第7話 わたしのストーリー。

 わたしはOLだった。電車に乗るために、まず、バスに乗る。始発から乗る客はいつも6人。会話もなく、いつもバスの中はしんとしていた。

 ある朝、事故が起きた。スピードを出した車が横からバスに突っ込み、バスが横転する。その事故でわたしは死に、目が覚めたら7歳の少女になっていた。その少女が自分の読んでいた小説の中の悪役の令嬢だと知って、驚く。異世界転生なんてそもそもあり得ないのだから、もう何でもありだと開き直った。その小説は悪役の令嬢が好きで読んでいたので、正直、彼女になれて嬉しかった。だが同時に、それは破滅が待っていることを意味する。そこで、わたしは自分が破滅しないように頑張る事にした。

 エチエンヌは高熱を出して、一週間も寝込んでいた。目が覚めたわたしは状況がわからないから、呼びかける父や兄たちに「誰?」と聞く。それを見た医者は高熱の影響で記憶が抜けているのではないかと言い出した。その言葉に、わたしは乗っかる。記憶を失っていることにした。そんなエチエンヌに父も兄たちも優しい。みんなイケメンだった。エチエンヌは主役ではないので、幼少期のエピソードが小説の中にはほとんどない。家族構成さえ、母はなく、兄が3人いることを目覚めてから知った。

 小説の中に登場するエチエンヌは17歳だ。それ以前の話はト書き的にちょっと説明があるくらいだったので、わたしは自分がほぼ知らない10年間をエチエンヌとして乗り切ることになる。

 わからないのだから、開き直った。自分の好きに生きることにする。二十代後半の、大人としての知識や知恵を最大限に利用した。

 まず最初は、王子との婚約を解消することにする。エチエンヌの不幸の始まりは、王子の婚約者だったことが大きい。婚約を解消できれば、エチエンヌの人生はかなり変るはずだ。わるはずだ。優しい兄や父も不幸にしないですむ。

 その機会は案外、直ぐにやってきた。熱から回復した婚約者を王子が見舞いに来る。王子は二つ年上の9歳だ。まだ子供で、大人達に言われて見舞いに来たのがよくわかる渋い顔をしていた。来たくはないのに来たことがありありと態度に出ている。

 そんな王子にわたしは見舞いの礼を言った。それと同時に、記憶を無くした自分は王子の婚約者に相応しくないので、婚約を解消して欲しいと頼む。ちょっと強引だが、他にいい案が思いつかなくて押し切った。

 そんなわたしに王子は目を丸くする。頭を打ったのかと、聞かれた。

 王子の側近はわたしの言葉にも、王子の言葉にも、渋い顔をしている。そのような話は王子の一存では決められないと、側近の方から断られた。

 わたしもそんなに簡単に婚約を解消出来るとは思っていない。拒否されるのは当然なので、そこは気にしなかった。今日は婚約解消の意思が、わたしにあることが伝わればいい。王子はエチエンヌを嫌っているから、最終的に婚約は解消されるだろうと思った。しかし、事態は予想外の方向に展開する。その日から、王子は毎日見舞いに来るようになった。婚約は解消しないと、宣言される。わたしは訳がわからなかった。後ろ盾が必要なのかと思い、結婚しなくても王子に協力すると約束もする。だが、王子は引かない。それどころか、熱が下がって元気になるとわたしは王子と一緒に勉強をすることになった。わざわざ王宮に足を運んで、一緒に授業を受ける。四六時中、王子と一緒に過ごすことになってしまった。

 わたしは自分が失敗したことを悟る。どうやら、わたしは婚約解消を言い出すタイミングを間違えたらしい。解消されては困ると、王子側は思ってしまったようだ。仕方なく、わたしは王子と仲良くする。四六時中一緒なのに、冷たい態度は取れない。嫌われるのが婚約解消のためには正解かもしれないが、17歳以降のことを考えると心証は悪くしたくない。嫌われずに婚約だけを解消する方法を散々考えたが、そんな都合がいい方法なんてあるわけがなかった。

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