ラブ・トライアングル

刹那

ラブ・トライアングル

 僕はそら、こう見えて勝負好きで負けず嫌いの高校2年生だ。

 そして、隣にいるのは小さい頃からの付き合いのくろだ。

 正直、僕はクラス内では陰キャと呼ばれる立ち位置で黒は陽キャだけど僕と同じで勝負好きで負けず嫌いな性格でもある。確かに教室のポジションでは逆ではあるが、クラスで陽キャたちと僕の中を取り持ってくれている優しい人だということも知っている。

 そして、そんな僕には好きな人がいる。


「あ、天、黒もおっはよう」

「おはよう、恋歌れんかさん」

「おはよう、恋歌」


 教室が2-Bなのを確認してから、ドアを開けて僕らが入るなり1人の女子生徒の声がかかって、僕はびくびくしながら返して、黒は平然と返した。

 そう、これが僕が好きな恋歌さん。クラスのマドンナといった立ち位置だが聞き上手で温厚、さらには文武両道で僕のような陰キャにも声をかけてくれる面倒見のいい人でもある。

 僕は鞄をおいて席に着いて本を開く。

 黒は鞄を置くと、恋歌さんを含めた陽キャグループの中に難なく溶け込んでしまう。

 僕は気づいた。僕は陰キャだから「さん」を付けることが普通になっているが、黒は陽キャだから呼び捨てにしていることで何かしらの劣等感を感じた。


 時は流れて休み時間に入った。

 僕は思い出したように教室の後ろの花瓶を持つと、教室を出て水を入れた。

 これは別に僕の仕事ではないが、徳を積むという意味でよくすることが多い。積んだ徳は自分に返ってくるともいわれるからだ。

 水を入れてから僕は自分の席に戻って本を読むのである。

 陰キャによくある特徴で、自分のことが見えていないから周りによく気を配るといったことである。


 また別の休み時間は、廊下がいつもより騒がしかった。

 様子を見に行くと、プリントが周りに散らばっていた。

 僕はそれの大半を拾い上げて、落とした女子生徒にこう言った。


「プリント半分持ちますよ、また飛ばされると大変でしょう?」

「え、いや大丈夫ですよ。これは私の仕事ですから」

「まあ、僕が職員室に用事があるからなんですけどね」

「あ、じゃあお願いします」


 あらかじめ、いっておくが職員室に用事はない。

 ただ、この女子生徒がさっきみたいにプリントを飛ばされると困るからだ。

 そして、職員室でプリントを先生の机に置いたところでチャイムが鳴った。

 女子生徒と僕は慌てて階段を駆け上がるところで女子生徒が聞いた。


「あ、すみません。用事はよかったんですか?」

「え、ああ。後でもよかったみたいだった」


 そして、チャイムが鳴り終えるまでに教室に入って席に着いた。

 息を上げながら、教室まで全速力だったから周りの生徒に少し笑われた。

 だが、徳を積んで少し笑われるぐらいどうってことないのだ。


 水曜日なので早く授業が終わって、各々が部活だの帰宅するだのと教室を出ていく。

 僕も部活には入っていないので、即帰宅するのが普通だが今日は違う。

 やがて教室には僕と黒が残っていた。

 そして教室の教卓の前に黒が立って言った。


「帰るんじゃないのか?」

「そのつもりだったけど、今日はちょっと用事があってな」

「奇遇だな。俺も天と同じ用事だ」

「やれやれ、隠し事はできそうにないな」


 黒とは昔から付き合いもあってか薄々感づいていたのかもしれない。

 たぶん、俺と同じ用事ってことは真実なのだろう。

 そして、僕が息をのむと黒の第1声はシンプルだった。


「天、恋歌のこと好きだろ」


 何も言えなくなった。

 ここまでくるとむしろ怖いといったほどに震え上がっていくのを感じた。

 だが、長い付き合いであるほどに分かりやすいのかもしれない。

 そして、何も言えなくなった僕に黒は信じられない言葉を口にした。


「俺は、これから恋歌にプロポーズする予定だ」


 は?

