不死身ファンタジア〜世界の終わりだ山田くん〜

ころぽっかー

新モンスター山田

 ぼくの目の前にぼくがいた。


 〝ぼくたち〟がいるのは、新宿駅の総武線各駅停車のホームだった。ぼくも、目の前にいるぼくも裸だった。まわりでは通勤客が騒いでいる。


 初老のビジネスマンは、スマホを取り出してぼくたちを撮影し、二十代のOLは両手で目を覆って泣き叫んでいる。女子高生たちは口元を押さえ、パーカー姿の大学生は目を丸くして立ち尽くしていた。


 彼らがパニックになるのも無理はなかった。


 ホームには、ぼくの血しぶきと臓物が飛び散っていたのだ。生臭さと鉄臭さが混ざったような匂いが立ち込めている。


 ぼくを跳ねた総武線先頭車両のフロントガラスは、ぼくの体から出たドス黒い液体と、ぬらぬらしたピンク色の腱のようなもので彩られている。


 そのピンク色の腱が、ぶるぶる震え出し、ぼとりと線路に落ちた。


 腱が膨れ上がった。肌色の饅頭のようなものに変わり、さらに大きく膨れた。


 黒色の毛のようなものが生えてきて、それはやがて小さな頭に変わった。土台のスライムのような肌色の塊は成長を続け、そこから赤ん坊のような、小さな手足が突き出した。小さな指が開いたり閉じたりする。


 頭の目が開いた。目はきょろきょろとあたりを見回すと、まっすぐにぼくを見つめた。


 その顔は、ぼくの顔だった。


 肉塊から突き出た手足はぐんぐん伸び出し、股間に陰茎が生え、臍の穴が開き、ついに新しいぼくが完成した。


 新しいぼくは線路に手をついて体を起こすと、あたりを見て口をあんぐり開けた。


 当然の反応だ。


 なにしろ、ホームも線路もぼくだらけだったのだ。


 少なく見ても十人はいる。しかも、バラバラに飛び散ったぼくの肉片は、あちこちでぶるぶる震え、膨れ、次々にぼくを生み出している。


 なにがどうなっているのか。


 ホームで電車を待っているとき、いきなり背後から突き飛ばされたのは覚えている。


 猛スピードで入線してきた総武線の運転手と目があった。


 彼は顔を引きつらせていた。彼が何をしようが間に合わない。ぼくにも彼にもそれがわかっていた。


 スキール音が耳をつんざき、数十トンはあろうかという車体が眼前に迫ってーー


 ーー覚えているのはそこまでだ。


 気づいたとき、ぼくはこうしてホームに立っていた。


 目の前のぼくがいった。


「なにが、どうなってるんだ?」


 その声は、いつも聞いているぼくの声より、ずいぶん甲高かった。


「声が違う」ぼくは呟いた。


 向かいのぼくが目を細めた。


「たしかに違う。君はぼくじゃないのか?」


「でも、喋り方はそっくりだ」


 向かいのぼくが頷いた。


「声がふだんと違って聞こえるのは、頭蓋骨内の反響がないからだ。だから、ほかの人が聞いたら、ぼくたちの声はいつもと同じなのかもしれない」


 さすがはぼくとぼく、話がどんどん進む。


「動揺してないね」と、ぼく。


「動揺はしてるさ。手足を振り回し、髪をかきむしって喚きたいよ。ただ、同時に、そんなことをしても意味がないってことも理解してるんだ」


「こんなときでも冷めてるのか」


「お互いにね」


 向かいのぼくがため息をついた。


「由紀は正しかったね。たしかにぼくはふつうじゃなかった」


 由紀には、つい昨日振られたばかりだ。


 いつもの通学路、いつもの歩道橋の上で彼女はいった。


「山田くんは、何かおかしいよ」


「は? なにが?」と、ぼく。


「わたしはいま山田くんを振ったんだよ? なのに、なんでそんなにフツーなの? 怒るとか、悲しむとか、そういうのはないの?」


「いや、もちろん悲しいよ」


「ううん。山田くんは悲しんでなんかない! キミはずっとそう! 怒るとか、悲しいとか、嬉しいとか、そういう心がないんだよ!」


 新宿駅のホームで、ぼくの向かいに立つ、もう一人のぼくがいった。


「たしかに、ぼくは昔から喜怒哀楽が薄いっていわれてたけど」


「こういう理由だったわけか」と、ぼく。「死んでも死なないんだ」


「死なないことを本能的に悟っていたのかもね。そりゃあ、芯からの恐怖が芽生えないわけだよ。恐れはすべての感情の源って言うからね。本質的なところで恐れがないから、ほかの感情の発達もどこか薄いんだ。うまく恋愛ができないわけだ」


