第4話 魔物の正体
兎にも角にも悟たち一行は疫病の主がいるという森に来ていた。今のところ有益な情報はあまりない。それゆえに大した策もない悟たちであった。
「しかし、魔物か動物なら平気とはな。サーカス団でも連れて来いってか?」
見た目マン〇ィズのタカオミは愚痴る。確かにタカオミの言う通り今のところ魔物や動物なら平気という情報は悟たちにとって何のアドバンテージにもならない。
「(……シュラ国で設定した僕の分身なら簡単だったろうに)」
そう、魔王サトルであれば魔物を仲間に出来る「ゲットダゼ」という能力を持っていたので簡単に魔物を仲間に出来たのだが、今の悟は新しく作成したアバターなのでもちろんそんな能力はない。
落ち葉を踏みしめ、道すらない道を進んでいく。一応ジュリア姫からその疫病の主たる魔物に出会った場所をなんとなく聞いてそこを目指しているわけだが、都合よくそこにいてくれる保証もないので大分運頼みである。
「(……オラオランチさん、元気にしてるかな?)」
ふと、悟は昔ともにこのゲームを作った仲間のことを思い出していた。オラオランチはこの熊本県がモデルのユウの国を担当した人である。名前とは対照的に気が小さく、しかし優しい性格をしていた。気性の荒いポポンガとよく一緒にいて、ポポンガがデリカシーがないことを言うと弱弱しく注意をしていた光景をよく覚えている。
オラオランチと話すことが出来ればこのユウの国を簡単に攻略できるのになという考えを悟は頭の片隅に追いやる。すでにオラオランチや他の仲間と接触する方法はないのである。今できることをやるしかないのだ。
「……何も起きないわ。当てが外れたかしら」
しばらく歩いていたがアオイは急に立ち止まると注意深く周囲を見渡す。
「もともと、見つけられるかは運頼みだっただろ?もう少し奥に行ってみるか?」
「そうね、まだ日も高いしもう少し頑張りましょう。サトル?大丈夫?」
「え?あ、ああ。大丈夫大丈夫」
悟たちはその後も森の中を歩き回り、疫病の魔物を探したが手がかりすら得られないまま刻々と時間だけ過ぎていった。
「……そろそろ、引き上げた方がいいかもしれないわね」
時刻は夕刻。あたりが夕焼けで赤くなり始めたころアオイは二人にそう声を掛ける。
「そうだな。アオイや俺はともかくサトルは暗くなってからの戦闘はやめた方がいいだろう」
「え?僕?」
悟は気遣われた理由が分からず自分を指さして訳を尋ねる。
「夜の森は戦闘に不向きだ。アオイはもともと目が見えないから暗くなろうがあまり関係ない。俺も獣人だから夜目は効く。だがサトルはそういうわけにもいかないだろ?」
「……む」
暗に役立たずと言われたような気がして悟は口を尖らせた。
「!?待て!動くな!」
その時急にタカオミが二人の行く手を遮る。何事かと悟はタカオミが睨みつけている方向を見る。
「……ようやくおいでなさったみたいね」
森の奥の方からうっすらと煙のようなものが漂ってきてた。それはみるみる悟たちの方へ流れてきた。これがジュリア姫たちが言っていた疫病の魔物が放つ毒の靄なのだろかと悟一層警戒を強める。
「……どうする?一度下がるか?」
そうこうしている内に紫色の靄はどんどん辺りを侵食し始める。
「それじゃじり貧だろ?僕を足手まといに言ったのは癪だけど仕方ない」
悟は自分の盾を正面に構える。
「『リフレクトウォール』!!」
悟がそう唱えると悟を中心に光る円柱の壁が構築される。
「二人とも僕の近くに」
アオイとタカオミは悟の言う通りにその光る壁の内側に入る。たちまち紫色の靄が辺りに立ち込めるが悟が展開した光の壁に阻まれて悟たちは無事だった。
「すごいわサトル!こんなスキルが使えたのね!」
感動したアオイが悟に抱き付く。
「あ、アオイ!近づきすぎだよ」
「はー、いちゃいちゃするなら魔物を倒してからにしてくれないか?」
「い、いちゃいちゃなんかしてない!」
悟は赤面しながらタカオミに言い返すがどう見てもいちゃいちゃであった。
「それでこのままってわけにもいかないだろ?」
「うん、少しづつなら動けるから『リフレクトウォール』を展開したまま近づいてみよう」
そうして悟たちは疫病の魔物がいると思われる方へ少しづつ進んでいった。紫色の靄は思った通り近づくにつれ濃くなっていき、ついには一メートル先も見えなくなってしまった。
「おいおい、これじゃあどうしようも……っ!」
ギ!ギャアン!!
いきなり悟の盾に何かがすごい勢いで叩きつけられる。まるでドラゴンに尻尾で攻撃されたかのような重たい一撃である。
「ぐ!」
「サトル!大丈夫!?」
幸いにもリフレクトウオールで強化した盾でガードは出来ている。
グォォォオオ!!
その時熊の魔物のような雄たけびが辺りの空気をビリビリと震わせる。それと同時に今度は炎のブレスが悟たちを襲う。とても一匹の攻撃とは思えない。
「どういうことだ?疫病の魔物は複数いるのか?」
「いえ、それはないわ」
しかしアオイはそれをすぐさに否定する。
「分かるのかアオイ?」
「ええ、毒の靄の影響で少し分かりにくいけど一匹よ。そして方角は一時、距離は十メートルってところね」
そこまで分かっているのに現状手が出せない。
「(どうする?このまま近づいてもこちらから攻撃できない以上じり貧だし。なにか言うことを聞く魔物か動物が仲間にいれば……ん?まてよ動物?)」
悟は振り返って自分の仲間の中で唯一動物要素があるタカオミを見た。
「なんだよ?」
「タカオミさ、ちょっとリフレクトウォールの外に出てみない?」
「はあ?」
案の定タカオミは意味が分からないと眉を顰めた。
「何言ってるのサトル?タカオミを見捨てるってこと?」
「いや、違うよ!もしかしたらタカオミなら平気なんじゃないかと思ってさ。だめならすぐ戻って貰っていいから」
「……平気なわけないと思うが。しょうがねーなー、死んだら恨むからな」
タカオミはしぶしぶ恐る恐るリフレクトウォールの外に出てみる。見た目ではあまり変化は感じられない。
「……どう?」
「不思議だ。なんともない」
「やっぱり、多分その毒は動物や魔物には効かないんじゃなくて、人にしか効かないじゃないかな?」
なぜかは分からないがこの毒が獣人のタカオミには効かないことが分かっただけでも大収穫である。
「まあ、よく分からねえがこうなりゃこっちのもんだぜ!!」
水を得た魚のように元気になったタカオミは自らの長槍を振り回す。
「食らえ『旋風槍』!!」
タカオミが疫病の魔物がいるであろう方向に向かって槍で作り出した強力な風を発生させる。そのおかげであれだけ濃く漂っていた靄が一気に晴れて疫病の魔物の正体が明らかになった。
「……なんだよ、あれ?」
悟は思わず言葉を失った。
疫病の主、その魔物の姿はドラゴン、ビッグベア、ハーピーなど十以上の魔物が融合したキメラのような魔物であった。
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