第12話 南へ

「さあ!皆さん!張り切っていきますわよ!」


 悟たち一行は一路ユウの国の南に向かっていた。勇者クライスから聞いた情報によると3つ目の宝玉がユウの国最南の村「シヨトヒ村」にあるからである。何故か特に張り切っているのは先頭を歩くジュリア姫である。


「……ジュリア姫はなんでそんなに張り切ってるの?」


 悟がジュリア姫にそう聞くとジュリア姫はギラリと瞳を輝かせて振り返る。その迫力に悟は思わず後ずさった。


「愚問ですわねおチビちゃん!私まだ皆さんに実力を認めてもらってませんわ!前回せっかく強敵が出てきたと思ったらこのお犬さんに止められましたし。ここで私の力を見せつけるのですわ!!」


 なんでそんなにやる気を出しているのかと思ったらどうやらそういうことらしい。悟たちとしては道中の雑魚戦で戦えることは既に分かっているのでもう見せてもらわなくてもいいとさえ思っていた。


「別にもうジュリア姫のことお荷物だなんて誰も思ってないよ。べつに気にしなくていいんじゃない?」


「いいえ!駄目ですわ!いくら雑魚を倒したところであなた達のリアクションは皆無!ここで強敵を倒してあなた方の度肝を抜いて見せますわ!」


 どうやらジュリア姫は自分の活躍への反応が気に食わなかったらしい。もっとすごいところを見せてびっくりさせたいのだろう。確かに悟にしてもアオイにしてもタカオミにしてもそんなにリアクションが大きいわけではないし、アオイ達は魔王を二度も相手にしているので肝も据わっている。そうそう簡単に驚いたりはしないだろう。


「そもそも回復してくれるだけでこっちは大分助かるけどね」


「回復ぐらいお安い御用ですわ。しかし、私の真骨頂はこの拳にあるのですわ」


 そう言うとジュリア姫は物々しいガントレットを掲げて見せる。そう、意外なことにジュリア姫は回復も出来る格闘家なのだった。見目麗しい一国のお姫様が勇ましいことである。悟としてはガーディアンである自分より前をずんずん歩かれるのは少々やりづらい。しかし、何を言った所でジュリア姫は効き耳持たないだろう。悟は小さくため息をついた。


 その時だった。


「……!!!」


 悟は一瞬の気配を感じてジュリア姫を庇うように盾を構える。


 キキン!!


 鋭い金属音が二回鳴る。それは悟の盾に何か金属が当たった音であった。


「な、なんだ?」


 いきなりの攻撃に悟が戸惑いつつもその弾いた獲物を見るとそれは二本の投げナイフであった。


「!姫さん右だ!」


 その一瞬のちナイフが投げられた方向とは逆側から何者かがジュリア姫に向かって飛び掛かった。ジュリア姫はタカオミの声で辛うじてその攻撃をガントレットで受ける。


「ちっ!」


「な、なんなんですの!?」


 不意打ちに失敗したそれは軽々とバク転しながら距離をとった。


「……仮面?」


 その暗殺者は派手な仮面をつけていた。例えて言うならマスカレード、仮面舞踏会に貴族たちが付けていそうな派手な装飾の仮面であった。どう見ても暗殺者にはそぐわないような仮面である。


「ワールドイズマイン!」


「!!」


 アオイが時間停止のスキルを使うとこれまた一瞬でその暗殺者は大きく後方に飛んだ。


「え?」


「なんだって?」


 驚いたのはアオイと悟たちである。あの暗殺者はアオイがスキルを使う瞬間に回避した。つまりアオイのスキルの効果と範囲を知っていることになる。


「……あなた一体何者なの?」


 恐らく眼帯の下の瞳は鋭くなっているであろうアオイはその急な来訪者に問う。


「ジュリア姫……あなたは決して許しません!」


「え?」


 初めて言葉を発したかと思ったらその暗殺者はジュリア姫を指さした。


「姫でありながら自国の民から謀反受け逃亡。のちに各地を回り人々を篭絡せし魔女。あろうことか二回りも小さい男の子をたぶらかすなんて言語道断です!必ずあなたは消します!覚えておきなさい!」


 そう言うと暗殺者は草むらの中に姿を消した。悟が恐る恐るジュリア姫の方を見るとやはり顔を真っ赤にして怒っていた。


「まあ!なんですの?なんですの!?私は自国の民を捨てたわけでも人をたぶらかしたりなどしていませんわ!」


「我儘はめちゃくちゃ言うけどな」


「お犬さんはおだまりなさい!それは今関係ないことでしてよ!!」


 ちゃちゃを入れるタカオミに猛抗議するジュリア姫。そんな中悟は先ほどの暗殺者のことを思い出していた。


「あの暗殺者……どこかで」


「悟、見覚えがあるの?」


「いや、確証はないんだけど……」


 悟もどこで会ったかなんて全く分からなかったが不思議とどこかで見た気がしていた。


「そんなことよりアオイのスキルが見破られていたことが問題だろ。あの調子だとまた襲ってくるぞ」


「うーん、それもそうね。ただ……」


 アオイはそこで言葉を切ると口の端をわずかに上げた。


「あのこ、私が探していた人かもしれないわね」


 それは悟も見たことがないアオイの不気味な笑いだった。

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