第5話 悪役にならない令嬢。
王子が帰った後、神官長がやってきた。お茶の用意を持った神官を連れている。お茶さえ、まだ出ていなかった。
「おや? 王子は?」
応接室にあたししかいないことに神官長は困惑する。
「なにやら、急いでいるみたいで帰られました」
あたしは答えた。神官長には挨拶したと思っていたが、それもなかったらしい。
「またですか。エチエンヌ様が妊娠して以来、片時も離れたくないようで、困った人ですね。そもそも、結婚はまだ先の予定だったのに、我慢できなくて手を出して妊娠させて。エチエンヌの苦労が忍ばれますね」
神官長はぼやいた。
王子がいなくなった席に座り、用意したお茶を2人で飲む。
「エチエンヌ様ってどんな人ですか?」
あたしは思い切って、問いかけた。神官長はエチエンヌに詳しいらしい。
「聡明な淑女ですよ。賢くて、気遣いが出来て、魔力も強く美人で。あまりにエチエンヌ様がモテるので王子は心配で堪らなくて、身籠もらせて自分のものにしてしまったんです」
神官長の口調は怒っていた。
「神官長もエチエンヌ様のこと、お好きだったんですか?」
思わず、出歯亀根性が顔を出し、聞いてしまった。口にしてから、しまったと思う。
「まさか。私は神官なので、結婚とは無縁です。ただ、エチエンヌ様ご自身は神官になり神殿に入ることを望まれていました。結局は王子に押し切られてしまいましたが、ご本人の望み通り、神殿に入られることができたら良かったとは思います」
つまり、好きだったということだとあたしは理解した。
同時に、あたしが知るエチエンヌとちょっと違うと思う。小説の中の彼女は神官になりたいなんて一度も望んでいなかった。神殿に入るということは、俗世を捨てることだ。王妃になるつもりでいた彼女にそんな選択肢があるとは思えない。
(どういうことなの?)
あたしは困惑した。
「そんなにすてきな方なら、一度、お会いしてみたいです」
心からの気持ちを口にする。
「明後日、王宮でお会いする予定ですが。一緒に行きますか?」
神官長は誘ってくれた。
「ぜひ」
喰い気味にあたしは返事する。
「では、参りましょう」
神官長の言葉に、あたしは天にも昇る気持ちになった。
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