第40話 4つの宝玉
「あの伝説のパーティ『白鱗』にお越しいただけるなんて光栄だね」
こちらも伝説のパーティ『虚無』のリーダーである勇者クライスはアオイ達を歓迎した。
ダイブン国の西にある国ユウの国。ここはそのユウの国の首都にある宿屋の一室である。ここで魔王討伐を試みている『虚無』にアオイ達はやっと合流することが出来た。
「ええ、私も会えて嬉しいわ勇者クライス。早速だけれどユウの国の魔王のことについて教えてくれるかしら?」
アオイは単刀直入に話を切り出す。アオイが『虚無』に接触したかった理由は一つだけ、すでに魔王と戦闘経験がある『虚無』から情報を引き出すためである。既にアオイは勇者クライスがNPCであることを確認している。プレイヤーキャラクターではないという時点でアオイにとってそれ以外の価値はなかった。
「それはもちろん教えるけど、教えたところでどうするつもりだい?」
「決まっているでしょう?魔王を倒すの」
「君たちだけでかい?」
「ええ、十分だと思うけれど」
アオイは一切動じない。クライスの後ろにはヒーラーのルルム、魔法使いのクレール、戦士のバッカムが控えていたが皆一様に驚いていた。なんたって『白鱗』のメンバーが見た目10歳の子供二人と狼の亜人族が一人という構成である。しかもリーダーっぽいこの少女は目が見えないらしく両目に眼帯をしている。これが伝説級のパーティでなければただの冗談で終わっていただろう。
「さすが、すごい自信だね。既に魔王を倒している方々は気迫が違うね」
「「!!!」」
それを聞いた『虚無』側のメンバーはクレールを除いて飛び上がりそうなほど驚いた。
「な、こいつらが既に魔王討伐に成功しているのか!?」
戦士のバッカムは驚愕してアオイ達を指さす。
「既にシュラ国とヒナタ国、そしてサツマの国の魔王が討伐されたと風の噂で聞いたよ。君たちなんだろう?」
「ええ、サツマの国とヒナタ国の魔王は私たちが倒したわ」
『虚無』のメンバーは勇者クライスと魔法使いクレールを除いて皆驚きっぱなしである。クライスは想像通りだったのかあまり意に返さず話を進める。
「なるほど、では魔王の能力を教えれば君たちだけで行くとでも?」
「ええ、むしろあなた達は邪魔かしら」
「て、てめぇ、子供だからってあんま調子に乗ってると……っ!」
あまりに無作法な物言いに戦士のバッカムが切れて戦斧をアオイに向けるその瞬間、悟が盾で阻みタカオミが槍を突き付ける。さすがのコンビネーションだった。
「やめないかバッカム。こちらの非礼は詫びよう。そちらの武器も下してくれないか?」
「ええ、もちろん」
ニコニコとほほ笑むアオイが片手を上げると悟とタカオミは武器を下す。
「しかし、魔王の能力は教えられないな」
「なぜ?」
表情は変わらないがアオイの言葉に若干の緊張感が走る。
「ここで魔王の能力を教えたら君たちはそのまま討伐に行ってしまうのだろう?それではこちらが困るのだよ」
「どうして?魔王が倒せればそれでいいじゃない?」
「実は魔王が流行らせている疫病があってね。魔王を倒すとその疫病がさらに悪化することが分かっている。つまり、先に疫病を何とかしてから魔王を倒す必要があるんだ」
アオイとしては初めて聞く話である。今まで2回の魔王討伐を経験したアオイであるが、それぞれ魔王には凄まじい能力があることは分かっている。その能力に対抗するためのキーパーソンがその国には大体いて、そのキーパーソンを手に入れることで初めて魔王が倒せる。ちなみにサツマ国はアオイ自身であり、ヒナタの国ではタカオミがそうであった。
「私たちが魔王城に乗り込んだのに撤退したのはそれが原因なの。魔王を倒す前に疫病を何とかしないとこの国を真に救うことにはならないから」
ヒーラーのルルムが説明する。
「その疫病を消す方法は分かっているの?」
「ああ、どうやらこの国の何処かに魔王が隠した4つの宝玉というのがあり、それをすべて集めることで疫病を鎮めることが出来るらしい。俺たちは既に一つだが手に入れている」
そう言ってクライスはソフトボールくらいの大きさの美しい宝玉を取り出した。闇を思わせるような深い紫色で中心には赤い紋章のようなものがある。
「つまり、私たちにこの宝玉を探してほしいわけね」
「話が早くて助かる。もし、宝玉を全て集め、疫病を鎮めることが出来たなら喜んで魔王の能力を教えるし、協力もしよう」
ぶっちゃけて言えば恐らく魔王がどんな能力であったとしてもアオイの能力があれば押し切れる。しかし、今回は事情が事情だけに力技ではどうにもならないようであった。アオイとしてもこの世界に生きる者として犠牲者はあまり出したくはないと思っている。さしずめ、このユウの国のキーパーソンは勇者クライスであり、そのクライスを味方につけるために必要なアイテムがこの宝玉といったところであろう。
「分かったわ、そういう事情なら仕方ないわね。で、どこに行けばいいの?」
「俺たちがまだ調べていない地域を探索に行ってほしい。そうだな、さしづめソア山近辺の調査をしてくれると助かるんだが」
アオイは二つ返事でOKする。ソア山はダイブン国からユウの国に行く際に通る。アオイ達も例外なくそこを通ってきたのだ。
「助かるよ、今日はもう遅い。出発は明日にして今日はゆっくり休むといい。この宿屋の一室を手配しているから使ってくれ」
「ありがとう。甘えさせていただくわね」
案外すんなりと話はついた。当面は4つの宝玉集めで『虚無』と『白鱗』が協力することになるだろう。
「ああ、そうだ」
部屋を出ようとしたアオイ達を勇者クライスが話しかける。
「確か『白鱗』つまり君たちのパーティが戦闘しているところを見たやつがいないっていう話を耳にしたんだが、それは本当なのかい?」
「……さあ?どうなのかしらね。でも、確かに誰かに見られたことはないかもしれないわね」
「へえ、そうなんだ。いや、別に実力を疑っているわけじゃないんだ。そんな話を聞いたもんだからどうなんだろうと思ってね」
「そのうち一緒に戦うこともあるかもね。でもその時になってもあなた達に私たちが見えるかどうかは分からないけど」
アオイは最後にそう言い残して部屋を出て行った。あまりに意味が分からずルルムとバッカスは首を傾げていた。
「どういう意味?」
「……さあ?」
勇者クライスもその意味を理解していないようであった。
「……アオイ・ゴッドイーターか、なるほどあれは使える」
誰にも聞こえないほど小さな声でクライスは呟く。この顔はおおよそ勇者とは思えないほど邪悪な笑みを残していた。
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