 ぼくは頭をかいた。


「しかし、いくらなんでも動じなさすぎじゃないか? 自分が増えたのに平然としてるなんて。しかも、ぼくたちみんながそうみたいだ」


 ホームのあちらこちらで、ほかのぼくたちも、ぼくたちのように互いに話し合っていた。


 向かいのぼくがいった。


「彼は違うらしいね」


 見れば、いままさに誕生したばかりの新しいぼくが一人、泣き叫びながら人々を突き飛ばし、逃げていくところだった。


「ぼくのなかにも、人並みの心はあったわけか」と、ほく。


 ぼくは少しだけ嬉しかった。こう見えて、由紀の言葉が堪えていたのだ。


 ぼくはいった。


「ぼくがこうなって、父さんと母さんは大丈夫かな」


「どうかなあ。ぼくたちは少なくとも二十人はいる。全員を扶養できるとは思えないけど」


 そのとき、群衆の中で、誰かが「化け物」と呟くのが聞こえた。


 すべてのぼくたちが、声のした方を一斉に見た。


 化け物? そうなのか? ぼくはただ、ほんのちょっぴり不死性を持っていただけだと感じているのだが、人間とは根本的に異なる生物だったりするのか?


 ぼくたちのうち、さらに二人が現場から逃げ出した。線路の上を、裸のまま代々木駅方向に全力疾走していく。


「君は逃げないのかい?」と、向かいのぼく。


「逃げてどうするんだよ。それより、ちゃんと病院で調べてもらったほうがいい」


「学者は大喜びだろうね。人間サイズの不死生命は世界初の発見だろうから」


「ほかにいるのかよ」といったところで、先日読んだウィキペディアの内容を思い出した。粘菌の一種や、特定のがん細胞、微小生物のプラナリアは不死性を備えているのだ。


 向かいのぼくが頷いた。


 どうやら、向かいのぼくのほうが、ほんの少しだが頭がいいらしい。これはなんなんだ? 再生した部位の違いなのか?


 そもそもぼくはどこから再生したんだ?


 ぼくは自分の頭に触った。


 できることなら、脳からだったらうれしいのだけど。


 階段の方から笛の音が聞こえた。


 見れば、十人ほどの駅員が警官を伴って駆け下りてくるところだった。


 ☆☆☆☆☆


 警官たちは困惑していた。


 当たり前か。


 人身事故の現場に出向いたはずなのに、肝心の死体がなく、代わりに、同じ顔をした裸の男が二十人以上も右往左往していたのだ。


 比較的冷静な一人が、ぼくたちに服を貸すというアイデアを思いついたのは幸いだった。警官や駅員たちは上着を脱ぎ、ぼくたちはそれを腰に巻きつけた。


 警官たちが対応を協議している間、ぼくたちはホームの隅に固まっていた。


 駅員がホームを封鎖しようと、通勤客を上のフロアに追い込んでいく。通勤客たちは、羊のようにのろのろ動き、名残惜しそうに何度も振り返っては、スマホをぼくに向けてシャッターを切った。


