三杯目 新たな出会い

ここは『喫茶店 月日の薫り』で、俺はこの喫茶店のマスター過波 去紅舞だ。

今日は、入ったばかりの新人アルバイトを紹介しよう。

彼女の名前は、今見いまみ 綾香あやかと言う。紗希とは女同士ということもあり直ぐにうちとけたようだ。

だが、なぜ俺とは話してくれないんだ!!

面接の時はかなり話してくれたのに、何故なんだ!!

やはり、おじさんとは話したくないというわけなのか?

俺まだ二十代なんだけどな・・・・・・

「あの、マスター?ひとつお聞きしてもいいですか?」

「・・・・・・あ、ああ、なんでも聞いてくれ。」

「ありがとうございます。なぜマスターはこの店を開店なさったのですか?」

「あ、それ私も聞きたい!!」

「そういえば、紗希にも話していなかったな。そうだ、長くなりそうだからコーヒーを飲みながら話そうか。」

俺はいつものようにコーヒーを淹れ始めた。

「そういえば、コーヒーの入れ方も独特ですよね。」

「そうなの?」

「はい、ほかの店ならいちいちコーヒーフィルターを変えながら淹れないですよ。」

「そうなの?知らなかったー。だからほかの店のコーヒーが物足りなかったのかー」

「まあ、この淹れ方も今から話すことに繋がるんだけどね。はい、お待たせ。」

「て、店長、これキリマンジャロじゃないですか!!」

「はい、そうですね。なぜこんな高級品を?」

「なぜも何も、君のアルバイト開始祝いだよ。」

「あ、そういえば私の時は、あの高いアイス買ってきてくれましたよね」

「ああ、だけど綾香さんは面接の時に、コーヒーが好きだからここで働きたいというのが志望動機だったからね。」

「そうだったの!?」

「はい。でも、こんな歓迎の仕方はこの店が愛されていることの証拠ですね。」

「そうかもな。じゃあ、コーヒーが冷める前に話すとするか」

俺は淹れたてのコーヒーを1口のみ、

「これは俺とこの店の前マスター、つまり、俺の師匠かと出会った日のことから始めるぞ」

俺はそう切り出した。












5年前、俺は特にやることがなくて、街をぶらぶら歩いていた。

すると、どこからかコーヒーのいい香りが漂ってきて、その匂いをたどるように、この店に入った。

「いらっしゃい。好きなところに座ってくれて構わんよ。」

とこの店のマスターらしき人が作業をしながら言った。

俺はカンター席に座った。

「注文は?」

「オリジナルブレンドをひとつ」

「は、ははは、はははははははっ!!」

「ど、どうかしたんですか!?」

「いや、すまない。お客さん、この店にはオリジナルブレンドって商品はないんだよ。すまんな」

「そ、そうなんですか・・・・・・」

「でも、んだよ、お客さん」

「えっ!?」

「お客さん、見たところ働くところないんだろ?」

「な、なんでわかったんですか!?」

「わしはもう長いこと人を見てきておる。だから、お前さんは何かを捨てて途方に暮れているというのが見える」

「・・・・・・当たってます。なんでわかったんですか?」

「長年の勘だ。やはり、長生きはするものだな」

この時俺は、

この人から色んなことを学べば、自分はさらに成長出来る。

と思った。

「マスター、俺をこの店で働かせてくれ」

「もちろんいいとも」

それから俺は先代と3年間、コーヒーを淹れる修行をした。

最初の方は、

「不味い。これじゃあ、お客さんに出せないぞ!!」

なんて注意されていたが、そんな俺も一年も経てば、

「まあ、ギリギリ合格だな。ここまでくればお客さんに出せる」

というようにレベルが上がっていっているのだ。

そして二年経つと、

「よし、じゃあオリジナルブレンドを作るとするか。」

「え、それって……」

「ああ、もうお前さんは正真正銘の一人前だ。」

「ありがとうございます、師匠‼」

こうして俺たちはオリジナルブレンドを作り始めた。

それから一年が経ち、

「……し、師匠、これはっ‼」

「ああ、完成じゃ。わしらのオリジナルブレンドの」

「よっしゃー‼」

「こうしてわしが生きているうちにオリジナルブレンドが作れてよか……」

バタンッ

「し、師匠っ‼早く、救急車を呼ばないとっ‼」

俺は急いで救急車を呼んだ。





診断の結果、師匠は心筋梗塞を起こし、今は一命をとり留めたが、持ってあと数時間だそうだ。

俺は師匠と話をしようと思い、病室に向かった。

「師匠……」

「去紅舞、君に頼みたいことがある」

「何でも聞きます」

