お題:音楽
「頼む! 一回でいいから!!」
「し、つ、こ、い!!」
スカジャンを着た少女は怒りをあらわに、ついてくるベースを背負った少年をひっ叩いた。
「あたしは部活なんざしたくねぇんだよ!」
「勧誘じゃない! 一回だけ俺とセッションしてくれ! スタジオ代も全部出すから!」
「い、や、だ! とくに軽音なんてチャラついたところは大っ嫌いだ!」
「すまん! じゃあ俺、軽音辞めるから一緒にセッションしてくれ!」
「〜〜っ! そこまでして何がしてぇんだよテメェは!」
少年は胸を張って言い切った。
「あんたの声に惚れた!!」
「っ、だっからあれは気分がいいから鼻歌を……」
「だから確信したんだよ! 鼻歌であれなら、本気の歌声は凄まじいって!」
興奮気味の少年が語ると、少女の顔が曇る。そして、観念したように話し始めた。
「……お前と同じようなこと言われて、バンド組んだことがある」
「マジか。先見の明がある奴だな……いまもやってるのか?」
「解散したよ。あたしの声のせいでな」
「声のせい?」
「あたしの声は演奏を食っちまうんだと。気持ちよく歌うのが好きなのに、声のデカさを制限されてまでバンドする理由もない。……どうせお前も同じことになる」
寂しさを湛えた瞳で少年を一瞥し、少女は踵を返した。
その瞬間、背後で重い低音が響く。少年は学校の廊下のど真ん中でベースを持っていた。
「俺の演奏を一回だけ聞いてくれ! それにノッてこなかったら、もう何も言わねぇ」
「……ベースだけで何ができんだよ」
「俺はあんたとセッションしたい。恋した相手を前に立ち止まる理由なんて考えたかないね」
少女はしばし止まった後、噴き出すように小さく笑った。
「カッコつけてんなよ。詩人かよ」
「音楽やってる奴なんて八割カッコつけだ!」
「お前、バカだろ」
「よく言われる」
「あぁ。周りの連中の目は正しいな。……気合の入ったバカは好きだ」
少女は挑戦的に笑った。試してみようと思ったのだ。迎合でもなく、拒否でもなく、ぶつかり合うことで更に上へ登れるような相手であるのかを。
「ノせてみろよベーシスト。あたしの声は安かねぇぞ?」
「上等!」
日課:お題の缶々 鴉橋フミ @karasuteng125
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