第6話 村
守護者の塔と森を挟んで向かい合うように山がある。人が気軽に登ってこられる程度の低山だが、その山に恵みを求めて登ってくる者はいない。その山は精霊使いの住む山だからだ。
精霊使いの住む集落は山頂付近にある。百戸程度からなる、小さな村だ。かつては世間との交わりを拒んでいたが、現在は周辺都市との交易や、精霊使いの派遣を行う。
村の中心部に、族長の住まいと会議場を兼ねた建物がある。族長の部屋に訪問者があった。
「守護者は、彼の引き渡しを拒んだのですか」
バルクを追跡していたリーダーが言う。
「そうだ」
「彼女は何を考えているんだ! 神聖な場所を荒らした侵入者を庇うとは」
族長は片手を上げて憤るリーダーを制した。
「ラノル。あそこで守護者が介入しなければ、死んでいたのはお前たちだった。相手はあまりに戦い慣れしていて、なおかつ狼族の魔術師だ。敵う相手ではない」
族長はリコと同じ緑色の瞳でリーダー、ラノルを見た。
「それとは別に、聖域の神獣を呼び起こしてしまったことは、解決する必要がある」
目下の課題はそれだった。
「ギルドに働きに出ている者たちを呼び戻しますか」
「彼らとて神獣と戦えるほどの力はない。守護者の助力を頼む。それしか方法はないだろう」
「あの魔物の軍団に戦わせるとでも?」
「済まないが、お前の心情に配慮している余裕はない」
その時、ドアがノックされた。
「どうした」
入ってきたのは、族長の秘書をしている若い男性だった。
「お話し中失礼します。その、お客さまが…」
「客? 済まないが…」
族長が言いかけたところで、秘書を押し除けるようにして奇妙な客が入ってきた。長いローブをまとい、フードを目深にかぶった、枯れ枝のように痩せこけた老人だ。金色の鎧をまとった大男を従えている。
「失礼するよ、族長。無礼は承知だが、この時だ、許してもらいたい」
老人はフードを後ろに払った。その目は白目がなく、全体が黄緑色に発光していた。頭髪はほとんどなく、細い白髪が岩につく苔のようにわずかに残るのみだ。
ラノルは思わずのけぞった。
「ジュイユ師…」
族長はジュイユと面識があった。
「先程は精霊どもが失礼した。守護者が保護した狼族の青年についてだが、彼はしばらく守護者預かりとさせてもらう」
何かを言い出しそうなラノルを手で制して、族長が口を開いた。
「承知した。しかし、こちらからも守護者に要望がある」
「そちらが何を求めているかはわかっている。彼が目覚めさせてしまった神獣については、守護者が責任を持って対処する。村の対応は不要」
「感謝する」
「それでは」
ジュイユは話が終わるとさっさと部屋を出て行った。
奇妙な客が部屋から姿を消すか消さないかのうちにラノルが口を開く。
「さっきのは魔物では? それに、あの金色の鎧は守護者の土の精霊だ。武力で我々を脅迫するなんて!」
「そうではない、ラノル。あれは守護者の正式な使者だ。土の精霊がいたのは、守護者の許可を得てここに来た印だ。守護者の精霊はそれぞれが独立した人格を持つ。土を連れてきたのは、単に適任だったからだろう。感情的にあれこれ騒ぎ立てられると、まとまる話もまとまらんからな」
「でも、さっきの魔物は?」
「ジュイユ師か。彼は元は人間だ。自らを魔物とする禁断の法を開発し、自分に施した、伝説の魔術師だ」
「何のために…」
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