第6話 ゴースト
「……そうですか。疫病の魔物は倒して頂けたと……」
悟たちはニグオ村の村長の家に事情を説明するために訪れていた。せっかく疫病の魔物の討伐に成功したというのに暗い表情なのは言うまでもない。
「村長は疫病患者が魔物に変わったことについて心当たりは?」
「……残念ながらさっぱり分かりません。その倒して頂いた疫病の魔物と関係があるかどうかすら……」
どうやら村長にも心当たりはないようであった。
「やけに落ち着いているな?俺たちが疫病の魔物を倒したから疫病患者が魔物化したとは考えないのか?」
タカオミが鋭い指摘を入れる。しかし村長は力なく首を横に振った。
「そうであったとしても、疫病の魔物討伐を望んでいたのは変わりません。どのみち、あなた達が討伐してくれなければ今よりさらに疫病患者が増えていたでしょう。感謝しております」
そう言いつつも村長は全く嬉しそうではない。それもそのはず、今回の騒動で村の約半数が魔物化していなくなってしまったということだ。肉親を奪われた人も沢山いるだろう。これからこの村を少人数で立て直していかないといけないと思うと励ましの言葉すら安易にかけられない雰囲気であった。
「村長、諦めるのはまだ早いですわ」
そんなお通夜みたいな空気に喝を入れたのはジュリア姫であった。
「この方たちから聞いたのですが、疫病の魔物が持つ宝玉を4つ全て集めると疫病患者を救うことが出来るらしいんですの。疫病患者を救うことが出来るのなら魔物化した人たちを元に戻す方法があるかもしれませんわ」
「おお!そうなのですか?」
希望の光が見えたとばかりに村長の顔にすこし生気が戻る。
「……残念ながら確証はないわ。私たちも勇者クライスからそう聞いて宝玉を集めているの。ただ、確かに可能性はゼロではないわね」
アオイは正直に答える。まあ、勇者クライスが胡散臭いので実際かなり怪しいところではあった。
「……私のせいでダレスは疫病に罹り、魔物になってしまいました。私は自分自身の何を払ってでもダレスとここの村人たちを元に戻しますわ!私がお慕いするあの方もきっと賛成してくれると思いますわ」
ジュリア姫は拳を握りしめると立ち上がる。かなりやる気になっているようだ。
「なので私はあなた達に付いて行こうと思いますわ!」
「……え?」
いきなりジュリア姫が仲間になると言いだした。あっけにとられる悟たち。
「え?ではありませんわ!わたくしもう決めましたの!今聞いた話ではあなた方の目的もその宝玉とやらを集めて疫病を治すことなのでしょう?なら利害は一致しますわ。それにあなた方はあの疫病の魔物という強敵を打ち破った腕の持ち主。まさに好都合ですわ!」
「……いや、そりゃあんたは好都合かもしれんけどよ。あんた姫様なんだろ?大人しくこの村で待ってた方がいいんじゃねえか?こっちも足手まといは勘弁なんだが」
タカオミが歯に着せぬ物言いで一刀両断する。ここら辺はっきりとズケズケ言うところはさすがタカオミだなと悟は一人感心していた。
「まあ!失礼なお犬さんね!私だって足手まといにはならなくてよ!ちゃんと戦闘でも役に立ちましてよ!」
「……い、犬?」
まさかの犬と称されてしまったタカオミは目が点になってショックを受けていた。アオイはその様子をみて可笑しいとばかりにくすくす笑っていた。
「まあ、いいんじゃないかしら。付いてきたいなら勝手にすれば。戦闘で役に立たないなら置いて行けばいいのだし」
意外にもアオイはジュリア姫の同行を許した。悟はてっきり反対すると思っていただけに意外であった。
なにはともあれ旅の道連れが一人増えたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、私の出番はまだかしら!」
悟たち一行はユウの国の首都に戻りクライスに会うためソア山脈を下っていた。あまり木々は生い茂っておらず茶色い岩肌の見通しの良い風景が続いている。そんな中、新たにメンバーに加わったジュリア姫は早く自分の腕前を披露したいのかご機嫌で先頭を歩いていた。
「……しかし、大した自信だな。本当にあの姫様何か強いスキルでも持ってるんじゃねえか?」
タカオミは悟たちと同じく前をずんずん進んでいくジュリア姫を眺めながらぼやくように言うのだった。しかし、悟は首を傾げる。
「(あれ?ジュリア姫に何か戦闘に役立つスキルとか付けたっけ?)」
しつこいようだが、ジュリア姫の設定をしたのは悟本人である。つまり生みの親である。悟の記憶が確かならばジュリア姫は基本お城にいる設定にしていたはずなのでステータスも低く、スキルも特につけていなかったはずである。恐らくここに来るまでもダレスという騎士がジュリア姫を守ってきたのだと思っていた。しかし、タカオミが言うように本人は自信満々である。
「(……不安だ。万が一の時守れるように注意しとくか)」
いつこの間のでかいドラゴンが出てくるとも限らない。悟は一人警戒を強めるのであった。
「……あれ?」
