第5話 人と魔物
「なるほどね、一匹しか反応がない理由がこれってわけね」
タカオミの攻撃で疫病の主の姿が明らかになった。それは十体以上の魔物が融合したキメラのような魔物であった。いや、キメラとも言いづらい。それは全体的に濃い紫か黒みたいな色でおおよそ生き物とは思えない動きをしていた。例えて言うなら大きいスライムのような動きであった。すなわち……
「うわ、なんだあれ。気持ちわるっ……」
タカオミがドン引きするのも無理はない見た目をしていた。
「タカオミ兄さんもっと近づかないと攻撃できないわよ」
「簡単に言うなよ……。確かに体には影響はないが、単純にこの煙臭いんだよ、腐敗臭みたいな。我慢してるが鼻が曲がって取れそうだぜ」
グォォォオオ!!
魔物はその顔だか尾だかよく分からないものを振り回して攻撃してくる。
「うおっ!あぶねーな!」
それが当たった地面はえげつなく抉れていた。頑丈さが取り柄のタカオミでも食らえばひとたまりも無さそうである。
オオオォォォ!!
そうこうしていると疫病の魔物は再び体から紫色の靄を出し始めた。どうやらこの煙に紛れるようだ。
「おっと、そうはさせるかよ!アオイ!」
「ええ!この距離なら……『ワールドイズマイン』!!」
アオイが得意の時間停止スキルを使用する。隔離された空間の中の全て動きが止まる。何度見ても便利なスキルだと悟は感心した。
「あばよ、よくわからねえ魔物さん」
タカオミは自慢の槍を大きく振りかぶって魔物に向かって振り下ろした。魔物は真っ二つに両断される。
ォォォオオオオオオオオオオオ!!!!
「……何!?」
倒したと思った魔物がいきなり発光したかと思ったら大量の紫の靄を巻き散らすように大爆発をした。
「タカオミ!」
「タカオミ兄さん!」
タカオミが爆発に巻き込まれた。悟とアオイはタカオミの名を呼ぶが返事がない。しかし二人ともリフレクトウォールの中から出ることが出来ない。
「うええぇ!口に入った……最悪だぜ、ったくよ」
少しづつ爆散した靄が晴れてくるとむせながらタカオミが出てくる。悟とアオイは胸をなでおろした。
「大丈夫?タカオミ兄さん」
「ん?ああ、気分は最悪だが体はなんともねえ。それよりも……」
「……ええ、私の『ワールドイズマイン』が破られたわね」
アオイが急に険しい顔つきになる。
「破られた?」
「悟見てなかったの?最後あの魔物爆発したでしょ?あれは本来あり得ないのよ。だってあの空間では私が指定したものは何があっても動くことが出来ない。爆発したとしても私がスキルを解除してからのはず」
「今まではこんなこと無かったからな。アオイの能力が落ちたのか、あの魔物が特別なのか」
悟の直感だがアオイのスキルが劣化したわけではないとは思っていた。聞くところによるとあれは魔王から得たスキルらしい。魔王を倒して得られるスキルはこの世界ではほぼ最強に位置するほどのチートスキルである。悟も『ゲットダゼ』はかなり強いスキルにした記憶がある。条件はあったとしても弱体化するなんてのは考えにくいのである。
であればあの魔物が特別な魔物だったと考えが自然だろう。
「まあ、何はともあれ何とかなったから良しとしようじゃねえか。宝玉もほれ、手に入ったことだしな」
タカオミの掌には勇者クライスに見せてもらったのと同じ闇を思わせるような深い紫色で中心には赤い紋章が書かれていた。
「……そうね、解せない点もあるけれど。一旦村に帰りましょうか。これで少なくとも疫病患者が増えることは無さそうね」
悟たちはとにかく一旦村に戻ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……なによ、……これ」
村に戻ってきた悟たちが見たのは信じられない光景であった。
「こりゃひでえな……」
破壊された家屋、抉れた地面、飛び散った植栽に折れた巨木。怪我をした村人も散見される。
「ど、どういうこと?魔物が村に襲ってきたっていうのか?」
散々な有様に悟たちが絶句していると怪我した村人を手当てするジュリア姫を見つけた。
「ジュリア姫!」
「あ、皆さん無事でして?」
「いやいや、そっちこそ無事じゃないでしょ!何があったのさ?」
「……それが私にもよく分かりませんの」
ジュリア姫は悲しそうに顔を伏せる。
「突然疫病に係った村人たちが魔物に変わって村を襲いだしてしまったのですわ……」
「え?」
それは衝撃の事実だった。なんといきなり疫病患者が魔物化してしまったらしい。
「それはいつのことなの?」
「そうですね、1時間前くらいでしょうか」
それはちょうど悟たちが例の疫病の魔物を倒したのと同じ時間であった。
「まさか、疫病の魔物を倒したから……?」
確証はないが、無関係とも思えなかった。悟は嫌な予感がしていた。
「……実は私を庇って疫病に感染してしまったダレスも魔物になってしまって……」
どうやらお付きの騎士のダレスも魔物になってしまったようである。被害は尋常ではなく大きい。
「その魔物たちはどこに行ったの?」
「それが不思議なことにひとしきり村を荒らした後は皆打ち合わせていたように同じ方向へ走り去っていきましたわ」
「同じ方向に?」
自我を持たない魔物が同じ方向に向かっていったという情報も気になるところではある。これは一度勇者クライスに聞くしかないと悟は思っていた。
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