4杯目 今は変わらない

 ここは、『喫茶店 月日の薫り』

で、俺はこの喫茶店のマスター過波 去紅舞だ。

「ど、どういうことですか!?説明してくださいっ!!」

「とりあえず、落ちつ・・・・・・」

「この状況で落ち着いていられますか!!だって、んですよこの店から」

「いや、過去に戻ったんだ!!」

「えっ!?」

今見は驚いた表情をしていた。

それもそうだ、いきなり過去に戻ったなんて言われても意味がわからないだろう。

「・・・・・・詳しく聞いてもいいですか」

「ああ、この喫茶店 月日の薫りのもうひとつの顔、過去変える喫茶店について」

それから俺は、今見に全てを話した。

俺の過去、そして、今まで戻ってやり直してきた人達のことも。

「私、あなたのこと誤解してたみたいですね。ずっと、私は、あなたがなにか隠していると思っていましたが、違いました。あなたは、誰よりも人を思い、誰よりも優しく、強い人だったんですね。だから、私も惹かれたのかも・・・・・・」

「それは、どういう・・・・・・」

「マスター、私も過去に戻ってやり直したいことがあるんですけど、いいですか?」

「もちろんだとも。オリジナルブレンド1つだな?」

「はい!!」

それから俺は、いつものようにオリジナルブレンドの配合を始めた。

「なるほど、その割合で混ぜるんですね〜。勉強になります」

「まあ、見てもらうのは結構だけどさ、他の店とかでこれ作ったりしないでよ?」

「まさか〜、そんなことしませんよ。安心してください」

「そ、それならいいけど・・・・・・」

正直、心配しかない。

配合が終わり、次は焙煎。

その後、コーヒーミルを使用し、少し粗めに挽く。

そして、最後にドリップ。ゆっくりと時間を掛けて、反時計回りにお湯を注いでいく。

「完成だ」

「こ、これが幻のオリジナルブレンドコーヒーですか・・・・・・」

「どうぞ」

「では、いただきます!!」

この子は、コーヒーに目がないようだ。

すると、今見は啜るように一口だけ口の中に含み、

「このコーヒー、他のコーヒーと入れ方違うだけなのに、どうしてこんなに美味しいんでしょうか・・・・・・」

「それ、褒めてるの?」

「はい、もちろんですよ!!」

「そ、そうなのか・・・・・・」

やっぱり、可愛い子から褒められるのは照れるな。

「ところで、過去に戻りたい理由、聞いてもいいか?」

「そうですね、話しますね」

「ああ、頼む」

今見は、コーヒーを1口飲んだ。

「私には、双子の妹がいたそうです。」

「うん」

「そして、妹は母が妊娠8ヶ月の時に、ひったくりにあって、転んだ時に、運悪く命を落としたそうです。」

「・・・・・・」

「それで、私は妹がいたら、どんな性格になってたんだろうと思っています。」

「君の理由は、妹に会ってみたいということでいいのか?」

「少し違います。私は、母を助けて妹の命を守りたいっていう、姉としての気持ちです」

その目には、確かな意志を感じた。姉として、そして、家族としての助けたいという強い思いが。

「だか、過去に干渉するには、俺も君と一緒に過去に戻らないといけない。そして、干渉したあと、君は、この時間軸には戻って来れない。それでもいいんだね?」

「はい、そうだとしても、また、この喫茶店と出会って、またここで働きたいです」

「じゃあ、気長に待つとするか」

「ところで、過去に干渉するなら何か代償があるんですか?」

「ああ、寿命だ。だから、戻るのはいいが、俺には残りの寿命は限られている。だから、店員割でも10年は貰わないと、俺が死んでしまう」

「そうですよね、わかりました。いいですよ、10年分くらいなら、妹の命と比べたら大したことないです。始めてください」

「わかった。じゃあ、コーヒーを全部飲み干してくれ。」

「わかりました。」

今見は、もったいなさそうに残っていたコーヒーを飲み干した。

「これでいいんですか?」

「ああ、それじゃあ、目を閉じて、俺の手を握ってくれないか?」

「握るんですか?」

「そうしないと俺が過去に干渉できない」

「わかりました。じゃあ、失礼します・・・・・・」

今見は、渋々俺の手を握った。

「目を閉じたら、その日、の情景を思い出してくれ」

「思い浮かびません」

「いや、君の記憶の奥底にはあるはずなんだ。強く思うんだ、その日の情景を」

「はい・・・・・・」

なるほど、こういう状況だったのか・・・・・・

俺は、過去を見ることもできる。だから、同様に目を閉じて、タイミングを測る。

「じゃあ、戻るぞ!!」

と言った瞬間、俺と今見は過去に飛んだ。












「どうやら、成功したようだな。」

「私、いますけど成功なんですか?」

「ああ、俺がこの時間軸から消えたら、お前は過去に戻るからな」

「そうなんですね」

「なにか不満なのか?」

「いえいえ、てっきり、過去に戻って記憶が保持された状態でまた生まれるのかなと思ってたんだけど、外れたなーと少しガッカリしてるだけです」

「そ、そうか・・・・・・」

やっぱり、今の子分からない

「そろそろ時間だ。ほら、お前の母さんが来たぞ」

「ほんとだ・・・・・・、あ、後ろにいる人、あの人怪しい!!」

「お前は出るな、俺が止める。お前は、ここで見てろ。過去に干渉できるのは、俺だけだからな。」

そう言って、俺はその場を離れた。

そして、ひったくり犯の後方に回り込み、距離を詰めた。

それに気が付いたのか、ひったくり犯は、獲物を諦めるように逃げ去って行った。

それを確認し、俺は、今見の待つ木陰に戻った。

「見てましたよ、後ろから圧をかけるなんて、マスター凄いですね」

「いや、今回はたまたまだ。どうする?俺はもう時間だから戻るけど・・・・・・」

「待ってください!!最後に一つだけ、また、私がアルバイトの募集で店に来ても採用してくれますか?」

「ああ、その時は、喜んで採用してやるよ!!」

そして、俺は笑った。

「ありがとう、ございます」

今見がそう言った時、時間が切れて元の喫茶店に戻った。













「・・・・・・、戻ってこれた。初めてやってみたが、意外と上手くいくんだな」

俺が店に戻ると、ふたつのカップと残っているオリジナルブレンドがあった。

「覚めちまってるじゃねぇか、まあ、いいか」

俺は、残っていたコーヒーを飲み干した。

カランコロンカラン

入口が開いた音が聞こえ、2人の女の子が入ってきた。

「いらっしゃい、今日はもう終わった、んだけど・・・・・・」

そこには、今見 綾香と、もう1人は綾香とそっくりな子がいたのだ。

「お久しぶりです、マスター。バイトの募集できたんですけど、2人、雇うことって出来ますか?」

「ああ、もちろんだよ。2人とも、喜んで採用してやるよ!!」

喜びのあまり、俺の目からは涙が溢れ出した。

こうして、今見姉妹が俺の喫茶店のスタッフに加わり、俺たちの喫茶店の日々は続いていく。














_____________________

(あとがき)

皆さんどうも!!汐風 波沙です!!

久しぶりの更新ですね。過去喫茶、ついに完結となります。

理由としては、この、幸せ展開で終わらせたいという、自分の願いが具現化したものです。

この終わり方なら、まだ続いて欲しいと感じる方もいらっしゃると思いますが、ここで1度完結です。

最後まで、この作品を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

そして、これからも汐風 波沙の作品をよろしくお願いします!!

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