 ぼくの一人が、線路を逃げたぼくのことを話すと、駅員が「そういうことは早くいってもらわないと!」と叫んで、携帯で誰かと話し始めた。


 ぼくたちは「すみません」と声をそろえていってしまい、その駅員はぶるりと震えた。


 ぼくは、あの少しだけ頭のいいぼくに話しかけた。彼は右腕にたっぷりと血が付いているので見分けやすい。


「学校に連絡したほうがいいよね? 遅刻するわけだから」


 頭のいいぼくが肩をすくめた。


「警官がしてくれるさ。ほら、あそのこぼくが聞き取りを受けてるみたいだし」


 彼が指差したところでは、三人のぼくが、それぞれ別々の警官と話していた。


「先生は、ぼくが増えたなんて話、信じてくれるかなあ?」


「大丈夫でしょ。大勢がぼくたちを撮影してたから。いまごろネットでバズってるよ」


「てことは、素っ裸のぼくが拡散してるの?」


「スマホで確認したいよなあ」


「そういえば鞄は?」


「線路から逃げた奴が、ひっつかんでいったよ」


「あいつ、どうする気なんだろ」


「きみならどうするのさ?」


「そりゃあ、ひとまず家に帰ろうとするんじゃないかな」


「なら、そうするんだろ」


 この、頭のいいぼくは冷静さもぼくより上らしい。


 ほかのぼくたちも、ちらちらと彼を見ている。


 みな、同じように感じているようだ。


 ひょっとして、彼こそ〝頭〟だったんじゃないだろうか。


 ◇


 警官たちがようやく方針を固めた。


 ぼくたちは引き連れられて階段を上がり、構内を移動して、新南口改札から外に出た。


 機動隊などが移動に使う青い輸送車が待ち構えており、全員で乗り込む。


 車は、すぐに高速にあがり、相当長いこと走った後、見たこともない病院の前で止まった。


 なかなかの大病院だ。ロビーがとんでもなく広い。ただ、それにしては患者の姿が見当たらないし、出入り口には自衛隊員が二名、警備についている。


 ひょっとして所沢の防衛医大なのか?


 白衣を着た医者が二人、車に乗り込んできて、ぼくを見て腰を抜かした。


 ぼくたちは警官の手でひったてられ、それぞれ別々の個室に押し込められた。テレビ付き、トイレ付き、シャワー付きの快適な部屋だったが、窓には鉄格子がはまり、ドアにも鍵がかけられている。


 ぼくは、ベッドに置かれたパジャマを羽織って、父さんと母さんを待ったが、いつまでたっても二人は来なかった。


 退屈しのぎにテレビを付けると、昔大好きだったヒーロー物の子供向けドラマが流れていた。原色のコスチュームを身につけたヒーローが、クモ怪人を叩きのめしている。


 ぼくはどっちなのだろう。

 不死の能力を得たヒーローか、それとも怪人か。


 チャンネルを回し、ニュース番組に合わせる。


 綺麗な女性コメンテーターが、中国の首席の来日について語っていた。昨年から続く両国間の緊張も、ようやく雪解けにむかうとかなんとか。


 それからトヨタ自動車の賃上げのニュースになり、さらに、大阪のたこ焼き屋の脱税のニュースにかわった。


 いつ、ぼくの映像が流れるかとドキドキしながら待ったが、裸のぼくが映ることはなく、そのまま天気予報が始まった。


 時間はどんどん過ぎた。窓の外では、ビル群の合間に夕日が沈み、夜が訪れた。


 部屋には誰も来ない。医者や看護婦すら来ない。

 扉に耳をあてたが、物音一つ聞こえない。


「すみません!」と声を張り上げたが、反応もない。


 どうなっているのか。


 みんなぼくのことを忘れてしまったのか?