しばらく進むと少し先に黒い人影が二つ見えてきた。こんなところに人とは珍しいと悟は思った。
「あら、魔物ではありませんのね。残念ですわ……っきゃ!」
ジュリア姫が残念そうに言った瞬間、目にもとまらぬ速さでタカオミがジュリア姫の前に回り込んだ。そのあまりの勢いに少しだけ態勢を崩すジュリア姫。
「もー、なんですのお犬さん。いきなり出てきて……」
タカオミに文句を言おうとしたジュリア姫はタカオミの目を見て絶句した。それは冗談など通じる目ではなかった。
「いいから下がれ!死ぬぞ!」
タカオミはまるで親の仇でも見るような目で前方から近付いてくる二人組を睨みつけていた。いつのまにやらアオイもタカオミのすぐ後ろで控えていた。
「おいおい、冗談だろ?どうでもねえのが出たな」
いつもの軽口みたいにタカオミは言うが、額には冷や汗をかいていた。よく見ると体も小刻みに震えていた。こんなに余裕のないタカオミを悟は初めて見た。
悟が改めて前方を確認するとそれは二人組の男性だった。一人は執事服を着た男でもう一人は黒いマントに黒い仮面をつけていた。その二人組はゆっくりとしかし確実に悟たちの方へ近づいてきていた。
「なんだあれ?へんな二人組だな、仮面?」
「……悟、分からないの?あの二人組相当ヤバいわ。多分もう逃げられない」
あのアオイですら息を飲み警戒するレベルだった。悟としてはあんなキャラクターは設定した覚えはない。あるとしたらこのゲームを作ろうと提案し、かつ最終調整をしたビッグユウさんの仕業だと悟は思った。
「皆様ご機嫌麗しゅう。おやおや、警戒されてしまっているようですね。ご心配なさらず、私達はあなた方に危害を加えるつもりは一切ございません」
お互い数メートルの距離まで近づいて執事風の男が恭しく頭を下げた。
「へっ、そいつはありがてえ。じゃあ俺たちに一体何のようだ?」
「そう怯えずとも大丈夫ですよ白鱗のタカオミさん。今日はお話ししたいことがあってきたのです」
「……!!なぜ俺たちが白鱗だと……?」
自分たちの素性が知られていることにタカオミは驚愕する。
「あなた方は有名人ですからね。おっと失礼まだ名乗っていませんでしたね。私の名前はデッドリーディジーズ。デッドリーでもディジーズでも好きにお呼びください。今日は我が主があなた方、特にそこのアオイさんに話があってきました」
「……私に?」
名前を呼ばれたアオイは首を傾げる。すると黒仮面マントが少し前にでる。
「……俺は……ゴースト」
「……ゴースト?」
それが本名なのか愛称なのか分からなかった。何故ならステータスで確認しても
????? Lv ??? HP:??? MP:??? STR:??? VIT:??? INT:??? RES:??? DEX:??? SPD:??? LUK:???
こんな?だらけのステータスなど悟もアオイも見たことがない。名前すら?なのである。とにかくその黒仮面マントのゴーストからは得体のしれない不気味な気配を皆感じていた。ジュリア姫も事のヤバさが分かったのか少し引いた位置で展開を見守っている。
「アオイ・ゴッドイーター。俺はお前に期待している。NPCという身分で魔王を既に2人も討伐している。驚くべきことだ」
「……NPC……あなたどうしてそれを」
「だが、まだ足りぬ」
アオイの質問には答えずにゴーストは勝手に話を進める。
「今回の敵、ユウの国の魔王はこれまでの魔王とは一味違う。苦戦は必至。故にこのユウの国の魔王を討伐できればアオイ・ゴッドイーター、お前を認めよう」
「認める?私は別にあなたに認めてもらわなくても……」
「恐れながら我が主。それでは伝わらないかと。アオイさん、我が主はつまりこう言っているのです。この国の魔王を討伐できれば我が主に認められあなたの一番の願いをかなえよう、と」
「……私の一番の願い?」
アオイは不思議に思った。何故このゴーストとやらが自分の一番の願いを知っているのか。アオイは不信感を強める。しかし、次にゴーストから出た言葉は驚愕の内容であった。
「神の世界への行き方を教えよう」
え?と悟は少し混乱した。神の世界、つまりNPCにとっては現実の世界のことだ。それはつまりNPCが現実の世界に行くことを意味している。
「お前の望みだろう?神への復讐。俺ならその橋を架けることができる」
「で、でたらめだ!アオイ、耳を貸すな!」
「わ、私は……」
悟はアオイを守るように前に出て盾を構える。PCの悟でもそんな方法がないことは分かっている。これはアオイの心を揺さぶる作戦に違いないと悟は確信した。そんなものあるはずがないのだ。
「……今答えは必要ない。せいぜい励むがよい」
「そういうことですので私たちはこれにて失礼いたしますよ」
デッドリーディジーズとゴーストはそう言うと踵を返し去っていった。あまりの出来事に悟たちはしばらくその場から動くことが出来なかった
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