かノンアルのシャンパンの2種類しか無かった。
ゲームにまでノンアル強調しなければならないとは世知辛いものだと友人と話しあったのが懐かしい。
せめてコーヒーとか日本のゲームなんだから日本茶か日本酒ぐらい出せとエミーリア時代にぼやいたのは良い思い出?だ。
「現実になった事で多少は種類増えてると良いんだが………」
『ディオニューソスが来れば少なくとも酒の種類は増えるさ』
「ヘルメース様。お久しぶりです」
『アッシュだっけ?久しぶり』
翼の生えたサンダルに手には蛇が巻き付いた杖を手にした若者はオリンポス12神の一柱、伝令神ヘルメース。
『これから神々からの依頼は私が連絡役になったからよろしく』
「流石は伝令神」
『旅人の守り神と商業の神も兼任してるよ』
「詐欺と盗みの神もでしょ」
『まあね』
見た目はアッシュと変わらないが、彼の方がはるかに年上だ。
それでも堅苦しいしゃべり方をすると機嫌が悪くなるので軽い口調になるのは仕方ない。
『まだ全員揃ってないからゲームっぽいところもあるけど、とりあえず食は先行して充実させるってさ』
「神々の楽しみだから?」
『そうとも言う』
オリンポスの神々といえば毎夜宴会しているような飲んべえばかりだ。
まあ神々の食物がネクタルという酒とアンブロシアという食事が主なのだから仕方がないと言える。
「それで要件は?」
『久しぶりなのにつれない奴だな。まあいいけどさ』
(いいんかい!)
アッシュの心の呟きなど丸聞こえだろうが、いつもの事なので神々は気にしないし、それはアッシュも承知のうえだ。
『私との連絡用にこの杖を授けよう。天にかざせばどこに居ようと私と連絡がとれるし、大地に立てて手を離せば行くべき道を示してくれる優れものだ』
「それ棒を立てて、どっちに行こうかなとやるのとどう違うんだ?」
『忘れたのか?私は旅人を守り導く神だよ。そんなの……………………五分五分に決まっているだろう』
「お持ち帰りください」
『ウソウソ、冗談だよ。ジョーク。ねっ♪何でもかんでも教えるわけにいかないけど、近くに魂がある時は教えてあげるから持っているように』
「ああ!そう言えばヘルメース様は冥界への案内神でもありましたっけ」
『そ、そ。流石に何の手がかりもなしに百人分の魂を探すなんていくら不老不死の君でもキツいだろう?だから最低限の手助けを認めるように日本の神々と勝負して勝ちとってきたのさ』
(詐欺の神と勝負………イカサマでもしたのか?)
『失礼な。同じ神相手にイカサマなんてするわけ無いだろう。もっとも相手はポーカー初めてやったみたいだし、私のポーカーフェイスは完璧だからね』
(ある意味イカサマ)
それでも有難いことに代わりないので受け取ると杖だった物は左上腕に巻きついてきて、まるでミイラの副葬品のような幅広の腕輪に変わった。
中央には4個の宝石。
『魔法の補助も出来るけど、一番は宝石一つ一つに旅の必需品を封じてある』
ルビーには山小屋風の建物をサファイアには露天風呂をエメラルドには飲食物をダイヤモンドには衣服が入っているという。
「ちょ、ちょっと待って」
『なんだ?』
「山小屋風の建物ってなんだよ!?露天風呂?飲食物はまあいいとして、衣服?」
『神々からの贈り物だ。使う使わないは別として受け取っておかないと………恨まれるぞ?』
「なんで止めてくれなかった」
『女神連中に逆らうのは流石に………』
「あ!…………有り難く大切に使う」
『そうそう。それでいい。せっかくゲームっぽい世界だからってことで、宝石に入っている物を知りたい時は念じるだけで、目の前に画面表示されるから』
今までにないシステムに神々も興味津々でアッシュを使って実験しているとか。
(俺はマウスか?!)
『こんな能力が欲しいとか、こんなアイテム作って欲しいとかあったら連絡くれ。その都度、ふさわしい神に頼んでやるから』
「…………無限に酒が湧く盃」
『エメラルドに入ってる』
「TPOに合わせた衣装」
『武器防具及び装飾品と合わせてダイヤモンドの中だな』
「水風呂」
『ルビーの小屋にもついてるが露天風呂は冷鉱泉だ。長年の付き合いだから、アッシュが欲しがりそうなものなんてすぐに分かる』
至れり尽くせりの対応に、そのうち何かあったらお願いしますと頭を下げるしか出来ない。
『なんだよ他に無いのか?あるだろう?私にしか出来ない頼めないことが』
「ヘルメース様にしか出来ない?」
『にっぶいなぁ。お花畑ヒロインの動向、知りたくないか?』
「!それってまさかストーカー?」
『てい!!』
「あだ!」
ヘルメースが手にした杖でおもいっきりアッシュの頭を殴った。
『人聞きじゃなくて神聞きの悪いこと言うな。私の職業柄、そういう情報は勝手に入ってくるんだよ』
「はあ、さようで」
『で、要るの?要らないの?』
「欲しいです」
『よしよし。そんな素直なアッシュにはこれをあげよう』
「スケジュール手帳?」
『交換日記の方が良かったか?』
「いや、なんでスケジュール手帳?」
『お花畑が使っているから』
「はい?」
ヘルメースの話しによるとアッシュに渡したスケジュール手帳はヒロインが持っている物と同調しており、彼女が手帳に書いたことは間をおかずに書き込まれるし、ヒロインは手帳を日記代わりにもしているので、企みを阻止しやすいだろうとのこと。
「それじゃ俺がストーカーみたいじゃないか!?」
『今なら盗聴機能もお付けします♪』
「要らん!返す」
『相変わらずお堅い奴だな。仕方ないから交換日記で勘弁してやる』
「…………初めから狙いはそっちか」
ポケットサイズのスケジュール手帳が見る間にバイブルサイズの日記帳へと変わった。
『なるべく毎日、時間は問わないから最低でも一言書け』
「……………その心は?」
『お前を気にいっているのはポセイドン様だけじゃない』
「了解」
『なんか女神連中がポイントがどうとか言ってたから、楽しみにしていろ』
それはそれで怖いんだがと思わないでもないアッシュだった。
シナリオ通りに生きてきたので、シナリオ終了後は好きに生きさせてくれ!! マカダミアナッツが好き @cocoa2020
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