第48話 明かされる真実
「大変申し訳ございませんでした」
戦闘が終わり、結構ボロボロになってしまった謁見の間で元のサイズに戻った『カス』こと『カースオブフォルトナ』は床に突っ伏していた。土下座のつもりらしい。
「……ゼクスマキナ王、約束通りこの『カースオブフォルトナ』は私が貰い受けるということで宜しいですね?」
千春は土下座する壺を横目にダイブン国王に問いかける。
「いいだろう。本来であれば内乱罪で死刑とするところだが、……魔道具であるしな。今後勇者千春の管理下に置くということで目をつぶろう。事情はどうであれこの国を救ってくれた恩人だ。礼を言わせてもらおう」
そう言うとダイブン国王は千春に向かって頭を下げた。
「国王!」
「やはり未来など見えぬ方が良いのだ。私は今回のことで思い知らされた。偽りの未来に騙されたのは私の心の弱さだ。未来とは自分自身の手で作り上げていくべきものだと」
千春はダイブン国王の言葉を聞いて安心した。一時は『カースオブフォルトナ』の言葉に惑わされたもののシュラ国王に比べればかなりの人格者のように千春は感じた。
「おい、聞いたか『カス』。これからは俺の役に立ってもらうから覚悟しろよ」
「へへー」
「……あんだけのことしといてやけに素直じゃない。何か裏があるんじゃない?」
地面にひれ伏して不自然に従順な『カースオブフォルトナ』に怪訝な顔をするラナ。
「まあ、いいだろ。とにかく10秒先の未来が見える魔道具は色々差し引いても強い能力だ。これからの戦闘がかなり楽になる」
「それはそうかもしれないけど……」
地味に納得のいってないラナの肩にアシュリーが手を置いて宥めるように言う。
「まあ良いではないですか。何か良からぬことをしないように脅しをかけておけばよいのです。『カス』さん、分かっているかと思いますが私は千春のように優しくはありませんよ?」
「め、滅相もないでさあ」
もはや小物のチンピラみたいになっているカスはアシュリーの笑顔に凍り付くのだった。何はともあれこれでシュラ国に引き続きダイブン国もクリアした千春達であった。
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「さて、改めてお礼を言わせてくれ優。君のおかげで本当に助かったよ」
色々とひと段落し、千春たちはダイブン国内の宿屋の一室で休憩していた。
「いえいえ、お礼を言うのは俺の方ですよ。どうやら剣道部を救ってくれたのは千春さんらしいじゃないですか。千夏先生から聞きました。本当にありがとうございました。仕組みはよく分かりませんが」
優が言っているのは千春と千夏が入れ替わってしまう現象についてだろう。これについては千春自身もよく分かっていないことである。
「まあ、そこらへんは俺もよく分からないんだが……」
「そうですよね、それに一番の問題は千春さんがこのゲームからログアウトできないというバグが発生してしまっているということですよね?」
「ああ、それなんだが……」
千春は改めて優に今までの経緯を話した。気が付いたらこのゲームの中にいたこと。偶然妹の千冬がゲームにログインしてきて自分が現実世界では気を失ったまま病院に入院していることが判明、このゲームから脱出するためにとりあえずゲームのクリアを目指していること。優は千春の話を黙って聞いていた。
「……なるほど、そうでしたか。俺たちが作ったゲームが原因でこんなことになってしまって申し訳ないです」
「いや、優たちのせいではないとは思うんだが」
「大島君、千春兄さんが何とか現実世界に戻る方法が分ったりしませんか?」
千夏が優に対して解決策を求める。千春としてもそれを期待していた。しかし、優はうーんと小さく唸っただけであった。
「その、千冬さんという方が運営には連絡しているんですよね?それでそういう対応であれば難しい気がしますね。申し訳ないのですが俺としても俄かには信じられないような話ですし……ただ」
「ただ?」
どうやら優にも解決策は思い浮かばないようである。しかし、言葉尻に言葉を濁したのを千春は見逃さなかった。今は少しでも情報が欲しいのである。
「これは直接関係ないかもしれないのですが、いくつか気になる点があります」
「気になる点?」
「ええ、まず俺はこのゲームのパスを知っているのでプレイヤーとしてworld:ATYOSに新しくアバターを作ってログインしたのですが、その時新たにゲームを始めるか、現在進行中のデータに参入するか選べるんです。俺はもちろん千春さんのデータで仲間として参入する選択をしました」