 ぼくは簡素な椅子に座り、身を丸くした。


 このあと、どうなるのだろうか。


 学校生活に戻れるのか。

 友達はなんというだろう。不気味がるかな? いや、案外ふつうに受け入れてくれるかもしれない。


 ぼくの扱いは難しいだろうから、先生は、ぼくをまとめてひとつのクラスを作るかもしれない。山田クラスの誕生だ。


 ぼくは山田矢太郎だけど、みんな山田矢太郎だから、呼び方も決めないと。


 とりとめもなく考えているうちに、腹が減った。


 冷蔵庫を探ると、牛乳とあんぱんが入っていたのでありがたくいただく。


 しばらくすると急激な睡魔に襲われた。


 今日の疲れが一気に出たのだろうか。

 なにしろ、一度死んだのだ。

 いや、死ぬ前に再生したのか。


 ぼくは這うようにしてベッドに潜り込んだ。


 どれくらい時間がたったのか。

 目を開けた時、ぼくは手術台にくくりつけられていた。


 ◇


 視界に入るのは、手術用の無影灯と、無機質な緑色の天井だけだった。


 手足が動かない。頭もだ。


 肌に当たる感覚からしてベルトのようなもので固定されているらしい。


 必死に眼球を動かすと、部屋の隅に青い手術着を着た男が見えた。


「あの、すみません」


 ぼくの声に、男が顔をあげた。


「ん、おはよう」気だるげな声で言う。


「あの、なんなんでしょう。これ?」


「ん? 実験を始めるからね。きみが動かないようにさせてもらったんだよ」


 男が立ち上がる。かかしのようにひょろ長い。


「実験、ですか?」


「うん。きみが分裂増殖できる人間だというのは確認できたからね。なので、次の段階にうつらせてもらうんだ」


「は?」


「そう心配することはないさ。きみは、ほら、不死身なわけだから」


 医者が手を振ると、扉の開く音がした。看護婦がキャスター付きの棚のようなものを運び入れる。そこにはメスやドリル、ノコギリのようなものがズラリと並んでいた。


 ぼくは必死で手足を動かそうとした。


「じょ、冗談じゃないですよ! ここは日本ですよ!そんな人体実験が許されるはずがない!」


「んー、まあ、たしかに許されんだろうなあ。人権活動家の連中は、君たち一人一人に人権があるんだと叫ぶだろう。報道管制は敷いたが、君たちが何人いたかはネット経由で広まっている。一人でも欠けたら大ごとだ」


 ぼくは息を吐いた。


 医者がメスを手に取った。刃先が小さく輝いた。


「だから、ひとり増やさせてもらった」


 は?


「君は、二十一番目の君の小指だ」


 なに?


「君が睡眠薬で爆睡している間に、指を一本失敬したわけだ。大丈夫! 君の小指はすぐに再生したよ。で、君は小指の方から再生した二十二番目の君ってわけだ」


 ☆☆☆☆


「さてと、次は肝臓だ!」


 医師がぼくの腹の方で何かしている。ゴリゴリという音が手術室に響き渡る。四肢の血管から送り込まれる麻酔のおかげで痛みはないが、腹のなかで何か大切なものが切り取られていく感覚はあった。


 やめろ!やめてくれ!そう叫びたかったが、口に詰められた器具のせいで呻くことしかできない。


 医師が「よっこいしょ」といって、血のついた小さなグローブのような臓器を、ぼくの頭のすぐ横に置かれた円筒形のガラスケースに突っ込んだ。


 医師は手早くガラスケースに鉄の蓋をして鍵をかけた。


 どこかに置いてあるレコーダーに向かっていう。


「肝臓切除から五、六、七、八、変化あり」


 ケースのなかで、肝臓が風船のように膨らみ、ガラス壁にぶつかったところで成長が止まった。ガラス越しに指と爪が見えている。


 助手ーー年齢不詳の女性看護師ーーが、いった。


「先生、本体の方が再生を始めました。切除後、十二秒です」


 医師が頷いた。


「じつに興味深い。さきほどからの結果を踏まえるとこういうことかな? 微小な怪我については、対象の再生能力は発揮されない。しかし、指を失うなど〝器官の喪失〟については、ただちに再生が始まり、その速度は、個別の部位に対する生存ストレスに左右される」


 ガラスケースはすでに六つ目だった。


 すべて肌色の肉がみっちり詰まっている。


 一つ目は小腸の一部、二つ目は肺の一部、三つ目から六つ目まではすべて肝臓まるごとだ。


 助手がいった。


「不思議ですね。この再生力はいったいどこから来るのでしょうか? とても、この少年の体内に蓄積されたカロリーで間に合うとは思えないのですけど」


「いや、そもそも、この二十三番は二十二番の指一本から誕生している。エネルギーの基本法則を完全に無視しているよ」


「そんなことがありうるんですか?」


「現に目の前にあるじゃないか。彼の秘密を解明すれば、世界は一変する。不老不死など目じゃない。まったく新しい科学理論が生まれるさ」


 手術は延々と続き、ぼくの臓器は幾度も幾度も取り出され、ケース内に放り込まれた。


 医師の観察によれば、ぼくの再生が始まる最低単位は指の一関節分以上の大きさのパーツということだった。それ以下では、ふつうの人間の部位となんら変わることもない。時間が経てば腐敗も始まる。


