再開
★
とはいえ。探す――というのも、どうすれば、とか思ってはいたんだけれど。なんてことは、なかった。
ドォンッ!
大きな爆発音とともに、基地の一角から黒い煙が上がる。わーっていう悲鳴と大騒ぎと、何かが転がる音とか、めちゃくちゃに派手な音がとどろきまくっていた。……うん。。
「……派手にやってんな。さすがお前の仲間」
「返す言葉もないです……」
どう考えたって、シンだった。たぶん、暴れてる。すっごい元気に暴れてる。
「……行く?」
助けるも何もあったもんじゃない気がしてきたけど。
「行く」
こくんと頷いて、フライボードを脇に抱えて走り出す。乗った方が早いけれど、周りがごちゃついているところだと操作誤ったときがちょっと怖い。
すぐに騒ぎは大きくなった。まぁ、ね。光柱、消しちゃったし。あたしたちみたいな侵入者もいるわけで。シンも……相変わらずなんか、してるっぽいし。
ここは軍施設ではあっても、あまり侵入者は想定していなかったようで、追いかけられはしたけれど力尽くでどうこう、ってことはしてこない。ただただホクトくんと並んで逃げるのみ。逃げる、というか。音のするほうへ走って行く、がたしかだけれど。
そして。
「――シン!」
天井に近い場所にぶら下がっていた相棒の姿を見つけて、あたしは声を上げていた。
「……仲間だな……」
聞こえてますホクトくん。
「――ナナセ!」
シンがぱっと笑顔になった。いつもと同じ、キラキラした小さい子みたいな顔。
ふわっとシンが降りる。と、同時に後ろから来ていた一人を蹴りのけた。あざやか!
ステップを踏むように軽やかに駆けてきたシンに、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、無事で」
「うん、シンも! みんなも無事だよ!」
「そっか、ありがとな。マオ・マオも、直ったんだな」
「直りましたヨ。ご心配ドウモ」
ピカピカッと目を瞬かせてマオ・マオも答える。
「助けに来てくれたのか?」
「うん。当然」
シンはにかっと笑って、ようやくあたしを放してくれた。ぽんぽん、と、さっきのホクトくんみたいに頭を撫でてくる。そんなにあたしの頭は撫でやすいのかな……。
「だろうな、って。お前どっかで騒ぎ起こしただろ。すげー噂になってた」
「え、ほんと?」
「ああ。だからそろそろかなって、こっちも暴れてみた」
ヒヒッ、とシンがひそみ笑いをこぼした。ぽんぽん、といつもシンがつけている腰のポーチを叩いている。……この中身、あんまり教えてくれないんだけど、だいたいなんかいつも、爆発とかしているんだよね……。
シンはいつもみたいにすいっと鼻の下を人差し指でこすって、それから急に目を細めた。
「――で、誰?」
少し怒っているような、警戒しているような声。慌ててあたしはぱたぱたと手を振る。
「あっ、あのねっ、ホクトくんって言って、大丈夫、仲間だよ!」
「仲間?」
「シンを助けるのを助けてくれたの!」
ふっと後ろで吐息が聞こえた。ホクトくんが息を吐いたんだ。そのまま、あたしの横に並ぶと無造作にシンに手を差し出す。
「反乱軍のリーダーをやっている。ホクトだ。あんたがシンか?」
シンはじっとホクトくんの手を見て、それから肩をすくめた。手は握り返さないまま。
「反乱軍の? へぇ」
ホクトくんは握られなかった手をふっと笑ってから引っ込めた。
「気に食わないみたいだな」
「まーな。なんでナナセと一緒?」
シンの声がまた一段低くなった。普段、あんまりあたしは聞いたことのない声だ。
「――ナナセを利用したか?」
ホクトくんが口元だけで笑う。
「ああ、そんなところだ」
いやいや、待って待って。
「なんでケンカ腰なのシン! 助けに来たのっ! どっちかっていうとそのためにあたしがホクトくんを利用したって感じなんだから!」
だからケンカ腰やめて、ってシンを見上げる。ただ、シンはむすっとした顔のままだ。
「だって俺なんかこいつ嫌い」
……初対面の人に対して言うことかなぁそれ……
ホクトくんがははっと笑い声を上げた。
「いいよ別に、嫌いで。とりあえず無事でよかったよ。――で、ナナセ?」
「あ、うん」
うーん。シンがぴりぴりしてるなぁ。ただホクトくんはあまり気にしていないみたいだ。
「脱出出来るよな? わりと追っ手的なのはそう力なさそうだし。向こうは結構派手にやってるかもしれねぇけど、最初の基地にはすばるさんがいるからなんとかなる」
え。待って待って。
脱出後の指示まで与えてくるホクトくんに、あたしは思わずぎょっとしていた。
慌ててホクトくんの腕を握る。
「出来るけどっ、しないよ?」
だって。確かにシンを助けたいってのが目的だった。でも、今はそれだけじゃない。ホクトくんが話してくれた『ほし』を落とす方法。そのための橋を架けること。それだって今、あたしは無視なんて出来なくなっている。それに。
「Mか?」
ホクトくんがくすりと笑う。ちょっとだけ、むっとしちゃった。
「も、あるけど、それだけじゃない。ホクトくんの夢だって、あたしは一緒に見たい」
もちろん、Mのことだって気になるよ。ホクトくんと同じ声の主がだれなのか。その正体は確かに知りたい。でもそれだけじゃない。
ホクトくんの目を覗き込んで、あたしは声に力を込めた。
「あたしも、行く」
ホクトくんの目が、夜のような瞳が、雨を降らす直前の空のように一瞬揺らめいた。
「ナナ――」
「待てって」
むすっと割り込んできたのはシンだ。ぐい、とおでこを押された。ホクトくんから引き剥がされる。ちょっと痛い。
「なにぃーいたいー」
「話が分かんねぇよ、何のことだよ。行くってなに。逃げるんじゃなくて?」
あーまぁ、そうだよねぇ。何にも説明してないもん。どうしようかな。ちょっとだけ考えはしたんだけど、結局あたしとホクトくんは一番簡単な答え方をした。
ふたりですっと、天を指さす。空に浮かぶ、楽園を。
「『ほし』に行く」
「……はぁ?」
シンの目が丸くなって、間の抜けた声が口から漏れた。「うん、ボクその反応正しいと思う」……って、聞こえてるからね、マオ・マオ。
その瞬間。
チュインッ
何かを引き裂くような甲高い音がして、足下の鉄板がめくれた。
やばっ。さすがに武器をどっかから持ってきたみたいだ。
シンがホクトくんの頭を抑えて伏せさせていた。こういうときやっぱりシンは早い。
「ちっ、動くぞ!」
「ナナセ、船はたぶんあっちだ」
伏せさせられたホクトくんが顔を上げる。焦りの滲んだ顔は、この機会を絶対逃したくないって書いてあった。
そう、そうだよね。あたしにとってはいきなりだけど、ホクトくんは違う。
ずっとずっと、この日を待っていたんだ。
「分かった、行こう!」
「おいっ、ちょ……」
ホクトくんの手を取って立ち上がらせる。シンが戸惑った顔のまま、あー、くそう、とつぶやいた。くしゃくしゃっと短い髪をかき回す。
「分かった、付き合う!」
「え?」
「お前を放っておけるわけねえだろうが馬鹿っ! お前は俺の相棒っ」
――シン、最高にいい奴!
あたしは大きく笑って頷いた。
「ありがとう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます