二杯目 昔と今

 ここは『喫茶店 月日の薫り』で、俺はこの喫茶店のマスター過波 去紅舞だ。

今日は俺の店で働いている、アルバイトの子について話そうと思う。

その子の名前は、夜桜よざくら 紗希さきという普通の大学生だ。

他の特徴とするならば、純粋に可愛いくらいだろう。頑張って働いてくれるし、何よりも紅茶を淹れるのが上手である。なので、このまま正社員として働いてほしという願いがある。

なぜ誘わないのか?

それは断られるのが目に見えているからだ。

言ってみないとわからないと言う奴もいるかもしれないが、俺はこの店を構えて5年、俺の人を見る目には磨きがかかったに違いない。

だから、分かるんだ。

彼女は、きっとこの店には残らない事も。

彼女にも、夢があるはずなんだ。俺はその夢を叶えるまでは、この店で雇っておく予定だが、多分その夢はもうすぐ叶うだろう。その夢が軌道に乗るまでは、バックアップしてあげないとな。

「店長〜、今日時間なんであがりまーす!!」

「ああ、お疲れ様。今日もありがとうね。」

「こちらこそ、貴重な体験ありがとうございます。」

「貴重って、うちは普通の喫茶店だよ。」

「たしかに普通の喫茶店ですね。」

「だろ?」

「ですが、この店には他の店にはない雰囲気がありますよ。」

「どんなだよ……」

「例えばですけど、店長の淹れるコーヒーの香りは、会話に花を咲かせることができるとかですかね。」

「……真っ直ぐに褒められると、なんか恥ずかしいな。」

「褒めてませんよ、店長のことは。私が褒めてるのは、店長の技術だけですよ。」

「ウッ!!それはそれで刺さるな・・・・・・」

男って意外とナイーブだからな。

「フフっ、店長ってやっぱり面白いですね。」

「おい、俺だって一応年上なんだぞ!!全く、本当にお前は〜」

「あ、店長が怒った〜!!これは急いで帰らないとー」

なんと、一瞬の隙をつき彼女は店の入口まで逃げていた。

「じゃあ、気をつけて帰れよ〜」

「はい、店長お疲れ様でしたー」

「ハイハイ、お疲れ様〜」

こうしていつも俺をイジって帰るのだ。

「騒がしい奴がいなくなって、俺一人の時間か・・・・・・」

俺は一人の時、いつもオリジナルブレンドを自分の分だけ淹れて、今日もいい日だと感じている。

でも、こんな日は昔を思い出す・・・・・・







5年前、俺はこの力を使って犯罪を未然に防ぐために警察に協力する探偵だった。

「はぁはぁ、んっはぁ・・・・・・」

今、俺は警察から逃げている。

何故か

そんなもの決まっている。

俺が協力しなくなったからと、1週間前に起きた刑事殺人事件の犯人として指名手配されているからである。

「はぁ、過去に戻ろうにも、寿命が足りない。」

通行人から寿命を奪えば足りるのだが、それは、殺人と同じだからしたくない。

「警察も、俺の寿命が短くなっていることは知らないはず・・・・・・、このさき、どうすればいいんだっ!!」

最悪だ。

この状況は、正直詰んでいる。

どう打開すればいい どう打開すればいい どう打開すればいいどう打開すればいい どう打開すればいい

「・・・・・・そうか、俺をこんな状況にしやがった真犯人から寿命を奪えばいいんだ。その奪った寿命で過去に戻り、全てやり直す。」

それからは警察から逃げながら、犯人を探すことにした。何年かかるかわからないこの捜索が終わったあと、俺が過去に戻ればどの程度寿命が減るのかはわかったこっちゃない。

でも、今俺がやなくちゃいけないことはきっとこれなんだと思う。







それから1週間ほどたった。

俺は、この事件の謎が解けた。

いや、最初からわかっていたことなのかもしれない。

だから俺は、犯人をある喫茶店に呼び出した。

そして俺は1人でその喫茶店で先に待っている。

カランコロンカラン

誰かが入店したのを知らせるベルがなった。

「私を呼び出すとはお前も偉くなったものだな、去紅舞」

「いえいえ、俺はあんたらから追われている身ですから、呼び出す以外方法がないんですよ、三枝木刑事」

「それはそうか。ところで、私を呼び出しだって事は、自首する気になったのか?それとも、タイムリープ能力を私たちのために使うことにしたのか?」

「残念ながら、全てハズレですよ。」

「はぁ?」

「いやいや、実は例の刑事殺害事件なんですが、犯人がわかりましたので、報告しましょうかなとあなたを呼び出したのですよ。」

「ふざけるな!!その事件の犯人は、お前しかいないはずだろ!!」

「まあまあ落ち着いてくださいよ、コーヒーでも飲みながら話をしましょうか。マスター、オリジナルブレンドをふたつお願いします。」

「・・・・・・かしこまりました。」

そう言うと、この店のマスターはコーヒーを淹れ始めた。

店がコーヒーの香りで充満し、とても心地がいい空間に変わった。

