7杯目 結局過去に戻りたいのは
目が覚めると、俺の目には店の天井が映っていた。
「……あのままここで寝てしまったのか」
床で寝ているはずなのに、頭にはとても柔らかい感触がある。
「……すぅ……すぅ……」
寝息が聞こえる方をむくと、綾香の顔があった。
(寝顔、可愛すぎるなこの子。ずっと見ていたい。)
数分間、俺は綾香の寝顔を堪能することにした。
そして、頭に当たる天国のような感覚を噛み締めながら、俺は綾香の寝顔を見ている。
「やっぱり、顔が整っているから、寝顔すら可愛く見えちまうのかな……」
じっと見つめていると、
「……んっ、ふあああ……」
「おはよ、綾香」
「え、マスター!?……あ、私まだ夢を見てるんですね、でも、足が痺れてる感覚はありますね……」
「現実だからな、と言うよりも、早く退く……」
「待ってください!!もう少し、もう少しでいいので、このまま……」
そう言うと、綾香は俺の肩を押さえつけた。
「……、わかったよ、あとどのくらいこのままでいればいい?」
「マスターが、素直になるまで」
「それじゃあ、一生この体勢の可能性があるな」
「ふふふ、でも、マスターが私のものになるのなら、それもありですね」
目の光が消えている状態で俺の頭を撫でる綾香。
見た目がヤンデレ彼女なのだが……
「私、どんなに頑張ってもマスターに私の気持ちが届くわけじゃないし、マスターの気持ちを私に向けることだって不可能なのは、知ってました」
「……」
そのまま、俺は頭を撫で続けられる。
「阿阪 美葉音さん、その人を助けたいんですか?」
「でも、あの場所のイメージが出来ないから、過去に飛ぶことが出来ない」
「引き出しの新聞をちゃんと見ましたか?犯人の家の写真が掲載されてますよ」
「……それ、本当なのか?」
「はい。でも、切り取らせてもらいました」
「どうして?」
「選んでください。今過去に戻れば、私の妹は消えます。そして、私達も赤の他人に戻るでしょう」
「それは……、でも!!」
「でも、何ですか?あなたは阿阪さんを助ければ、探偵に戻って、この店は無くなります。そして、私も、過去の、平行世界線の記憶を保持する力も失います」
「え!?それは聞いていない……」
「言っていませんでしたね、私の妹を救って頂いた時に記憶を保持することができるようになったんです。なので、マスターと一緒にいても過去に戻った人の事を忘れなかったのは、その力のお陰です」
「やっぱり、そうだったのか……」
「はい、そうだったんですよ?」
「そうだったんだな〜……、なら、俺の言葉で世界が変わっているとかも分かるの?」
「はい、平行世界が動けば、平行世界線上の私の記憶が入り込んでくるので、大体のことは分かります」
「そっか、なら、俺は宣言しないといけないな……」
俺は、今俺がやりたいことを宣言した。
「俺は美葉音を救って、もう一度喫茶店を開く。この道は俺が進む道であって、それ以上でもそれ以下でもない。心配するな、何回だって俺がお前を救ってやるよ」
俺は綾香の目を真っ直ぐに見て、言った。
その瞬間、
「ッ……」
綾香は、目を大きく見開いて、
「今、世界が、記憶に修正がかかりました。大丈夫です、きっと上手く行きますから、行ってきてください!!」
「ああ、行くよ、行ってくるよ!!」
「でも、ひとつ約束してください。必ず、私と出会ってくださいね!!」
綾香は、1枚の写真を俺に渡した。
そこにははっきりと嘉味田の部屋が映っていた。
「じゃあ、行ってくる。必ずもう一度会おうな」
「はい、行ってらっしゃい!!もう一度初めからやり直しましょう」
俺は目を閉じ、5年前の嘉味田の部屋をイメージし、心の中で呟いた。
『時よ、遡れ』
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