「実はわしには家族がおらん。だから、あの店を継ぐ者がおらんのだ。」

「……」

聞かなくてもわかる、店は閉店するのだろう。

「だから、君が?」

「……っ‼」

こんなの、こんな状況じゃ、

「わかりました。あなたの店を継がせてもらいます」

「ありがとう、これでわしの気掛かりが無くなった……」

ピー

病室に響き渡る心肺停止音

「どうしましたか⁉」

看護師や医者が師匠のもとに集まり、心肺蘇生を施している。

「……てください」

「必ずお父様は助けますからっ‼」

「もうやめてあげてくださいっ‼」

「「「……」」」

その場にいた人全員が静まり返った。

「師匠は、俺の父親でもないし、家族もいない。でも、俺を情熱かけて育ててくれたし、確かに厳しいことを言われたけど、それは俺のためだってわかってるっ‼」

「……」

「でも、やっと二人で完成させたオリジナルブレンドを喜んでくれた。そして、さっき俺には、『もう気掛かりが無くなった』と言って息を引き取った。だから、安らかに休ませてあげてください。お願い、しますから……」

俺はその場に泣き崩れたらしい。

「……わかりました。18時14分、お亡くなりになられました。おくやみ、申し上げます。」

「うわあああああああっ」

俺はその後1時間ほど病室で泣いていたそうだ。

翌日、店の常連さんと一緒に葬儀を行った。

葬儀が終わり、俺は店に戻った。

店には、道具が昨日のままになっていた。

俺はそれを片付けるため、カウンターの中に入った。

カランコロンカラン

見せに誰かが入店した音がした。

「すみません、今日はやってないんです。」

「私は弁護士です。ここの店主の方が、亡くなったら、この店にいる若いのに遺言書と、この手紙を渡すようにと言いつけがありましたの、それをお渡しに伺いました。」

「ありがとうございます。」

俺は遺言書と一通の手紙を受け取った。

「では、私はこれで」

と言い、弁護士の方は店を後にした。

遺言書には、この店の譲渡や、その他遺産について書かれていた。もちろんすべて俺にだ。

そして俺は、手紙を開いた。

『拝啓 過波 去紅舞 殿

この手紙を呼んでいる時、わしは多分もうこの世にはおらんのだろう。

わしはお前さんと過ごした3年間は、とても有意義なものになった。

楽しかった。そしてありがとう。

さて、わしから一つ頼みがあるのじゃ。

この店をどうか続けてほしい。

じゃが、オリジナルブレンドは、注文がない限りは出すなよ。

どうかこのわしと過ごした3年間を忘れずに店を続けてくれ。

それがわしの唯一の頼みじゃ。

では、またいつか会えるといいのう。

敬具 お前さんの師匠より。』

「師匠……」

俺は堪えていた涙があふれだした。

そして、もう一枚便箋がある事に気が付いた。

『追伸

引き出しの中をちゃんと確認するように。』

俺は引き出しを開けた。

「……まさか、こんなものを残してくれるなんて、さすが師匠だ。」

そこには、コーヒーの配合量や、入れ方、そしてメニューのレシピなどがすべて入っていた。

「ああ、わかってるよ。必ず、この店を盛り上げて、あんたに恩返しさせてもうよ‼」

こうして俺は、またゼロから始める事にした。





「そして今に至るというわけだ。」

「……」

「うぅぅ……」

「二人ともどうしたの?」

「まさかこの店にそんなドラマのような物語があったとは思っていませんでした。」

「本当だよっ‼店長、私もっと頑張りますっ‼そしてこの店をもっともっともーっと盛り上げます。」

「あ、うん、ありがとう……、そろそろ時間だし、2人とも上がっていいよ。」

「ありがとうございます。コーヒーとてもおいしかったです。」

「じゃあ店長、これからもよろしくね?」

「ああ、2人とも、これからもよろしくな。」

こうして俺たちは再スタートを切ったのだ。








_________________

(あとがき)

皆さんこんばんは、汐風 波沙です。

久しぶりに更新します。

最近は、あまり描きたくても書けない状況が続いたので、久しぶりに更新できて嬉しいです。

最初から呼んた事のない方は、目次からプロローグから読むことが出来ますので、良かったら、読んでみてください。

よかったら、作品のフォロー、応援、レビューいただけると幸いです。

今後とも、この作品そして自分の書いている作品をよろしくお願いします。

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