第45話 オーサー2

 謁見の間は静まり返っていた。玉座に座るのはもちろんダイブン国王ゼクスマキナ・ダイブン・フィールド。いつも以上に眉間にしわを寄せていた。傍らには王女とそしてリアムス・ヴァインが控えている。そしてリアムスの傍らには膝をつき、手を後ろ手に拘束されたアシュリーの姿があった。


「分かっていると思うけど、いきなり暴れたりしないでくださいね」


「……くっ」


 そこにダイブン国側の兵士が一人入ってくる。


「勇者一行をお連れしました」


「……ここへ」


 謁見の間の開かれた大きな扉をくぐって3人が入ってきた。千春とラナとマリンである。三人とも後ろ手に手かせをはめられた状態で兵士に先導されながら王の前まで歩いてくる。


「千春!!」


「おっと、大人しくしてくださいと言ったはずですよ」


 思わず千春に呼びかけるアシュリーの首元に剣を当ててけん制するリアムス。


「ほら、王の御前だ。跪け」


 兵士の言に大人しく従う千春たち。


「……まずは我の呼びかけに答え戻ってきてくれたことに礼を言おう」


「礼はいいからこの手かせをどうにかしてほしいんだが?」


「それは出来ぬ、そなた達には一度逃亡の前歴があるからな」


 それを言われれば千春たちは何も言うことが出来ない。捕まって真っ先に地下牢にぶち込まれなかっただけよかったのかもしれない。


「さて、賢者マリン殿が見当たらないようだが?」


 ダイブン国王は賢者マリンが没したことはもちろん知らない。恐らく別行動していると思っているはずである。ダイブン国王としては千春たちを幽閉したのちドラゴン師匠を国力増強の為の指南役として迎えたいはずである。千春はそれを利用することにした。


「さてね、今頃別の国にでも行ってるんじゃないですかね?」


「……ということは居場所を知っているということだな?」


 王が片手を上げて合図をするとそばの兵士二人が剣を抜き千春の首元にクロスになるように構える。見た目処刑人である。流石のラナとマリンも息を飲んだ。


「おお怖い。確かに俺はドラゴン師匠の行方を知っている。答えてもいいが、一つ条件を付けさせてくれ」


「……条件を付けられる立場だとでも?」


 ダイブン国王の目は本気であった。いくらセーブしてやり直せる千春でも死ぬ瞬間が全く怖いくないわけではない。ちゃんと痛みもあるわけなので、そこらへんは現実世界に近い部分である。


「無理ならこの話は無かったことに」


「……こちらには多少痛い目にあってもらう準備もあるのだが?」


 つまりは拷問ということだろう。交渉は平行線だ。しかし、ここで千春も折れるわけにはいかなかった。千春もダイブン国王の瞳をじっと見つめたまま動かない。緊張感がある沈黙がしばらく続いたのちダイブン国王は小さくため息をついた。


「……分かった。申してみよ」


「ありがとうございます。といっても簡単なことです。私の質問に3つ答えて頂ければそれで大丈夫です」


「質問?」


 ダイブン国王は片手を上げて合図を送ると千春に剣を向けていた二人の兵士が後ろに下がる。


「ええ、一つ目の質問は未来を見る魔道具『カースオブフォルトナ』に関してです。あれの発動条件は魔力と術者の寿命ですね?」


 ざわっと謁見の間が一瞬ざわめく。恐らく知っている者は少ないだろう。


「……どうしてそう思う?」


「王は自らこの魔道具には発動条件があると仰いましたね。そして未来を見れるという一見優秀な能力にあるでも関わらず、我々を取り逃がしたりと粗が目立ちます。つまりその魔道具は未来を確定させるものではないプラス多用できない条件があると考えるのが普通かと。それがつまり術者の寿命ということです。違いますか?」


 ダイブン国は口を閉ざした。千春はそれを肯定と受け取った。


「そこで二つ目の質問です。ダイブン国王はこの魔道具を使ってこの国の未来を見たと言いましたね?それは誰の寿命を使ったのですか?」


「それは我の魔力と寿命を使った。より遠くの未来を見るにはその分魔力と寿命が必要になる。我は自分の残りの半分の寿命を使い滅びへと向かう自分の国を見て、その未来を変えようとしているのだ」


