夏、空高く。

 今日はいよいよ、体育祭当日。天気予報では『雨が少し降る』なんて言っていたけれど、予報は大ハズレの快晴。


「あっちぃ〜.....。」


「ね、てるてる坊主作っててよかった。」

 いつも通り、青木くんとおしゃべりを

 しているだけでも緊張がほぐれて行く気がする。


「おし!俺三球全部かごに入れてやっから!」

 まだ始まってもいないのに、ペアの競技に向けてもう気合い十分な青木くん。

『その前に徒競走とか綱引きとかあるよ?』なんて言うと『一番楽しみでしかたねぇの!』なんて、答えになっていない返答が帰ってきた。


「あ!そろそろだよ!」


「うっし!行くか!」


 高校2年生、一度きりの体育祭のスタート。


『いちについてっ、!よーーい!』

 ピストルの音がなって、徒競走がスタート。私は走るのは得意じゃないけれど、ゴールに向かって必死に走った。たくさんの人の応援の声の中に、大好きな人の声もある。そう考えるだけで力が湧いてくる。

 結果は、グループの中で四番目。丁度真ん中の順位だった。


 ✱✱✱

 プログラムは進んで、次はいよいよペア競技。ペア競技の一つ前は綱引きて、綱引きにも出ていた青木くんはヘトヘトなんだろうと思い込んでいたけれど、退場門から戻ってくる青木くんは信じられないくらい元気そうだった。


「よし、全部入れような!」

 青木くんは私と目が合うなりこう言った。だけど青木くんのこの言葉のおかけで緊張がほぐれていった。


「無理だよ、全部は。」

 私は笑って答える。すると青木くんは『じゃあ、三点ボールは絶対な!青は絶対!』とまるで小さい子のように繰り返し言う。


「わかった、頑張る。飛ばし方下手だったらごめんね?」

 私がそう言うと『どんな飛ばし方しても

 絶対受け止めてやる!』と自信満々。本当に頼もしい。


 私達の出場するペア競技は、一人がシーソーを使ってボールを上に上げてカゴを背負ったもう一人がそのボールを追いかけてカゴに入れるという競技。

 一つ目のボールは一点、二つ目のボールは二点。そして、三つ目の青ボールは三点とそれぞれ点数が決まっている。


 シーソーをふむ力加減がかなり難しくて、チームワークが試される。


「ねぇ、やっぱり......。」

 競技の順番待ちの時、私がポロッと弱音を吐きそうになった。

 すると青木くんは優しく、私の頭を二回ぽんっとして...『大丈夫』と優しく笑ってくれた。


 青木くんの言葉や行動に、何回驚かされて勇気づけられて.....助けられてきただろう。

 私は青木くんと話す度に、隣を歩く度に『もっと知りたい』『仲良くなりたい』と思うようになった。


「ほら、行くぞ?」


「うん......。」


「絶対大丈夫 、ほら....先越されるぞ?」


「うん!」

 何気ないその『大丈夫』の言葉も、私にとっては魔法の言葉のようで。


「うわっ!」


「惜しい惜しい!あと二つあるから落ち着いてな!」


「うわぁ、なんでぇ〜.....。」


「大丈夫大丈夫!いい感じいい感じ!」


 次が最後、三点ボールだ。私は今までで一番強く、シーソーを踏んだ。

 ボールはよく晴れた空に向かって高く上がった。上を見上げながら、青木くんがボールを追いかける。

 そして、ぴたりと青木くんの動きが止まる。

 ゆっくりと私の方を向いた青木くんの顔は、あの日の悲しそうな顔じゃなくて。

 まるで太陽のような笑顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の知ってるあの人は 七瀬モカᕱ⑅ᕱ @CloveR072

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