第6話 意外な真実。

 二日後、あたしは神官長のお供で王宮に向かった。エチエンヌと対面する。本物のエチエンヌにあたしは感動した。

 エチエンヌはとても綺麗だ。小説の挿絵より、5割増しで美人だと思う。お腹はもう結構大きくて、少し大変そうに見えた。そんな妻を心配してか、王子がべったりと側についている。エチエンヌの身体に触れたり撫でたりしていた。

(触りすぎだ、バカ王子。エチエンヌ様が困っているだろ)

 あたしは心の中で毒づく。人前なのも気にせずべたべたしてくる夫に彼女は眉をしかめていた。

「あなた。私は大丈夫ですから、仕事に戻ってください。また書類を貯めて、文官達に叱られますよ」

 優しく促す。にこやかに微笑んだ。

「……わかった」

 渋々という感じで、王子は部屋を出て行く。

「大変ですね」

 王子の姿が消えた後、神官長は苦笑した。

「無事に子供が生れてくるまで、心配でならないようで」

 エチエンヌは夫を庇う。心配しているのだとフォローしているが、ウソなのはわかる。あれは妻と一緒にいたいだけだ。出来るなら、一日中、妻といちゃいちゃしていたいに違いない。

(バカ王子だけど、気持ちはわかる)

 美人過ぎるエチエンヌが心配なのは理解できたし、ちょっと共感した。

「愛されていますね」

 あたしがそう言うと、エチエンヌはこちらを見た。ちょっと気まずい顔をして、あたしから目を逸らす。

(なんで?!)

 その態度に、あたしは動揺した。推しに嫌われるなんて、拷問以外何物でも無い。

「こちらは召還者の真希です。今日は挨拶に連れてきました」

 神官長はあたしを紹介してくれた。

「よろしく、真希」

 エチエンヌによろしくされて、あたしは浮かれる。だが、自分の名前で呼ばれたかったと思った。

 そんな浮ついたことを考えていたら、目の前で、エチエンヌが体勢を崩す。顔が少し青白い。

「エチエンヌ様?!」

 あたしは驚いた。神官長と2人、さっと立ち上がりエチエンヌに近づく。

「大丈夫ですか? 癒やしをかけますか?」

 神官長が聞いた。

「ええ。お願いします。このことは、夫には内密に」

 エチエンヌは頼む。心配を掛けたくないようだ。そんなエチエンヌが心配で、思わず、あたしはエチエンヌの手を握った。

 その瞬間、声が聞こえる。

(本来は真希が王子と結婚し、妃になるはずだったのに。私がその地位を奪ってしまった。申し訳なさ過ぎて、胸が痛い)

 それがエチエンヌの心の声だと気づくのに時間は掛らなかった。

(え? なんで、真希が王子と結婚するはずだったことを知っているの?)

 あたしは思わず、心の中で呟く。それはエチエンヌに聞こえたようだ。

 弾かれたように、彼女はあたしを見る。目を丸くした。

(あなたは何者?)

 明確な意思を持って、エチエンヌは尋ねる。互いの心の声が聞こえている状況を的確に理解していた。

(あたしは転生者。でも、真希ではない。何故か真希に憑依してしまったの。バスのの事故で亡くなったからかな……。あの時、死んだのはあたしだけではないと思うけど)

 心の中で苦笑する。

(その事故って、もしかして……)

 エチエンヌはバスの路線を言い当てた。

(どうしてそれを?!)

 あたしは混乱する。

(わたしもその事故で死んだ転生者だから)

 エチエンヌは静かな目であたしを見る。

(詳しい話を聞かせてください)

 あたしは頼んだ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る