第37話 クラス対抗戦4
「おい、聞いたかよ。Sクラスの話」
「クラス対抗戦で勝ちまくってるって話だろ?一体どうなってるんだ?」
「DクラスとCクラスは既にSクラスに負けたらしいぜ。一体どんな手を使ったんだか」
「それがどうも中級や上級の魔法をバンバン使ってくるらしいな。Sクラスは魔法を使えない落ちこぼれクラスの筈だろ?意味が分からん、っと……」
クラス対抗戦が行われている訓練場内のトイレの前で他クラスの生徒がSクラスの話をしていた。そこに現れたのはシュリカとマリンである。他クラスの生徒はシュリカとマリンを見るとそそくさとその場を後にした。
「ふん!陰口叩くぐらいだったら堂々と本人に言えばいいのに」
シュリカはそう言いつつも得意気であった。既にSクラスは2勝しており、あと2勝すれば本当にクラス対抗戦で一位を取ることが出来るところまで来たのだ。嬉しくないわけがない。
「あ……」
「……む」
偶然トイレの前で鉢合わせてしまったのは次の対戦相手であるBクラスのアストンと腰巾着のコンラルであった。シュリカはあからさまに嫌そうな顔をする。がすぐに取り繕う。
「これはこれはBクラスのアストン・ヴィレガン様ご機嫌麗しゅう」
「……Sクラスか。なにやら調子よく勝ち進んでいるようだが、どんな手品を使った?」
シュリカは笑顔を崩してはいなかったが頭には来ているようで口元がひくついていた。
「けっ、DクラスとCクラスに勝ったぐらいでいい気になるなよ!本当のエリートクラスはAクラスとBクラスだからな。言ってしまえばDとCは4クラスの中でも最弱!」
なにやら四天王のリーダーみたいなことを言い出すコンラル。若干負け惜しみにも聞こえなくもない。
「確かにこの短期間で凄まじい成長をしたようだが、そんな付け焼刃で俺に敵うなど思わぬことだな。格の違いとやらを見せてくれる」
「あ、そう。じゃあ、その格の違いとやらを楽しみにしておくわ」
「ちょ、ちょっとシュリカちゃん」
容赦なく挑発するシュリカを何とか止めようとするマリン。
「お、お前。アストン様に向かって無礼だぞ!」
「あら、それはごめんなさい。あいにく私商人の娘でして、お貴族様の礼儀に疎くて」
尚も挑発を続けるシュリカだったが、アストンは全く聞いていなかった。それよりもアストンが注目していたのがマリンだった。
「……お前が大将か?不思議だ、何の力も感じられん。本当に魔法が使えるのか?」
そう言ってアストンはおもむろにマリンの腕を掴んだ。それを見てシュリカが激昂する。
「ちょっと!マリンになにすんのよ!!」
「……っ!!!」
かと思うとアストンはいきなり手を離した。動作的には熱い焼かんに手を触れてしまったかのような反射的なものだった。
「……お前、」
「?」
アストンの目は驚きに見開かれていた。シュリカもコンラルもその不自然な動きに疑問を覚える。
「アストン様?どうかしましたか?」
「……いや、何でもない。行くぞ」
アストンはそう言って踵を返す。
「あ、ちょっと!」
そこでシュリカが呼び止める。
「私たちが使うのは手品じゃなくて魔法だから!それだけは言っておくから!」
「……」
アストンはそれには答えず、そのまま歩きさる。そしてシュリカたちが見えなくなるとアストンは立ち止まり自分のステータス画面を確認した。
「……MPが減っている?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これよりSクラス対Bクラスの試合を開始する」
早いものでもう3回戦である。Sクラスがこの試合に勝てば晴れてクラス対抗戦制覇に王手がかかるというもの。既に試合会場にはやる気満々のシュリカとBクラスの相手が向かい合っていた。
「千春」
呼ばれて千春が振り返るとそこにはアシュリーが立っていた。
「アシュリー、どうしたんだ?お前は出場しないのか?」
「ええ、私はやっと覚えたヒールと初級魔法程度しか使えませんから」
どうやらアシュリーは選手ではないらしい。
「へえ、流石Bクラスってところか」
そして、早々にSクラスシュリカとBクラスの初戦が始まる。と思ったらいつも通りシュリカが複合魔法を派手にぶっ放して勝っていた。
「……驚きました。噂は本当だったのですね。少し前の実技授業では誰一人魔法を使えなかったのに、一体どんな魔法を使ったんですか?」
「ああ、それはドラゴン師匠が特訓したからだよ」
「ドラゴン師匠?……ああ、時の賢者マリン殿ですね。なるほど、世界一の魔法使いの指導であればそんなことも可能なのですね。感服いたしました」
「まあ、普段はただの酔っ払いスケベジジイだけどな」
