第50話 インターンシップ

「はい、この度は地方創生プロジェクトの一つ課題解決型インターンシップに申込みいただきありがとうございます!私は今回のプロジェクトのサポートをさせて頂きます地域コーディネーターの川本翔子と言います。ええと、お名前が……たけた……」


「はい、津田塾大学学芸学部3年の竹田千秋と言います!本日はよろしくお願いいたします!」


 ノートパソコンの中で3つの画面が映し出されている。ZOOMというコミュケーションツールを使った面接である。


「お、今回の学生は元気がいいね!今日はインターンシップの受け入れ先になる旅館『一笑庵』の女将さんにも来てもらっているから一杯アピールしてね」


「旅館『一笑庵』の女将の雪村です。今日はよろしくお願いいたします」


 地域コーディネーターと名乗った川本という女性が面談を進めていく。


「一応募集ページでも載せていましたが、今回のインターンシップはただの職業体験というものではなく地方企業の課題解決を学生さんと一緒に解決していくという……」


 川本は手慣れた様子でプロジェクトの説明をしていく。


「それでは竹田さんから自己PRをしてもらっていいかな?」


「はい。私がこのプロジェクトに応募したのは……」


 続けて学生の千秋が自己PRをしていく。


「はい、ありがとうございました。千秋さんは機械が苦手とのことですが、今回のプロジェクトでは企業の課題、客足の回復というテーマからマーケティング、広報という分野で学生らしいソリューションの提案が求められます。その点は大丈夫でしょうか?」


「はい!私は機械は苦手ですがゲームは大好きなので大丈夫だと思います」


「げ、げーむ……ですか?」


 地域コーディネーターの川本はその二つにどういう関係があるか分からずひきつった笑いを浮かべる。


「はい!私は勉強でも仕事でも運動でも全てゲームに置き換えることが得意なんです。なんでも動機は面白くないとつまらないと思うんです。ぶっちゃけその旅館さんのお客さんが増えるかどうかはやってみないと分からないですけど、このプロジェクトを面白いものにする。それだけは自信があります」


 画面越しにえっへんと胸を張る千秋。川本は答えになっていないよと落胆しながらもクライアントである雪村の方を見る。


「ええと……はい、ありがとうございます。それでは雪村さんの方から竹田さんに質問などあればどうぞ」


 面談は最終段階に来ていた。この質問が終わればこの面談も実質終わりだろう。

「はい、それでは竹田さん。ええと、千秋ちゃんって呼んでいいかな?」


「はい!もちろんです。良ければ女将さんのお名前も聞いてもいいですか?」


「私?ああそうよね。私は雪村笑子っていいます。よろしくね」


「笑子さんですね!素敵なお名前です!」


「ふふ、ありがとう。千秋ちゃんもとっても可愛いお名前だと思うよ」


 画面越しに微笑む二人。場は一気に柔らかな空気になった。川本はこれも千秋の特性の一つかもしれないと思う。


「千秋ちゃんにはご兄弟はいる?」


 笑子がした質問は川本が想定していた質問とは全く違っていた。普通はプロジェクトに適性があるかどうかの質問をするのが道理である。まあ、こういう世間話もアイスブレイクや関係構築といった側面ではまったく無駄ではないが。


「はい!兄と姉が一人と妹が一人います」


「そうなんだね。お兄さんが……」


「……?兄がどうかしましたか?」


「いいえ、私も弟がいるから。少し気になっただけ。ごめんなさい」


 それから30分にわたった面接は終了した。


「はい、竹田さん今日はありがとうございました。あ、雪村さんは残って頂けますか?このあと少し打合せをしたいと思いますので」


「それでは私はここで失礼します。今日はありがとうございました!」


 千秋が退出して画面には川本コーディネーターと雪村女将の顔だけがパソコンに映し出された。


「お疲れさまでした。雪村さん、率直に今の子はどうでしたか?」


 川本は笑子に感想を聞く。川本としてはこれまで10人ほど面談してきた中で一番可能性が低いと感じていた。元気はいいが、どうにも受け答えに粗が目立つし、今回のテーマのマーケティングの部分で不安要素が大きかった。採用は2人の予定なので、これから候補を絞っていかないといけない。気の毒だが切り落す最初の一人だと川本は思ったのだ。


「竹田さんですね。彼女は採用でお願いします」


「そうですよね、では私からお断りのメールを……え?なんですって?採用?」


 あまりに予想外の答えに川本は思わず聞き返した。


「ですので、後の一人は残りの候補者の中から選びましょう」


「ちょ、ちょっと待ってください雪村さん。本気ですか……?」


「ええ、もちろん」


 笑子はにっこりとほほ笑む。川本は何と言っていいか分からず頭を掻いた。はっきり言って彼女以上に優秀な生徒も沢山いたのだ。


「その、クライアントは雪村さんなので最終的な意思決定は委ねたいと考えていますが、そこまで即答される理由を聞いてもいいですか?」


「確かに彼女、千秋ちゃんは今回のプロジェクトでキモとなる部分に関して不安要素はあると私も感じました。でもそれを補って余りある魅力を私は感じました。あの底抜けな明るさです」


 どうやら笑子はあの千秋という大学生の元気さを魅力に感じたらしかった。


「まあ、確かに元気いっぱいって感じでしたね。あと、やっぱり読者モデルやってるだけあって他の子とは別格の可愛さでしたしね」


「そうですね。川本さんも知ってる通り私たちの地域では高齢化率46%を超える超過疎地ですからお客さんもお年寄りが多いんですよ。千秋ちゃんのような元気で明るい可愛い若い子が来てくれると多分みんなそれだけで喜んでくれると思います。……それに」


「それに……?」


 そこで笑子は今日一番の笑顔を浮かべて言うのだった。


「こう見えてわたしゲームが大好きなんですよ」

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