Latteのような幸せを②
このセリフもテンプレートになりつつあるな……。
きっと目の前にいる男性の注文する品など、1つしかないのに、俺は言う。
「いらっしゃいませ、本日は何を淹れましょうか」
客は俯いていたが、その瞬間だけ顔を上げ、
「オリジナルブレンドを1つ」
「かしこまりました。少々お待ちを」
俺はオリジナルブレンドの豆の袋を取り出し、一人分を計量し、焙煎する。焙煎が終わると、次はコーヒーミルに入れ、荒削りにする。ドリップフィルターに入れ、蒸らしながらコーヒを抽出していく……
抽出を始めて、店の中にはコーヒーの香りが優しく包み込むように香っていた。
「お待たせ致しました、オリジナルブレンドです」
そう言い、俺は客にコーヒーを出す。
「ありがとうございます……」
客はそれを受け取ると、1口啜るようにして飲み、
「とても美味しいです。少し苦くそれでも深みのある、人生っと言う味がします」
「それはどうも」
俺は、客に出したコーヒーの余りをカップに注ぎ、厨房内に置いている椅子に座った。
「それで、今日はどのようなお悩みですか、
「私を知っていたのか、少し意外だったな」
今、俺が相手にしているのは、嘉味田社長、大企業であるJEC(JAPAN ELECT company)の現在の社長である。
「あの、まだ定時の時間ではないような気がするのですが?」
「今日はここに来るために1時間早く出勤したんだよ。久しぶりだな、去紅舞くん。」
「そうですね、あの日以来ですね」
「そうだな、私の妻、そして、お前の元相棒の阿阪美葉音の葬式以来だな」
そう、俺達には確かな溝がある。
1人の女を奪い合う予定だったが、あの時はもう先が見えていなかったから、彼女を諦めたが、何故か阿阪は、死んだ。
理由は、交通事故となっているが、その時に戻ることは、絶対に出来ないのである。
「そう言えば、妻が生前奇妙な事を言っていたのを思い出して、君を訪ねたんだよ」
「何を言っていたんですか?」
そう言うと、嘉味田社長は席を立ち、窓辺に向かった。
「この店はいい店だ。年季を感じるが、とても落ち着く。長年染み渡ったコーヒーの香りと料理の匂い。どれを取ってもこの店は無くなってしまうだろう……」
「何が言いたいんだよ?」
「すまない、前置きが長すぎたな、私の悪い癖でね……」
「早く要件を言ってくれ」
そう言うと、社長は去紅舞の前に立った。
「去紅舞くん、いや、喫茶店
月日の薫り 店主 過波去紅舞さん、この店ごと私に買われる気はないか?」
「は?」
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