 つまり、状況を整理すると僕と黒の好きな人が同じということだ。そして、僕も黒も今日プロポーズする予定だったという事実が残る。

 そこで、僕も席を静かに立った。

 僕たち2人がこのような状況となったら勝負をする時だ。

 僕は鞄をあさって、あるケースを教卓に置いて言った。

 そして決める条件はお互いの言葉が一致した条件ならルールに付け加える。

 僕と黒は同時に言った。


「「勝った方が恋歌(さん)に告白できる」」


 ここに勝負は成立した。

 あるケースとはトランプだった。

 僕は神経衰弱が得意なように、彼は大富豪が得意である。

 しかし、このような時は自分の得意なゲームを選んでも勝つのがあたりまえで面白くない。それは彼も分かっているはずだ。仮に彼が大富豪を選んでも僕が止めに入る。お互いの言葉が一致しなければ勝負が成立しないからだ。


「ここはシンプルにジジ抜きにしない?」

「そうだな、ババ抜きだと顔に出やすいしな」


 僕らは勝負事は好きだが、ポーカーフェイスはあんまり得意ではない。

 ならばいっそのこと、ジョーカーが分かるババ抜きよりかは最後になるまでわからないジジ抜きの方がいい。

 そして、両者の意見が割れることはなくジジ抜きで決まった。


 5分後、勝負は決した。

 結果は黒が勝って、僕は負けた。


「くっそ、負けた」

「最後までわからなかったな。勝負はこれだからやめられないわ」

「とりあえず、今日はここから退散しますけど、次にやるときは負けないからな!」


 ずっと負けたままの雰囲気でいるのは居心地がとても悪かった。

 だから、鞄を持って教室を出た後に癒しを求めて図書室で本を読んだ。森鴎外の『舞姫』と夏目漱石の『吾輩は猫である』で迷ったが、恋愛的なことがさっき会ったばかりなので『舞姫』を読む気にはなれなかったので『吾輩は猫である』を手に取った。


 それから数分後、図書室の窓から黒と恋歌が笑いながらも一緒に歩いていたのが見えた。

 その時に僕は不覚にも確信してしまった。

 告白はどうやら成功したようだな、と。

 ただ、これほどまでに自分の不運を呪ってことはないぐらい深く胸が傷ついた。それとは別に自分が告白しに行ったら玉砕してたんだなという安心感を覚えてしまった。

 これ以上深く考えても仕方ないかった。


 それから2人が帰った少し後に僕も帰路についた。

 虚しさは感じたが、家の前につく頃には受け入れる以外の選択肢しか見当たらなかった。

 そして、帰宅すると黒と僕のチャットに一言メッセージを送っておいた。

 告白成功おめでとう、と。


 その後、僕は顔をベッドにうずめてじたばたした。

 すると、そのじたばたした音のせいか、2つ下の弟が部屋に入ってきた。


「どうしたの、兄ちゃん?」

「ああ、振られて泣いていたところだよ」

「振られたか、最初は俺もそうだった」


 こいつは俺の2つ下の弟の大地、こいつは中学時代に一回だけ告白して玉砕している。不服ではあるが、恋愛経験は大地の方が1枚上手だ。

 雄弁に語ってはいるが、こいつが玉砕した相手は僕の良く知る人の妹だった。


「確か黒の妹だったよな、名前は」

茶色さろだ。ああ、あのブラコンの壁には全く参ったよ」

「けど、兄貴に彼女ができたからどうなるんだろうな」


 ブラコンの壁と呼ばれる所以は、弟の玉砕が深く関わっている。

 弟が玉砕した時は、茶色は兄関連の言葉によって全て論破されたからだ。

 そして、重度のブラコンは黒に彼女できたからどうなるんだろうな。


「黒さんに彼女できたのか、それは面白そうだな」

「え、何がだよ。まあまあ、こっちの話だから」


 そういうと、鼻歌を歌いながら帰っていった。

 すると、丁度のタイミングで黒から着信が入ったのだ。

 出ようか躊躇ったのだが、思い切って出た。


「ありがとうな、あの時に譲ってくれて」

「なんだよ、譲るも何も昔からそうだっただろ」

「ああ、あと明日から恋歌と共に登校するから。顔を合わせるのを気まずいし、少し後から登校してくれよ」


 彼なりの優しさなのだろうか。

 今後は彼の隣に恋歌さんがいる前提で言葉を少し選ぶ必要があるな。

 そこで、言葉を選ばずに話せるのは今しかないと思ってさっきまで話していたことをぶつけてみた。


「妹には伝えてあるのか?猛反対しそうだけど」

「あいつには伝えないつもりだ。絶対キレるからな」

「ん?ちょっと待て、確か弟とラインで繋がっていたような」

「うわああああああああ」


 何かに襲われたような叫び声で、黒との通話が切れる。

 大方、何があったかは予想がつく。それと同時に弟が面白がっていたことの意味が分かった。

 すまん、黒。弟に話してしまった僕が悪いんだ。

 僕が話してしまったせいで、弟からのラインで茶色に情報が渡る。すると、黒が話さないでいた情報が漏れ出てしまった。そのせいでたぶん黒を問い詰めようと茶色に襲われたわけだ。

