第3話 ラスト


 もう一人の改造外科医が、生ビールを飲み干して会話を続ける。

「悪の組織に入った時の研修で改造外科医が見せられる、ヒーローに倒された怪人が最後に爆発する場面なんだが」

「それ、あたしも戦闘員の研修で観ました──爆発する怪人の近くは危険だから、戦闘員は速やかに避難するようにって講義されました」

「そっか、オレたち改造外科医は怪人が最後に爆死するのは先人改造外科医の知恵で、改造技術の秘密を消し去るためだと教えられた──当時は改造で怪人に埋め込んだ人工臓器の中には、メーカー名が入っている臓器もあったからな」

「オレは倒された怪人を遺体のまま放置しないためだと教えられたぞ──夏場は死んだ怪人の腐敗がひどいらしい……まぁ、改造外科医の中には花火師みたいに完成した怪人が、盛大に爆死するのが至高の楽しみで怪人の腹に花火玉仕込んだ。ある意味イッちゃった、改造外科医も過去にはいたらしいが」


 戦闘員女性が生じた疑問を質問する。

「でも、爆発しても臓器とかは飛び散って残りますよね……機械が付着した臓物とか、どうするんですか?」

「それは、気づいちゃいけない疑問だったんだけれどね……ヒーローが去った後に、戦闘員たちがこっそり回収処理するんだよ」

 戦闘員女性が、何かを思い出したように片方の手の平を、もう片方の拳の小指側で打ちつける。

 強化されたパワーから発生した衝撃波が、バーの棚に並んでいたグラスを粉々に破壊した。

 ギロッと睨むバーテンダー、必死に頭を下げる改造外科医。

「すみません、すみません、全部弁証しますから!」


 謝っている二人の改造外科医の姿を視角の外に、女性戦闘員はペラペラとしゃべりはじめた。

「今やっとわかりました、悪の組織を辞めた先輩の言っていた言葉の意味が」

「なんて言っていたんだ? その辞めた先輩は?」

「怪人とヒーローの戦いが終わって、ヒーローが去ったのを確認して。残骸を回収していたら、物陰に隠れていた別のヒーローが現れて。無抵抗な戦闘員たちを次々と惨殺する現場を見てから、トラウマになって組織を辞めたって」

「正義のヒーローにあるまじき行為だな」


 椅子から立ち上がって、強化改造された女戦闘員が言った。

「もう一軒、別の店で呑みませんか……あたし、いい店知っているんです」

「いいな、行こう」


 バーを出た三人は、女戦闘員に案内されて一軒の居酒屋に入った。

 居酒屋 法被はっぴを着た、若い女性店員が、威勢がいい声で入店してきた三人を出迎える。

「いらっしゃ……い"っ!?」


 三人が座った席に、三人を出迎えた女性店員が来て、女戦闘員に凄んだ顔を近づけて言った。

「なんで、店に連れてきたんだよ………あたしがバイトしているコトは秘密なんだぞ」

「いいじゃないですか、女性幹部がバイトしている店なんて滅多にありませんよ──バレたって、うちの組織は副業禁止じゃありませんから」

「ったく、アフターファイブにまで、組織の同僚の顔は見たくないわ!」

 バイトをしている、女性幹部の顔をジイッと見ていた改造外科医が言った。

「組織から支給された、肩にトゲトゲが付いた肩当てと。顔に幹部のメイクしていない女性幹部見たの初めてですけれど、新鮮でいいですね………外では幹部スタイルじゃないんですね?」

「あんな恥ずかしい格好で外歩けるか! さっさと注文しろ! 客はおまえたちだけじゃないんだ」


 改造外科医AとBは生ビールを中ジョッキで。

 女性戦闘員はウーロンハイを注文して。

 酒のツマミは、おまかせ焼き鳥盛りを頼んだ。

 やがて、酒と食べ物が運ばれてきて。 法被はっぴ姿の女性幹部が、三人分のタコワサが盛られた皿をテーブルに置いて言った。

「タコワサは、あたしからのサービスだ……それ食ったら、さっさと帰れ」

 女性戦闘員が、皿に盛られた少し焦げ目がついたタコらしき生物の肉を凝視しながら、女性幹部に訊ねる。

「確か、この間ヒーローに倒された怪人は、タコの怪人だったような……なんか。タコ肉の中に電気コードや歯車がみらほらと」

「余計な詮索すな!」


 小一時間後──居酒屋から出てきた、改造外科医と女性戦闘員の三人は、すっかり酔っぱらいができあがっていた。

 酔っぱらいテンションMAXの三人。

「すっごい怪人作って、ヒーロー倒すぞぅ!」

「おーっ!」

「似非正義のヒーローに負けるなぁ! アクの歌を聴け! ヒーローども!」

「おーっ!」


 夜の街のどこかから、オオカミ怪人の遠吠えが聞こえてきた。


 ~おわり~

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悪の科学者酒場にて 楠本恵士 @67853-_-

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