第9話

唯利は翌日、校舎裏にいた

ここにいれば、必ず来る。そう信じて



「こんなところにいたか、桜嶺」


「きたね、白鷺。待ってた」


「遂に諦めがついたかな?まぁ、僕の一声で自分の親の会社が潰れるともなれば従わざるを得ないよな」



夜斗はというと、その場所が見える窓から見下ろしていた

声は聞こえる。それどころか風の流れる音から状況もわかる



「ったく…無茶しやがるぜ」


「そういうもんだ、女ってのはな」


「…!夜暮やぐれ…」



冥賀の弟の夜暮が隣で同じように2人を見下ろしていた

手に持っているのは銃のようなものだ



「調べさせてもらった。白鷺株式会社は、子会社にかなりの圧力をかけている。それぞれの娘をメイドとして白鷺家に仕えさせるかわりに融資をしているらしい。断ればあらぬ噂を流すぞ、と脅してな」


「ハナから女目当てか」


「ああ。桜嶺の親父さんは、白鷺株式会社の子会社ではないが取引先だ。親父さんの会社は白鷺との取引がなくなれば潰れる」


「…そんな、理不尽が…」


「ありえるんだ。これが経営者とその子どもたちの戦争。まんがのように円満解決なんてほとんどない」


「…何かないのか、方法は」


「……。桜嶺家は代々、白鷺家に工業用機械を売っている。白鷺家は白鷺家でその恩恵はあって、桜嶺の技術で作られた機械の精度のおかけでどうにか業界にいられるんだ。つまりその道を断てば、少しは傾く」


「けど断つと…」


「桜嶺家は崩壊する。だから桜嶺は覚悟を決めたんだ、親のために自分を売る覚悟を…な」


「そんなこと、させるわけに行かない」


「俺もそう思う。だから、親父に頼んだ」



夜暮の携帯電話に表示されていたのは、夜暮の父だ

ビデオ通話が起動されているらしい



「夜暮のお父さん…」


『話は聞かせてもらいました。とりあえずその子を助けてあげてください』


「けど…」


「しのごのいわんといけや!」



夜暮は夜斗を突き飛ばした

足を取られ、窓から落下する夜斗。そんな中でも冷静に、空中で姿勢を変えてしっかり着地する



「唯利」


「夜斗…」


「冬風ぇ…!また、また邪魔をするかぁ!」


「唯利。自由を求めるなら、俺とこい」


「でも、それだとお父さんが…」


「そぉだぁ…!そいつは俺のいいなりなんだよ残念だったなぁ!」


「お前の意思でこい、唯利。ここで終わるお前か?」



夜斗はあくまで唯利しか見ていない

白鷺など、全く見えていないのだ

あとのことは夜暮に任せる。というより、任せておけるという思いが強い

夜斗が差し出す手を、唯利が取った



「よし。助けてやる。夜暮!」


「おう」



夜暮が窓のサッシを乗り越えて飛び降りた

と言っても2階。降り方さえ間違えなければ無傷でいられる



「桜嶺。先程、黒淵医療機器が桜嶺電気機器を買収した。そいつに従う道理はない。そして、桜嶺印の機械は回収するように要請した。そいつとは無関係になる」


「く、黒淵!?なんでここに!」


「夜斗が従兄だからだ。お前は敵を間違えた」



白鷺の携帯電話が鳴り、電話をとる

叫ぶ白鷺をおいて、3人はその場を後にした

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非常で非情な情報恋愛戦争 本条真司 @0054823

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