「お待たせ致しました、オリジナルブレンドコーヒーです。」

「ありがとう。・・・・・・うん、いつも通り美味いよマスター」

「ありがとうございます。では、ごゆっくり」

そう言うと喫茶店のマスターは、店の厨房に戻った。

「三枝木刑事も飲んでくださいよ。美味いっすから。」

「じゃあ、いただこう。・・・・・・ああ、これは確かに美味い」

「では、話を戻しましょうか。まず、犯人は、俺が過去に人を飛ばす時の代償を知らない。そして、俺が、俺自身を過去に飛ばすことが出来ないと思っている。さらに、あの刑事が手柄をあげることを気に食わない人。この3つに当てはまる人が、犯人です。」

「それで、そんなやつ警察の中じゃかなり多いと思うが?」

「そうですね。だから、確実な証拠を摂るために過去に飛んで見てきました。」

「・・・・・・!?」

俺は、初めは警察に協力する前に戻れば何も起きないと思っていた。だが、犯人を見つけるだけならわざわざ寿命を大幅に削らずとも、1週間前まで飛べばよかったのだ。

そして、一週間前に戻り犯人が誰だか知った。

「さて、俺が今から犯人の特徴を教える。だからあんたは目を閉じて犯人を想像してくれ。」

「わかった。」

そういうと、彼女は素直に目を瞑り、

「いいぞ、はじめろ」

「あいよ、じゃあ、1つ目の特徴だ。1つ目は、犯人は女性だ。」

「・・・・・・続けてくれ」

「2つ目は、髪型。彼女は髪を結んでいて、黒髪だ。」

「・・・・・・次は?」

「3つ目は、俺に対する態度だ。彼女は、俺を上から目線で見下している」

「・・・・・・で?」

「最後に彼女のことは、あなた自身がいちばん知っています」

「・・・・・・わかった、犯人は私だ。」

「正解です。では最後に、その日の情景を思い出してみてください。」

「わかった。」

かかった!!

これで、こいつから寿命を奪い取れる。

「思い出せたぞ、次はどうしたらいいんだ?」

「これで終わりです。」

「それってどういう意味だ!?」

「そのままの意味ですよ。報酬は頂きました。」

「ほ、報酬って!?」

「あなたを過去に飛ばすんですから、あなたの残りの寿命74年分は、頂きました。あなたにもう用はありません。過去で後悔してこいよ!!」

「い、嫌ぁぁぁぁぁあ!!」

「残念ですが、時間です。さようなら、裏切り者さん。」

こうして、俺は追加で寿命を得る事ができた。

「マスター、お会計頼みます」

「はいよ、オリジナルブレンドコーヒー2つで300円です」

「ちょうどです」

「まいどあり、で、お前はどうするんだ?」

「過去に戻って、喫茶店でもしましょうかね。」

「なら、過去に戻ってからうちの店に来るといい。多分、わしは貴様を雇う。なんせ、人手不足だから」

「いいんですか?」

「ああ、もちろんじゃ。貴様のタイムリープとやらは、コーヒーのうまさによって成功率が上がるんじゃろ?」

「はい、そうですが・・・・・・」

「貴様、一週間前からこの店に入り浸っているではないか」

「ギグッ!!やっぱりバレていたんですか・・・・・・」

「わしが何年マスターやっていると思っているんじゃ」

「・・・・・・それもそうですね。じゃあ、過去に戻ったらお世話になります」

そう言って俺はオリジナルブレンドを飲み干し目を閉じた。

5年前のあの日を思い出し、時間の旅に出発した。


「行っちまったか・・・・・・」

やはり、わしは取り残されていく運命にあるんじゃろうな。

「あの若僧、いいバリスタになるだろう。お、時間じゃ。そろそろ閉店するか。」

そしてわしは、店を閉店した。


色々あったがなんとか5年前に戻ってこれた。

「さて、あの喫茶店に行ってみますかね。」

俺は、喫茶店 月日の薫り に向かった。









色々あったがなんとか5年前に戻ってこれた。

「さて、あの喫茶店に行ってみますかね。」

俺は、喫茶店 月日の薫り に向かった。









カランコロンカラン

誰かの入店で、目を覚ました。

「なんだ、寝てたのか。」

俺は目を覚まし、残っていたオリジナルブレンドを飲み干した。

「す、すみません!!バイトの面接に来ました!!」

「あいよぉ」

これが俺の過去であり、今である。

この喫茶店は俺にとってのかけがえのない場所であり、俺の仕事場である。







_________________

(あとがき)

皆さんこんにちは、汐風波沙です。

最近更新が遅れてしまい、すみません。

やっと書きあげることが出来ました。

良かったら、作品のフォロー、レビュー、応援をいただけると、ありがたいです。

これからも、この作品、そして自分の書いている作品をよろしくお願いします!!

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