 僕はその後は追及されるのが怖かったからスマホを開かずに寝た。


 次の日、少し時間をずらして学校に行くと黒と恋歌は相変わらず陽キャ集団と話していた。

 どうせ、告白の話で盛り上がっているのだろう。


「あ、天。おはよう」

「黒、恋歌さんもおはよう」


 いつもと変わった雰囲気に少し動揺するが、作り笑いでごまかしておこう。いつもと変わらない感じを演出した。

 いつも通りに席について本を開いた。陽キャ集団の話している内容が昨日のことなので耳が痛いし、なぜか自分が恥ずかしくなってくる。

 気を取り直して、教科書類を机の中に詰めようとしたら手紙が入っていた。

 そこには2言だけ書いてあった。


「好きです。昼休みに屋上に来てください」


 ただ、この字面はどこかで見たことあるような気がした。一年生の名簿は確認していないけども、あいつならこんな字を書きそうだとも思った。

 そして、その予感は的中する。


 昼休みになったので数分経ってから屋上に向かう。

 そこに映る姿を見て僕は頭をぐしゃぐしゃと掻き、言った。


「おいおい、これはどういう風の吹き回しだ?」


 その女生徒が振り返る仕草を見て予感は確信へと変わった。

 なぜなら、弟を1年前に振ったブラコンの壁と呼ばれた女が手紙に好きですなんて言葉を書いているからだ。

 目をキラキラと輝かせて別人になったような茶色がそこに居る。


「天先輩、付き合ってください」


 手を前に差し出してきたので、僕はその手を握ろうとはせずに顔面を近づけた。

 こいつは簡単にブラコンの壁をブレイクできるような女じゃないことぐらい分かっている。

 だから、何が隠されているのかの方が逆に知りたかった。


「そんなキャラじゃないだろ。さて腹の探り合いでもしようか」

「はあ、やっぱり長い付き合いだと無理ですね」


 茶色も僕に恋愛感情がないことを悟ったからか観念した様子だった。

 そして、意外な言葉を口にしたのだ。


「あなたに興味はありません。ですが大地に興味があるのは本当です」

「でも大地はお前が振ったんだろう?」

「はい、でもあいつはボロクソに言われた後でも話しかけてくるんです。大地は何でそこまでして私にこだわるのか」

「好きだからじゃないか」


 突発的に口から出ていた。

 その言葉で茶色の顔が赤く塗りつぶされた。

 良かったな弟よ。あの玉砕の日から恋は始まっていたらしいぞ。


「それ以外に理由があるかよ。こうしているってことはそれ以外ないだろう」

「はあ、それじゃ最後に一言だけ言わせてもらいます。実はこのアイデアは女狐のアイデアを利用させてもらったんです」

「は?女狐ってまさか」


 すると、立ち上がって屋上のドアノブに手をかけた。

 そして、笑顔でこう言い放った。


「答え合わせは明日の放課後の屋上で」


 それから、その日の放課後に立ち寄ったのはテニスコートだった。今日はソフトテニス部は休みで恋歌は部のキャプテンでもある。そして、見上げた時にどの位置にいても2-Bの教室の窓越しの光景は一番見えやすい。

