第14話 一方その頃
ダイブン国のある宿屋の一階の食堂。そこに3人の娘が集まっていた。それぞれの顔は暗く、疲れているように見えた。
「……それで、話とは何ですかラナ?」
アシュリーが対面でコップのふちを撫でている呼び出した張本人に問いかける。既に千春が部屋に引きこもってから10日以上過ぎていた。一度千春が夜中に部屋を抜け出して自殺行為を行った為、アシュリーとラナは夜も千春が自殺行為をしないように見張っている。そんなことを繰り返している為特にアシュリーとラナは疲れ気味であった。
「まどろっこしいのは性に合わないから単刀直入に言うわ。私達でユウの国に調査に行かない?」
「ユウの国?」
ラナが提案したのはユウの国の調査であった。
「まさか!千春を置いていくというのですか!?」
アシュリーは千春を見捨てると思ったのか激しくラナに抗議した。
「ちょっと、落ち着いて。もう何日もチハルは引きこもったまま出てこない。かといって無理矢理引っ張りだすわけにもいかないでしょ?私たちには理由が分からないもの。でも、私たちはチハルがいつかまた元気になって出てきてくれると信じてる。違う?」
「……それはもちろん信じていますが」
「でしょ?でも、ただここで待っていても仕方ないでしょ。それならチハルが元気になった時にスムーズに次の国の魔王を倒せるように情報を集めておくべきだと思うのよね」
アシュリーは口を閉ざした。ラナの言い分も間違ってないと思ったからだ。確かにこのままただただ千春が元気になるのを待つのは効率が悪い。それなら今動ける人間で少しでも情報を集めていた方が良いに決まっている。それはアシュリーにも理解できる。
「あ、あの……」
その時遠慮がちに言葉を発したのはマリン・アオンコである。
「そういえばマリンさんは何故ここに?」
恐らくラナが呼んだのだとアシュリーは想像していた。
「実は僕は千春に恩返しがしたいと思ってるんだ。魔法も使えないSクラスの落ちこぼれだった僕がドラゴン師匠に出会ってクラス対抗戦で優勝して、さらにカリンと再会出来た。これも全部千春がいてくれたからこそだと思ってる。もちろん辛いこともいっぱいあったけど僕はとても千春に感謝している。出来ることなら千春のパーティに入って千春を手伝いたいんだ」
マリンは珍しく熱のこもった言葉で話す。確かにマリン自身魔法は使えないが戦闘時カリンと入れ替わることで戦力は上がるだろう。それどころか千春、アシュリー、ラナの中であれば圧倒的にカリンが強すぎる。仲間になってくれるというのであればこれほど心強いことはない。不安要素があるとすればカリンの性格が少し問題なくらいである。
「聞いての通りよ。私たちのパーティに魔法使いはいなかったから単純に戦力増強になるし、反対する理由もないでしょ。多分チハルもオッケーする思うし。あんたも別に反対はしないでしょ?」
「それは……もちろん私は歓迎しますが。……もしかしてマリンさんもラナの意見に賛成ということですか?」
「うん、、実はそうなんだ。僕もラナさんに聞いたときは驚いたけど、ここでただ千春が元気になるのを待つよりは僕に出来ることを精一杯やりたいと思ったんだ」
どうやらマリンは既にラナからこの話を聞いているらしかった。ラナとマリンはやる気である。
「どう?私たち三人でユウの国に情報収集に行くってのは?心配しなくても定期的にチハルの様子は確認しに帰ってくるから」
改めてラナはアシュリーに問う。
「……残念ですが私は行けません」
「アシュリーさん……」
しかし、アシュリーは承諾しなかった。マリンが心配そうにアシュリーを見る。
「すみません。千春が元気になった時私は千春のそばにいたいんです。ごめんなさい」
「アシュリー……」
「我儘だってわかっています。私だけじゃなく、ラナもマリンさんも千春のそばに居たいはずだと分かっています。ラナも本当は私を連れ出して気分転換させたいんですよね。腐れ縁で一番長い付き合いですから分かりますよ。ありがとうラナ」
「……ふん」
ラナはそっぽ向いてしまう。普段は仲が悪いアシュリーとラナだが、お互いパーティの仲間として信頼はしている。実は今回ラナが三人でと提案したのは千春を心配して疲弊していくアシュリーを心配してのことだった。
「私のことは心配いりませんからユウの国の調査お願いしても良いですか?もし、途中で千春が元気になれば二人の跡を追いかけて必ず合流します」
アシュリーの意思は固かった。ラナはため息一つ吐くと説得を諦めた。
「……わかったわ。あんたがそうしたいならそうしなさい。千春も元気になった時誰もいなかったら寂しがるかもしれないしね。ただ、これだけは約束しなさい。千春が元気になったら真っ先に私たちに知らせること、いいわね?」
「勿論ですよ。ラナとマリンも気を付けて」
三人は力強く頷いた。こうしてラナとマリンは一路ユウの国へと出発。アシュリーは千春の元に残り千春が元気になるのを待つことになったのだった。
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