 再生は眼球や脳でも行われた。


 もちろん、脳をいじられれば死ぬはずなのだが、おぞましいことに、ぼくは脳の三分の二近くを取り出されても意識が途切れることはなかった。


 医師と看護師はときおり休憩のために部屋を出て、また戻ってきて解剖を続けた。


 次第に時間の感覚が失われ始めた。


 痛みはないが、強烈な麻酔のせいか頭がはっきりしない。


 三日? いや五日は経ったころだったと思う。


 医師が「解剖はひとまず終了だ」といった。


 看護師がホッと息を吐く。


「もうクタクタです」


「ご苦労様。麻酔管理もたいへんだったろう」


「先生こそ。それで、このあとはどうするんですか? 二十二番は、二十三番同様、〝処理〟に回します?」


「いや、まだ確かめたいことは多い」


 二人はそういいながら部屋を出て行った。


 ぼくはガラスケースの中のぼくたちと共に取り残された。


 空調パイプがカタカタなる音だけが聞こえている。


 ぼくはいったいどうなってしまうのか。


 麻酔が脳にまで作用しているのか、考えがうまくまとまらない。


 あの二人はいつ戻ってくるのか。


 だれかぼくを助けにくる人はいないのか。


 ぼくは死ねるのか。


 どれくらい時間が経ったろうか。


 ぼくは思考が明瞭になっていることに気付いた。


 麻酔が切れたのだ。全身に感覚が戻っている。


 しかし、固定具が体を締め付けているので、相変わらず身動きはできない。


 頭皮が猛烈にかゆかった。


 尿意もすごい。


 医者たちは戻ってこず、ぼくは漏らすしかなかった。


 背中に生暖かな感覚が広がった。じつに不快だ。ただ、大の方でなかっただけましかもしれない。食事を与えられていなかったので、そちらは心配なさそうだ。


 食事!


 意識した途端、腹が鳴った。


 そして強烈な乾き。


 そこから何時間、いや、何日経っても医者は戻ってこなかった。


 正直、食事を摂らせてもらえるなら、ぼくは喜んで我が身を切り刻ませたろう。


 恐ろしい飢えがぼくを襲い、そして、ある日いきなり空腹感が消えた。


 いったいどういう原理なのかは分からないが、肉体のダメージが限界を超えて、再生したのだろう。


 これも実験とやらの一部なのか? ぼくの不死をとことんためそうというのか。


 やがて、また空腹が訪れ、ぼくは餓死寸前まで追い詰められてから、再生した。


 このプロセスが七回繰り返されたところで、ぼくは脱出を決意した。


 身体に力が入る状態のときは、常に手足を激しく動かすことにした。もちろん、厳重に拘束されているので、身をよじる芋虫程度の動きしかできない。


 それでも、ぼくは動き続けた。


 拘束具はどれだけ経ってもビクともしなかった。


 ぼくは諦めなかった。


 ぼくは不死身、時間はいくらでもあるのだ。


 再生のプロセスをさらに十二回繰り返したところで、右腕の拘束具がきしみ始めた。


 そこから、プロセスをさらに四回経たところで、ついに右腕が自由になった。


 手が使えるようになってからは早かった。


 三プロセス後、ぼくは手術台から開放され、両足で床に立った。


 すばらしい開放感!


 ぼくは叫び、踊り、大笑いした。手足を自由に動かせるというのが、これほど素敵なことだったとは!


 とはいえ、この先にも難問が待ち構えている。


 部屋の扉だ。扉は分厚い鋼鉄で、ぼくが素手でこじ開けるには百年はかかりそうな代物だった。


 しばらく考えたが、何も思い浮かばなかった。


 ぼくは仕方なく、〝ぼくになりかけ〟の肉塊入りガラスケースを片端から壁に叩きつけた。


 ガラスが割れて、肉塊の成長が始まる。


 三人寄れば文殊の知恵だ。〝ぼくたち〟で考えるとしよう。



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