第3話 小説通りにいかない展開。
あたしが読んでいた小説は女子高生・真希がバス事故に巻き込まれて死亡。だが異世界に召還されて生き返るというものだった。
(まんまあたしだな)
自分でそう思う。
真希は召還者として神殿に預けられる。神殿長は何故か若くてイケメンだ。銀の髪に緑の瞳が冷たそうに見えて、本当は優しい。なんだかんだいって、真希のことを好きになる。普通ならウキウキの展開だが、あたしは気が重かった。なんせ、あたしは両親がずっと仲の良い夫婦を演じていたことにも気づけなかった女だ。恋愛の機微なんて知らないし、知りたくもない。寄せられる好意は気が重いだけだ。
しかし小説の世界と違い、神殿長はなんだかそっけない。ただし、顔は小説でイメージしたよりずっとイケメンだ。
「そういうわけで、明日、王子が真希に会いに来ます」
夕食の席で、神殿長は明日の予定を教えてくれる。
「はい」
あたしは殊勝に頷いた。
小説の通りなので、知っている。うっかり、「知っています」と言いそうになって、焦った。ちなみに、夕食の席で知らされるのも小説の通りだ。
(やはり、小説通りにストーリーが進行している)
あたしはそれを確信する。
王子が真希に会いに来る理由は、真希の力が国のために役に立つかどうかを判断するためだ。異世界からの召還者である真希は魔力を持っている。この世界は剣や魔法の世界だが、魔力が使えるのは貴族や神官の一部だけだ。魔力を持つものは貴重で、大切にされる。悪役令嬢であるエチエンヌが大事にされたのも大公家という家柄より魔力が強大だったことが大きかった。
真希はそのエチエンヌと互角の魔力を有している。そのため、王子の婚約者であるエチエンヌにとってかわって結婚することになった。王子は何故かエチエンヌを嫌っている。エチエンヌではなく真希を妃にと王子が望んだ。
(美人で、頭も良くて仕事も出来て、魔力も強大。そんな出来る女のエチエンヌを嫌う理由が理解できないわ)
出来る女が男から嫌煙されるのは、どこの世界も一緒なのかもしれない。小説を読みながら、王子には終始イライラさせられた。天真爛漫で自由奔放と言えば聞こえがいいが、あたしから見ればヒロインはお気楽なバカな女だ。周りから守られ、ただそれに甘えている。自分は何も出来ないと、努力の一つもしない。そしてことあるごとに、両親に会いたいと泣くのだ。そんな儚い(?)に少女に、王子はころっと落ちる。正直、王子の印象は良くなかった。
だが、明日の面会をあたしは楽しみにしている。王子との面会中、エチエンヌが乱入することを知っていた。エチエンヌは王子が自分の代わりに真希を選ぼうとしている事に気づいている。だからそれを邪魔しに来る。真希の力がどの程度のものなのか、私が試してあげましょうと颯爽と現われるはずだ。
エチエンヌは悪役だが、努力の人だ。魔力の高さと家柄で、小さな頃に王子の婚約者に決められる。エチエンヌに拒否権はなく、将来、王妃になるべく厳しい教育を強いられた。あたしならそんなのごめんだと逃げ出すが、エチエンヌは頑張った。家のため、家族のため、なにより国民のために。国を発展さえ、国民の母となるのが王妃だと教え込まれる。だが、そんなエチエンヌを王子は嫌う。父王が自分よりエチエンヌを可愛がるのに嫉妬したようだ。どんなに努力しても、決して認めようとはしない。いじめたりはしないが、冷たい態度を取り、優しい言葉一つかけなかった。
それでも、エチエンヌはいつか自分を省みてくれるだろうと夢を見る。そんなエチエンヌの味方が国王だ。しかしその国王が病に伏す。その病を治すべく、異世界から召還されたのが真希だ。真希は国王の病を治し、エチエンヌの味方であった国王は真希の方につく。大公家の権力が強まり過ぎることを危惧していた貴族達が、これ幸いと大公家とエチエンヌを陥れようとした。
それにエチエンヌはキレる。反撃し、やり返した。だがそれが悪意を持った解釈で国王や王子の耳に入る。自分を信じてくれない2人に失望して、エチエンヌは復讐を誓った。真希をその標的にする。だが真希を次々にイケメンたちが助けてくれる。そしてもれなくみんな真希を好きになった。
(エチエンヌがいなかったら絶対に読まないわ、あんな小説)
思い出しても、腹が立つ。
「どうかしましたか?」
ムカムカしていると、神官長に声を掛けられた。
「いいえ。何も」
あたしは返事をする。引きつった愛想笑いを浮かべた。ヒロイン真希とは違い、あたしは天真爛漫でも自由奔放でもない。
「明日、自分は何をするのだろうとちょっと気になっただけです」
ぼんやりしていたことを言い訳した。
「そうですか。心配しなくても大丈夫です。真希がどんな力を持っているのか、確認するだけですから」
神官長は優しく言った。
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