第4話 別のストーリー。
翌日、応接室であたしは王子と対面した。
王子は神官長に輪をかけたイケメンだ。
(さすが、ヒロインと結ばれる男)
自分がそのヒロインだということを忘れて、そんなことを考える。会話は適当に流していた。今か今かとエチエンヌの登場を待ち望む。
しかし、その時は来なかった。面会はあっさりと、10分ほどで終わってしまう。
「あの……。これで終わりですか?」
控えめに、あたしは問いかけた。小説とは全然違う。面会はもっと長く、回復系の魔法が使えるかしつこく聞かれ、試しに何か治してみろと言われるはずだ。国王の病気を治せるか、確認しなければならない。しかし、回復系云々の話なんて何も出なかった。
「あたし、何のためにこの世界に呼ばれたんでしょう?」
仕方なく、自分で聞く。
「それなんだが……。実は、誰も召喚していない」
王子は申し訳なさそうに答えた。
「え?」
あたしは戸惑う。
「今、我が国に召喚者の力が必要な案件はないんだ。まあ、今はエチエンヌが魔力を使えないので、魔力を持った人間が増えるのはありがたいのだが……」
苦笑する王子の言葉に、あたしはぴくっと反応した。
(魔力が使えないってどういうこと? 何があったの?)
プチパニックに陥る。だがそんな内心の動揺をを必死に隠して、あたしは尋ねた。
「エチエンヌってどなたですか? 何かあったのですか?」
王子を問い詰める。
「エチエンヌは私の妻だ。今、身籠もっていて。妊娠中は胎児に影響するので魔法は使えないんだ」
嬉しそうに、少しばかりにやけながら王子は答えた。
(え? 結婚しているの? しかも妊娠?? 王子、めっちゃ幸せそう。どう見ても、仲が良さそうなんだけど。どういうこと?)
あたしはとても困惑する。だが、ここで諦めてはいけないと思った。あたしはなんとしてもエチエンヌに会いたいし、彼女が本当に幸せなのか確認したい。王子の信用度はあたしの中では最低なので、いまいち信じてもいなかった。
「あたし、たぶんですけど、回復魔法が使えるんです。奥様が妊娠中なら、何かあった時に回復魔法師が側にいた方がいいと思うのですが、あたしでは役には立たないでしょうか?」
自分を売り込む。
「え? エチエンヌの側に?」
王子は怪訝な顔をした。
「申し出はありがたいが、正直、其方のことをどこまで信用していいのか、私は計りかねている。そんな相手を大切な妻の側に置くのは気が進まない」
はっきり、断られる。
「そうですか。そうですよね」
あたしは納得した。尤もな言い分だ。あたしも逆の立場だったら、きっと同じ事を言うだろう。
「変なことをなことを言って、すいません。あたしで役に立つことがあったら、言ってください」
あたしは引いた。
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