 そこで全てのピースが繋がって、もやもやしていた感覚が一気に抹消された。


 そして、念には念を入れて黒とのラインに一言メッセージを入れておいた。


「黒は本当に恋歌と付き合っているのか?」


 その日のうちに既読はついたが数時間待っても返信は来なかった。


 そして答え合わせの日、いつも通りに登校して、挨拶をしていつもと変わらずに授業を受けて放課後になった。僕は1足先に屋上に上がっておいた。


 やがて、屋上の扉が開いて聞き覚えのある声が響く。

 そう、今日の朝もあいさつで聞いた声だった。


「答えは出たかな?」

「ああ、だけど、わからないことがいくつかある」

「とりあえず、答え合わせからしようか」


 僕は空を見上げた。

 我ながらよく踊らされたと思う。

 目を閉じると、この三日間で思ったことが鮮明に蘇ってくる。

 だからこそ、今日に伝えるべきことが一つあった。

 おそらく、このまま大人になれば自分の思い通りに事が進むと思っている。

 そんな人間にはなってほしくはない。

 僕は人差し指を大きく立てて上空を指さした。


「答え合わせの前に、一つ聞きたい」

「いいけど何?」

「恋歌さんは黒のことをどう思っている?」


 答えによっては女子であろうが手を出さざるを得ないだろう。

 ただ友情と恋のどちらかを取るなら友情派の人間だ。


「そうね、いつも仲良くしてくれている友達兼恋人かな」

「いつまで、その肩書を貫くつもりだよ」


 黒のことをそう思ってくれているなら別に答え合わせなんてする必要もない。

 ただ、その言葉は僕の逆鱗に触れた。

 怒ることを抑えつつ、僕は上空を見たまま言った。


「質問を変えよう。じゃあ、なんで屋上に来たんだ?」

「それは答え合わせをするためでしょう」

「答え合わせって何の答え合わせだ?」

「え」


 恋歌は言葉に詰まる。

 それはそうだ。ここで私の計画なんて言ってしまったらすべてが水の泡になってしまう。ここで、単純に答え合わせして両想いになって付き合うことがハッピーエンドの筋書きなのだろう。でも、友情を無下にしてまで付き合うなんて非情なことができるはずがない。


「あんたは、僕に近づくために黒を利用した。つまり初めから黒は眼中になかった」

「違う!」

「何が違う?」

「私は本当に彼を愛してるの!」

「じゃあ聞くが、なんで自分がそんなに辛くて苦しそうなんだ?」


 返す言葉がなくなって泣き崩れ落ちる恋歌に僕は見ていた上空から視点を下げる。

 自分の思い通りに事が進むなら、進まなかったときの事を考えなくなる。

 例え、望まない結果になったとしても無理矢理にでも正当化している。

 今、彼女の中では言論と意思が反発しあっている。

 たぶん、今まで感情的にならなかったのが原因だろう。

 そして頭の上にそっと手を置いて撫でた。


「そう思うからこそ、人間は成長する生き物だ」


 恋歌の涙はなん十粒もぽたりぽたりと雨のように屋上の床へと落ちていく。

 否定されたり思い通りにいかないことがあると開き直ったり逆上する者もいる。

 そんな中で自分の間違いを受け止めて気づくことができる。彼女はきっと同じ間違いはしないだろう。


 その後、黒と茶色が屋上に到着して恋歌を慰めていた。

 僕も何か聞かれるかと思ったが、黒から一言だけしか言われなかった。


「先に帰ってろ」


 たぶん、黒や茶色も恋歌の計画とやらを知っていたのだろう。

 激動の放課後が終わって家に帰ると、弟がものすごい剣幕で階段を下りてきた。

 そしてラインの画面を見せるなり、言った。


「茶色さんに何かしたのか?急にデートのお誘いが来たんだけど?」

「おう、よかったじゃん。それに何もしてないよ」

「嘘つけ、絶対何かしただろ」

「なんもしてないって」


 相変わらず、茶色は昔から仕事が早いな。

 それにしても、なんだか言いたいことが全部いえてすっきりした気分だ。


「それはそうと兄貴に玉砕させられた女がいるって本当なのか?」

「僕が玉砕させられるように見えるか」

「見えないけどさ、このラインで書いてあるんだ」


 弟が見せてくれたライングループには弟、黒、茶色、恋歌の4人のグループで文面の流れを見る限り玉砕させられたように見える。つまり、少なくともグループの4人は今回の計画について知っていたのだろう。