「ああ、それは私も体験しました。千冬から必ずそうしろとメッセージが届いていましたし」
千春が知らないことだが、このゲームに参入するとそういうことになるらしい。よくあるゲームを始める前のキャラクターメイキングというやつだと千春は理解した。
「そうするとワールドに入る前に現在の進行状況とか難易度とかが分かるのですが、その時進行度が残魔王数4になってたんです。全部で魔王は8人いるから既に4人討伐している計算になるんですが、千春さんはシュラ国だけしか攻略してなかったんですよね?」
それについては千春には心当たりがあった。そう、アオイ・ゴッドイーターである。彼女はNPCにも関わらず魔王の能力を2つも手に入れていた。つまり2体の魔王討伐に成功しているということである。千春はそのことを優に知らせるととても驚いた表情を見せた。
「……NPCが魔王を?信じられないですね。このゲームはAGIシステムでNPCは成長する仕組みにはなってはいますけど、レベル差的に不可能だと思うんですが……。まあ、それは今はいいです。そうするとそのNPCが2体、千春さんが1体、ダイブン国は自軍で討伐して1体ということなら計算は合いますね。それより不可解なのが現在選択されている難易度なんですよ」
「難易度?」
「ええ、このゲームには最初に難易度を設定できます。通常Easy、Normal、Hard、Expertの4つから選択するんですが現在の難易度がunknownになってたんですよ。これはこのゲームの最高難易度になります。千春さん設定した記憶はありますか?」
「え、……いや、覚えていないけど」
千春は優に言われて何とか思い出そうと試みたが一切思い出すことが出来なかった。少しずつ記憶が戻ってきている気はしていたが、肝心なところは何も思い出せない。千春の最初の記憶はこの世界に来た時の魔方陣の記憶からである。なんで最初からそんな無謀な設定をしたのか千春は自分自身を呪いたくなった。
「……そうですか。もしかしたらそこに秘密があるかもしれません。実はこのunknownという難易度は俺が遊びで最後に追加した難易度で他のメンバーも知らないことなんですよね。敵の強さはExpertの2倍、本来最初に選択できるはずの勇者独自のユニークスキルが選択不可能など、とにかくクリア出来るのか分からないくらい難しくしたのを覚えています」
それを聞いて千春は思い当たるふしがあった。一番最初に王様から勇者の能力を見せろと言われたのはこういうことだったのかと思うと同時になんてものを作ってくれたんだと思う千春。
「ちょっと待ってくれ、じゃあ俺には勇者の能力がないってことか?」
「その通りです。Expertまでの難易度であれば8人の魔王の能力からどれか一つを選択して始められます」
「……まじかよ、魔王の能力ってチート級のやつばっかりじゃねーか」
そんなのが一つでも最初からあれば序盤はどれだけ進めやすかったことかと千春はがっくりと項垂れる。話を聞いただけなのにどっと疲れがたまった気分であった。
「そうなんですが、それよりも問題が。そもそもこのunknownという難易度はこのゲームを一度クリアしてからじゃないと選択できない難易度なんですよ」
「……え?」
千春は一瞬優の言っていることが理解できなかった。
「つまり、千春さんはこのゲームを一度クリアしていることになるんですよ。本当に覚えていないんですか?よく思い出してみてください」
「俺が……このゲームをクリアしている……だと?……うっ!!」
その瞬間千春は非常に強い頭痛を感じた。思わず床に膝をつく千春。
「千春!!!」「チハル!!!」「千春さん!!」アシュリーやラナや千夏などが心配の声が上がる。
千春は頭痛に耐えながら泉から出る泡のように浮かんでくる記憶を呼び覚ます。
「……そうだ、俺は一度このゲームをクリアして……」
次々に思い出される記憶たち。何故今まで忘れていたのか不思議なくらい簡単に思い出せる状況に千春はかなり戸惑っていた。しかし、思い出した事実の方が千春をさらに苦しめる。
「ああ、全て思い出した。……俺は笑子ちゃんが死んだと聞かされて、堪えられなくて……この世界に逃げてきたんだ……」
心配するみんなに囲まれて千春は一人大粒の涙を溢すのであった。ずっと今まで勘違いしてきたのは千春自身だったのだ。そのことに千春は記憶が戻ったことで気付かされる。
千春はこの世界からログアウト出来ないのではなく、千春自ら現実世界に帰ることを心の底から拒否しているから戻れないのだった。
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