 なるほど千春は思う。つまり今リアムスが『カースオブフォルトナ』を持っているのはもうダイブン国王にはほぼほぼ使える寿命がないからだろう。その愛国献身の姿勢には千春も心の中で敬意を表した。


「よく分かりました。ありがとうございます。それでは最後の質問です。どうしますか?」



「「!!!!」」



 謁見の間にいる全ての人が一瞬凍り付いた。


「な、なにを言っておるのだ。そんなことあるわけが無かろう!この魔道具は確かに未来を見せる!それは揺るぎない事実だ」


「ああ、違います。俺が言っているのはダイブン国王が見た自国が滅びる未来のことです。その『カースオブフォルトナ』自体は未来を見せる魔道具なのは間違いないです」


「……どういうことだ?」


「その『カースオブフォルトナ』が見せられる未来は精々10秒先くらいまでが限界です。それ以上は未来を見ることなど出来ません」


 明らかにダイブン国王は焦っていた。今までそんなこと考えもしなかったのだろう。


「何故そんなことをそなたが知っておるのだ?悪いが我にははったりにしか聞こえぬ」


「そうでしょうね。それでは証拠をお見せしましょうか?」


「……証拠だと?」


 すると謁見の間の入り口から二人の人間が入ってくる。一人は千夏、もう一人は長い赤色のローブ姿でフードを深くかぶり顔は確認できない。


「何者だ!どうやってここまで入ってきた!」


 兵士が数人槍を二人に突きつける。そこにダイブン国王が片手を上げて兵士に槍を下げるように指示する。


「勇者千春よ、あれがそなたの言う証拠か?」


「ええ、そうです。多分びっくりしますよ」


 そうして、千夏とローブの男が千春たちのところまで来るとおもむろに男はローブを脱ぎ捨てた。


「……!!!そんな馬鹿な!お前は!?」


 それはダイブン国の魔王ビッグユウであった。実際はゲームの中の魔王ビッグユウではなく千夏の生徒である大島優に頼んでログインしてもらった別のアバターだが、見た目は基本そのまんまなのでダイブン国王たちは間違いなく魔王だと認識するだろう。


「ば、馬鹿な!魔王ビッグユウは確かに倒したはず……!?」


「お久しぶりですダイブン国王ゼクスマキナ・ダイブン・フィールド殿。地獄の底から戻って参りました」


 優も悪ノリしているようであった。しかし、ダイブン国側からしてみたらこれは一大事であろう。なんせ倒したはずの魔王が復活して王都のしかも謁見の間に現れたのだ。謁見の間はかなり混乱していた。


「ああ、安心してください。この魔王は既にこの国をどうしようとか考えていませんから。それより本当の敵はこの魔王ビッグユウではなく……そこでくつろいでいる壺です」


「……なんだと?」


 千春はリアムスが抱えている『カースオブフォルトナ』を指さす。


「さっき言った『カースオブフォルトナ』が10秒程度の未来視しかできないというのはこの魔王ビッグユウから直接聞いた話なので真実です。つまり、ダイブン国王が見たという自国が滅びるという映像はこの『カースオブフォルトナ』が勝手に作り出した虚像ということです。……何故そんなことをしたのか、今から聞いてみましょう」


 リアムスは信じられないという表情で自分の手元にある『カースオブフォルトナ』を見つめている。


「……全く失敗したよ。思いつきで魔道具にAIなんて組み込むもんじゃないね。めんどくさいったら」


 そして信じられないことが起こった。





「つ、壺がしゃべってる!!」


 なんとリアムスが抱えていた『カースオブフォルトナ』がしゃべっていた。いつの間にか真っ赤な唇までついている。目がないので見た目量産型エ〇ァンゲリオンみたいである。


「……あっ!」


 すると『カースオブフォルトナ』はリアムスの手から離れふわふわと宙に浮いた状態になった。そして信じられない速度で肥大化していく。気づいたときには既に人間の10倍ほどの大きさまで成長していた。


「久しぶりだな魔王様!ごきげんうるわしゅーーーー?」


「あらら、NPCの魔力と寿命食って大分太ったんじゃない?大丈夫?」


「抜かせ!あともう少しでこの国は俺のもんだったのに邪魔してくれちゃって!こうなったら……皆殺し?」



【エクストラミッション発生、ミッション発動中はセーブorロードを行えません】



 メッセージウインドウが発生する。



【エクストラミッション:カースオブフォルトナを無力化せよ】

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