 そのラインが、恋歌を除いた3人のコメントであれまくっていた。


「兄貴、その顔はやっちゃった感じだな」

「間違ったことは言ってない」

「ああ、でも時と場所と場合は選んだ方がいいと思うぞ」

「そうだな、少し感情的になりすぎたかもな」

「兄貴は恋歌さんのことを愛しているんだろう」

「どうかな、あっちがどう思うかにもよるな」


 とんでもなく最悪なイメージを植え付けているから嫌われているだろうなと思うのが今の本心だ。僕は今も恋歌が好きなのかもあいまいだ。

 普通なら今日の放課後に決着はついていたはずだったけど、自分が言ったことに対して後悔はしていない。


「気になるなら本人に直接聞いてみれば?」

「どういうことだよ?」

「兄貴もグループに入ればいい」

「いや、それはちょっと叩かれている中で入るのは気が引ける」

「そうだな、よし分かった」


 大地は不敵な笑みを浮かべて文字を打ち始める。

 こういう時は、そっとしておいた方がいいのを知っている。

 すぐに自室に戻ってから、布団に倒れこんだ。

 今日はいろいろありすぎて疲れたからな、飯食って風呂入ってさっさと寝よう。


 翌日になった。

 今日は土曜日で休日だが、両親は仕事で弟はデートだ。

 つまり、家には僕一人で自由に過ごせる時間だ。舞い上がっていると、弟が自室から出てきた。


「兄貴、昨日のことで四人で話し合った結果。うちでデートすることになったから」

「え?」

「3人がうちに来るってこと」


 家で一人で過ごすことは無理で、しかも会って気まずい3人がうちに来るのか。

 何事もなかったかのように、過ごせば問題ないだろう。

 そのときインターホンが鳴った。

 ドアを開けると、茶色がいた。


「先輩、先日はお世話になりました」

「あ、うん」

「まあ、とりあえず上がってくれよ」

「はい、お邪魔します」

「黒はどうした?」

「彼女と合流してから家に来るって言ってました」

「ただ、ブラコンの壁と呼ばれてた茶色がこうも丸くなると変な感じだな」

「兄貴、あんまりからかわないでくれよ」


 そう言って弟が下りてきたところで、リビングに通した。

 ここまでは想定通りだった。それから会うのが気まずい2人で特に恋歌には昨日に怒ったばかりだからあんまり会いたくはない。

 再びインターホンが鳴った。

 ドアを開けると、笑顔の黒と白い帽子で目線を合わせたがらない恋歌の姿があった。

 どうやら、言いたいことは昨日に全部言ってすっきりしたみたいだ。


「よう、昨日は無責任に帰れなんて言って悪かった。」

「いや、泣かせてしまったから僕が悪いところもある。とりあえず2人とも上がってから中で話そう」


 そして全員がリビングに集結したところで会議が始まった。

 お茶を入れて初めに僕が言った。


「とりあえず、恋歌さんと大地は会うのが初めてだよな?」

「うん、それより兄貴には聞きたいことがあるんだよな?」


 横目に流してきたから、何とも言えない気まずい雰囲気になった。

 何も言わない沈黙の時間が続いていたところで大地が動いた。


「黒さん、茶色、俺の部屋でゲームやろうぜ」

「そうだな、お邪魔みたいだし久々にやるか」

「彼氏だからって手加減はしないよ」


 そういって3人は部屋を出て行ってしまった。

 リビングには僕と恋歌が残された。

 たぶん、最初からこういう状況にするために仕組んでいたんだろう。

 奥歯をかみしめる僕に恋歌は白い帽子を取った。


「あの、昨日はごめんなさい」

「いや、僕も少し感情的になりすぎた」

「ううん、そうじゃないの。あの時にもしあなたが告白していたらと思うと振られた黒の気持ちを考えていなかったんじゃないかと思う」

「本当は、答え合わせなんてするものじゃない。人の気持ちに正解がないのと同じように」

「でも、今も昨日も変わらない気持ちが一つだけある」

「そうだ、僕も一つだけ変わらない気持ちがある」

「じゃあ、せーので言うか」


「「せーの、君が好き」」


 その言葉を聞けただけで幸せを感じた。

 その後、恋歌はどうやら1年生のころから僕に注目していたらしい。好きだと感じたのは2年生になってからだという。


「恋歌は僕のどこが好きになったの?」

「えっと、周りに気を配れたり、困っている人を見ると放っておけないところかな。逆に聞くけど天は私のどこを好きになったの」

「誰にも分け隔てなくやさしいところと失敗したらちゃんと学習するところ」

「えー、それなら、言いたいことはズバッといえることも好きかな」


 2人で話が盛り上がっているところで3人も階段を下りてきた。

 恋歌には大地と茶色がいろいろと僕のことに対して吹き込んでいるらしかったが、同様にして僕には黒から色々言われた。


「天は気づいていなかったかもしれないけれど、休み時間のときに恋歌はお前の行動をずっと目で追っていたんだ」

「まじか、全然気が付かなかった」


 その日は、一日中遊びまくった。

 各両親にも連絡を入れてお泊り会をすることになったのだが、それはまた別のお話。

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