第7話 3つ目の宝玉
「まずはお礼を言わせてもらいたい。ありがとう」
ユウの国の首都に戻ってきた悟たちは早速勇者クライスたちに会いに来ていた。
「そんな口だけの感謝なんていらないわ。それより聞きたいことが山ほどあるのだけれど」
そうなのである。今回宝玉探しを手伝うとアオイ達は言ったもののいざ現地に行ってみれば勇者クライスから聞いていないイレギュラーが次々と起こったのだ。事前に知っていれば対応できたかもしれないのである。アオイは勇者クライスに事情を説明しながら言及する。
「……なるほど。それは確かに申し訳なかった。私が伝え忘れていたばかりに危険な目にあわせてしまったね」
意外にも勇者クライスは素直に非を認めた。
「ただ信じて欲しいのが、その魔物が複数体融合していたというのは私も初耳だ。私が倒した魔物はそんなキメラのような姿ではなかったしね。ただ疫病の魔物が疫病の元である黒い靄、私たちは『死の霧』と呼んでいるがそれに関して伝え忘れていたことは私のミスだ」
「……判断ミスならともかく、ただ伝え忘れていただけなら本当に無能なリーダーってことになるけど。本当にただ忘れていただけならね」
クライスは淡々と話す。一方のアオイも冷めた目でクライスを見つめつつ淡々と返した。勇者クライスとアオイの間で一触即発のヤバい空気が張り詰める。
「そんなことよりも!一番重要なことを聞いていませんわよ!魔物になってしまったダレスは元に戻るんですの!?」
そんな誰もが息を飲む緊張状態を壊したのは勝手についてきたジュリア姫だった。なんだろう、このお姫様はそれをしても許されるような不思議な雰囲気を持っていた。ただ単に空気が読めないだけかもしれないが。
「……こちらの美しい御仁は?確かここを旅立った時にはいなかったと思うが」
「ああ、これはさっきの村で……」
「私の名前はジュリア・シュラ・ブリングス!シュラ国王ヴィクトリア・シュラ・ブリングスの娘です。今は訳あって各地を回り人助けの旅をしている者ですわ!」
アオイが説明しようとしたことろを大音量で割って入るジュリア姫。ジュリア姫は胸に手を当て高らかに自己紹介をした。顔もかなり得意げである。しかし、その自己紹介は効果絶大だったようで勇者クライス以下2名は驚愕していた。
「え……、それって本物のお姫様ってことじゃない?」
「こともなにも私は由緒正しいシュラ国の姫ですわ」
「驚いたな、なぜシュラ国の姫がユウの国で人助けなんかを……」
勇者クライス流石に驚いてはいたがいつも冷静さは失っていなかった。ジュリア姫は勇者クライスの目の前の机の上に荒々しく両の拳を落とした。かなり乱暴な仕草だ。悟は引き気味に見ながら自分がこんな設定したかな?とあらためて疑問に思っていた。
「そ・ん・な・こ・と、よりも!今は魔物になってしまったダレスや村人たちを元に戻す方法を教えてくださいまし!時は一刻を争うのですわ!」
ジュリア姫は鼻息荒くすごい剣幕である。それだけで真剣さは伝わってくるというものだ。しかし、勇者クライスは努めて冷静に首を振った。
「残念ながらそれは私にも分からない。疫病の魔物がもつ4つの宝玉を集めれば疫病は消えるはずだが、その魔物化した村人が元に戻るかまでは分からない」
「そもそも、その4つの宝玉を集めたら疫病が消えるっていうのも確かなのかよ?嘘かもしれないじゃないか」
悟は勇者クライスに疑問を投げかける。すると答えたのはヒーラーのルルムだった。
「いいえ、4つの宝玉を集めれば疫病が消える可能性は高いわ」
「なぜそう言い切れるの?」
今度はアオイが疑問を投げかける。
「それは魔王オラオランチから直接聞いたからだよ」
勇者クライスは力のこもった声で答える。
「言ったと思うが、私たちは一度魔王に挑戦している。そこで一度撤退したのは魔王から自分を倒しても疫病は消えないと聞いたからだ。ユウの国にいる四匹の魔物が持つ宝玉を集める前に魔王を倒せば永遠にユウの国の民は疫病に苦しむことになる。せっかく追い詰めた魔王を諦め私たちは今宝玉を探しているのはそういった事情があるからだ」
淡々と話す勇者クライス。言葉だけ聞けば嘘はないように悟は思った。それにそれを聞いたのは勇者クライスだけではなくメンバーのヒーラーも聞いているようだった。
「それで、申し訳ないが君たちに頼みたいことがあるんだ」
勇者クライスは全然申し訳ないと思ってなさそうだった。
「実は私たちは君たちがソア山脈に行っている間にユウの国の南の調査に向かっていたのだが、そこで疫病の魔物がいるという噂を耳にしたのだ。そっちの疫病の魔物討伐を頼めないだろうか?」
「疫病の魔物がいるならなんで討伐しなかったんだよ?」
悟にはかなり虫のいい話に聞こえた。体よく悟たちに疫病の魔物討伐をやらせているのようにも感じる。
「実はうちのパーティの戦士バッカムが負傷してしまっていてね。それにさっきの君たちの話を聞くと既に戦い方を知っている君たちの方が適任だと思うんだ。その分私たちは最後の宝玉の場所を探すことに専念するよ。どうかな?」
確かに言われてみれば包帯を至ることろに巻いた痛々しい姿の戦士バッカスがいた。心なしか申し訳なさそうな顔をしている。
確かに負傷した仲間がいるのなら強敵を前に無理をするべきではないだろう。アオイはそこまで話を聞いてからため息を一つ落とした。
「……いいわ。ここで私たちが断っても被害が増えるだけでしょ。憎たらしいけど乗ってあげるわ」
「助かるよ。場所は南の方角にあるシヨトヒ村というところだ。検討を祈るよ」
「私も同行しますわ!疫病が消えればダレルが元に戻る可能性はまだありますわ!」
とにかく話はまとまった。次の目的地は南の村だ。十分準備して向かおうと思った所で悟はある異変に気付いた。
一人足りない気がするのだ。
「……そういえば一人いない気がするな。あのうさん臭い魔法使いはどこに行ったんだよ?」
そう、確か以前来たときは勇者パーティは4人だったはずである。それが今は勇者クライス、ヒーラーのルルム、戦士のバッカスの三人しかいない。
「クレールのこと?……そういえばさっきまでいた気がするのにいないね。町の中にいるとは思うけどね。クレールに何か用事?」
ヒーラーのルルムが答える。どうやらこの場にいないだけのようである。別に気になっただけの悟は大したことじゃないと切り捨てその場を後にするのであった。
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「あれ、クレールどこ行っていたの?」
悟たちが勇者クライスたちとの話を終え立ち去ってからしばらくしてクレールは戻ってきた。
「いえ、少々野暮用があっただけですよ」
「ふーん」
ヒーラーのルルムは特に興味も無さそうにそれ以上の言及をしなかった。クレールはそのまま部屋の奥に移動する。
「……ジュリア姫、彼女は邪魔ですね……」
だれもいないことを確認してクレールは小さく溢した。そう、ジュリア姫だけはクレールの正体を知っているのである。ジュリア姫を見かけたクレールは気づかれる前に姿をかくしたのだ。
「……事故にあってもらうしかないかもしれませんね」
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