第13話 アサシン
前話の少し前。
一路南へ向かう悟たち一行。その姿を注意深く観察する影があった。
「……はてさて、邪魔なジュリア姫に消えてもらうにはどうしたらよいですかね」
元シュラ国お抱えの優秀な氷系魔法使いであり、現在勇者クライスのパーティに所属しているクレールである。クレールはシュラ国のクーデターの際シュラ国王と一緒に投獄されたのだが、警備の隙をついて魔法で脱獄した経緯がある。つまりシュラ国では元シュラ国王と並んで罪人なのである。まんまとユウの国逃れてきたのにジュリア姫の登場である。これはクレールにとってかなり良くないことであった。
クレールが今所属している勇者クライスのパーティは一時的に白鱗のパーティと協力体制にある。つまりこれから定期的にジュリア姫が来るということだ。今回は接触を免れたが次があるとは限らない。
「……一番良いのは事故に見せかけて死んで頂くことですが……」
しかし、厄介なのがあの伝説のパーティ「白鱗」とジュリア姫が一緒にいることである。もちろんクレールは姿をさらすことは出来ないし、かといってかなり手練れの集団に気付かれずにジュリア姫だけ攻撃するのも難しいのが現状である。
「さて、どうしたものか……?……」
それは一瞬の出来事だった。
「動かないで、死にたくないでしょ?」
クレールは反射的に両手を上げる。クレールの首元には鋭いナイフが突きつけられていた。
「私の質問に答えて。あなたは一体何者?」
クレール額に冷や汗がにじむのを感じ息を飲む。声からして若い女性のようだったが、この状況は非常に良くない。クレールは仕方なく正直に答えることにした。
「……私の名はクレール。勇者クライスのパーティに所属している魔法使いです」
「その魔法使いが何故悟たちのパーティを監視していたの?」
「……悟?」
そう言われてクレールは白鱗のパーティの中に悟という子供のガーディアンがいたことを思い出した。
「答えて、何故監視していたの?」
答えに間をあけると謎の少女はさらに強くナイフをクレールの首元に押し当てる。食い込んだ切っ先から赤い雫が垂れる。
「ひぃっ、待ってください!私は別にやましい気持ちがあったわけではありません!むしろ逆です!」
「逆?」
「そうです!私はとある人からの依頼で白鱗のパーティを調査していました。というのも最近入ったジュリアという女性が一説によると別の国の姫で、伝説のパーティである『白鱗』に取り入ろうとしている噂がありまして……」
クレールは嘘ではあるが何とか話を取り繕った。
「『白鱗』?それは悟が一緒にいるメンバーのこと?」
ここでおや?とクレールは思った。この謎の少女は『白鱗』を知らないらしい。伝説とも言われる『白鱗』である。この世界で知らぬ者は珍しい。そしてやたらと悟というガーディアンを気にしている。
「そうですよ。……いい加減拘束を解いてもらえませんか?こちらにはあなたに危害を加える気は全くないですし、話もしづらいですよ」
「……そうね、あなたのような貧弱な魔法使い一人くらいどうにでもなるか」
そう言って謎の少女はクレールを開放する。クレールはこの時初めてその少女の姿を見た。
それは12歳くらいの少女だった。声からして若いと思っていたクレールだったが本当に少女だったことに驚いた。恰好からしてアサシンのようである。
「それで?なんであんたはそのジュリアとかいう他国の姫を追ってるわけ?」
謎の少女はさらにクレールに質問をする。ここでクレール一つ仕掛けを打つことにした。
「実はジュリア姫はシュラ国の姫なのですが、シュラ国はユウの国と敵対関係にあります。つまり敵国の姫がわざわざ来て『白鱗』のパーティに入っていることが不自然なのです。私が所属する勇者クライスのパーティと『白鱗』のパーティは今ユウの国の魔王を倒すため一時的に協力関係にあります。ジュリア姫がどういうつもりで『白鱗』のパーティに潜り込んだのか、それを知るために尾行していたんです」
クレールがかけた仕掛けはシュラ国とユウの国が敵対関係にあるという嘘である。シュラ国とユウの国は別に友好国というわけではないが敵対関係でもない。この事実に気付かないということはほぼほぼこの世界のことについて知らない人間だということになる。
「……つまり、そのジュリア姫っていうのが悟たちを騙して悪いことをさせようとしているということ?」
謎の少女はクレールの嘘をあっさり信じた。クレールは少女に気付かれないように心の中でほくそ笑む。
「その可能性が高いかと思いますね。『白鱗』はリーダーのアオイをはじめかなりの実力者たちです。今更役に立たない一国の姫をパーティに加える理由がありません。もしかしたら『白鱗』の皆様はジュリア姫に操られているのかも……」
クレールの考えは決まっていた。そう、この世間知らずな小娘を利用して邪魔なジュリア姫を消そうと考えたのだ。
「そんな……じゃあ悟がおかしくなったのはそのジュリア姫の誘惑性だってこと?」
クレールはこの小娘ちょろいなと思いつつ心の中でほくそ笑む。
「どうでしょう?私たちの目的達成の為にここは協力するというのは」
「協力?」
「ええ、私は『白鱗』に紛れ込んだジュリア姫の排除、そしてあなたはあの悟というガーディアンを救うため。私はある程度情報を持っているのでお役に立てると思います。あなたもその恰好からなかなかのアサシンだとお察しします」
「……」
謎の小娘は少し考えているようだがすぐに顔を上げた。
「いいよ、協力しても。早速あのジュリア姫とやらを殺ってくる」
「あ、ちょっと!」
すぐに行こうとする小娘をクレールは慌てて止める。
「なに?」
「そのままで行ったら顔がバレバレじゃないですか。なにか顔を隠すものを持ってないのですか?」
「持ってないけど?」
顔丸出しでターゲットの前に出るなんてリスクしかない。しかしこの小娘は何も持ってないようである。仕方なくクレールは自分の持ち物の中に代わりになりそうなものがないか探してみる。
「ん?これは……」
それはクレールがシュラ国の王族パーティに参加した時に貰った仮面であった。マスカレードで使うような派手な仮面である。暗殺者にはちょっと派手すぎる見た目であった。
「ちょっと派手ですが、顔がばれるよりいいでしょう。これを付けてください」
「なかなかセンスいいじゃん。ありがと!」
謎の小娘は何故か気に入ったようである。
「そういえばあなたの名前を聞いていませんでしたね」
クレールがそう聞くと謎の小娘は仮面をつけたその顔を上げる。
「私?私の名前はミオだよ」
ここに奇妙な関係のペアが誕生した。
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