Latteのような幸せを③
その瞬間、時が止まったかのように空気が凍っていた。
「だから、我が社の喫茶店として、この店を君ごと売ってくれないかと言っているんだよ」
「幾ら出してくれるんですか?」
「そうだな、君の腕は確かなものだ、だから、少なくとも1億、いや、3億出そう」
「……断れば?」
「この店を潰すために最大限の努力をする」
「……アンタ、本当にクズだな」
「経営とは、そう言うものだ」
「そうやって、美葉音のことも殺したのか」
「……、何を言っているんだね、君は」
そう、コイツと俺は5年前からの因縁があった。
俺が何故、この世に絶望し、落胆していたのか……
5年前、つまり俺がまだ探偵としては2年目、そして、美葉音と俺がコンビで活動し出してから1年が経った時の話だ。
「JEC内部調査依頼?」
「はい、我々人事部としては今の我が社には今後過労死する人が出てもおかしくない状況であることを危惧しており、更に、今回の調査も社外の者を潜入させることの方がリスクが少ないので、ここ1年で活躍されている過波さんに、依頼したいと思い、訪ねさせて頂きました」
目の前にいるのは、この国の誰もが知っているほどの大企業であるJECの人事部長なのである。
「幾ら出せます?」
「ざっと5000万円が最大ですね……、どうでしょうか?」
「わかりました。潜入は……」
「美葉音さんでお願いしても宜しいでしょうか?」
「出来るか、美葉音?」
「出来るかは、不安ですが、やるだけやってみます。」
「じゃあ、この1件を頼むよ。俺は警察の方の協力に行くから」
「では、よろしくお願いします」
そう言うと人事部長は事務所を出て行った。
「去紅舞、私……」
「大丈夫、調査期間は2週間だし、心配するな」
「……わかった、私、頑張るね」
その日以来、俺達は顔を合わせることは無かった。
まあ、正直に言うと、事務所に帰る時間が無いくらい警察の依頼が忙しく、次に俺と美葉音が顔を合わせたのは、彼女の葬式であった。
「……ずっと不自然だと思っていたんだよ、葬式なのに遺体と顔を合わせることが出来なかったこと、そして、警察内部に居た俺に何も情報がなかったこと、そして、お前達が結婚していたこと、これら全てに!!」
「それで、私が殺したと?八つ当たりが過ぎはしないかな?」
「そう思われても結構、だって、俺がお前を殺したところで証拠なんて残りはしないからな」
「さっきのコーヒーに毒でも盛っていたのか?」
「まあ、近からず遠からずだな……、お前は俺のオリジナルブレンドを飲んだ。この事実が大事なのであって、それ以外必要ない」
「ほお、それは怖い。では、最後に私からも1つ事実を教えてやろう。確かに私は彼女を殺したよ。私の手の中で苦しそうだったが、儚くも美しい花のように散っていった……」
嘉味田は、スーツの胸ポケットに手を入れ、銃口を俺に向けてきた。
「偽物だと思うか?私には貴様への明確な殺意がある。だが、今更警察を呼んだところで何も変わらないがな」
「……つくづくムカつく野郎だぜ」
俺にはコイツの残り寿命が見えている。
あと20年か……、15年奪って5年前のあの日の事故現場に飛ばすか
「お前、5年前の事故現場について覚えているか?」
「ああ、覚えているとも!!あそこに飛び散った血は、とても綺麗だった!!」
「そうか、じゃあ、さよならだ」
「どういう意……」
その瞬間、俺は指を鳴らし、嘉味田を5年前の事故現場に飛ばした。
「これで、良かったんだよな、美葉音……」
俺はカウンターの引き出しから新聞を取り出す。
『殺人犯、被害者女性殺害後自殺か?』
そこには、本来であればトラックと女性の衝突事故の記事があった。
「……っ、ぐっ……、なん……で、なんでお前だったんだよ……、っうぁぁぁぁ……」
溢れた思いが走馬灯の様に流れていく。
花見の思い出も、夏祭りの思い出も、依頼が全く来なくて2人パチンコで大負けした思い出も、全てが流れていく、そして、最後に流れて来たのは、
「探偵さん、私の依頼受けてくれる?」
美葉音の優しい声が俺の鼓膜を刺激し、流れて行った。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!……」
静寂が包んでいた店内で男の泣き声が永遠の様に響いていた。
________________________
(あとがき)
皆さんこんにちは、汐風波沙です。
最近は気温も少しずつ下がり、日中との気温差で、私も風邪気味でございます。
さて、第6話、Latteのような幸せを
どうだったでしょうか。
ちなみに過去のお話で出てきた美葉音さんとこの世界線の美葉音さんはかなり人格が違います。
シリアス展開になったのは、久しぶりで、書いていて自分でもこの後どうなるんだろうっとなりながら執筆しておりました。
また、私YouTubeなどでゲーム配信等を行っておりますので、良かったらそちらの方もよろしくお願いします。
良かったら、感想を教えていただけると、今後の執筆活動への励みになるのでよろしくお願いします!
以上、汐風波沙でした!
また、次回の更新で〜!
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