千春とアシュリーが話している間にシュリカは既にBクラスの二人目の倒してしまっていた。
「おお!やるなシュリカ。これはBクラス戦も頂きだな」
「……そう上手くいくといいんですが」
「どういうことだ?」
そうこうしているとBクラスの大将アストン・ヴィレガンの登場である。千春とアストンは言うまでもなく確執があった。まあ、殆どアストンが千春に突っかかってきたのだが。千春は若干アストンの事を噛ませ犬的なものだと認識していた。
「あー、ちょっと良いかの。タイムじゃ」
これから3戦目が始まるというところでドラゴン師匠がいきなり審判に進言する。審判の教師は一度だけ頷くと選手に自分の陣営に戻るように指示する。どうやら試合が始まる前ならタイムが有効のようだ。ドラゴン師匠はシュリカに向かって手招きをして呼ぶ。
「ちょっと、なんなのよ」
シュリカはいきなり呼び戻されてちょっと怒っている。
「良いか、今から言うことをよく聞くのじゃ」
ドラゴン師匠はシュリカの耳元でごみょごみょと何か吹き込んでいる。
「……まあ、出来なくはないけどそんなので勝てるの?」
「ふぉふぉ、まあ騙されたと思ってやってみるがよい」
何かを吹き込まれたシュリカは若干解せない表情をしながらも試合場に戻っていった。
「それでは始め!」
審判の教師は二人が試合場に戻ったのを確認すると開始の合図を上げる。
「どうやら付け焼刃にしては上等のようだ。どれ、相手をしてやろう」
「いい加減その長い鼻をへし折ってやりたかったのよね。覚悟しなさい!」
シュリカは気合十分である。二人の間には見えない火花がバチバチと飛び散っているように見えた。
「ドラゴン師匠、さっきはシュリカに何を吹き込んだんだ?」
千春が聞くとドラゴン師匠はいつものように笑ってごまかす。
「まあ、見ておるがよい」
先に仕掛けたのはシュリカの方であった。もう定番となった複合魔法を慣れた様子でぶっ放す。
「『ファイアストーム』!!」
途端にアストンが火の柱に巻き込まれる。しかし、シュリカは一切手を抜かない。続けてさらに複合魔法を叩きこむ。
「『フレアバースト』!!」
火柱の中心が光ったかと思ったその瞬間に爆発。これまで大抵の選手はこれを食らって魔法障壁を0にされ負けてきた。
「なんだ、随分とあっけなかったな」
千春がシュリカの勝ちを確信していると、アシュリーが異を唱える。
「いえ、まだ終わっていませんよ」
爆発の煙が晴れるとそこに無傷のアストンが立っていた。よく見ると半透明で何やら呪文のようなものが書かれたドーム型のものに覆われている。
「魔法障壁!」
選手には予め審判の教師から魔法障壁をかけられているが、アストンはさらにその上から魔法障壁を展開してシュリカの魔法を無効化していたのだ。
「……アストンはBクラスで回復系統の魔法を得意とするクラスですがそれ以外の攻撃魔法と補助魔法も使えるみたいです。伊達に貴族ってわけではなさそうですね」
「まじかよ、例のデッドリーディジーズの時は腰を抜かしているようだったから大したことないかと思ってたぜ」
「それは私も分かりません。しかし、千春。想定外の事態に的確に対応すると言うのはかなりの実戦経験がないと普通は難しいものなんですよ?庇うわけではないですがあの時初めての実地試験であんなことになったら自分の実力を100%出すのも難しいと思います」
千春はアシュリーがそう言うのを聞いてまあ、確かにそうかもなと思う。
「上級魔法を使えるのは自分だけだと思うなよ商人の娘」
アストンは自分で展開した魔法障壁を消すと今度はなにやら呪文を唱え始める。
「『サンダーボルト!!』」
その瞬間、複数の雷がシュリカの頭上から降り注ぐ。
「……ちょっ!」
シュリカの頭上から雨のように降り注ぐ雷をシュリカは避けることが出来ずもろに食らってしまう。アストンの攻撃が止むころにはシュリカの魔法障壁はほんのわずかしか残っていなかった。あと、一撃でも食らってしまえばシュリカの負けは決まってしまいそうだった。
「やっば……」
さすがのシュリカも焦っているようである。
「ファイア!」
シュリカは何を思ったか炎属性の下級魔法を数発アストンに向かって放つ。
「なんだこれは?MPが尽きたか?」
アストンはそれを蠅でも払うように片手で打ち払う。シュリカの放った数発の火球はアストンの前数メートルに落ちて転がる。
「アクア!」
続いてシュリカは水の下級魔法をこれまた数発アストンに向かって放つ。アストンはこれまた簡単に払いのける。
「ちっ」
それを見てシュリカは試合場のギリギリ端っこまで走って逃げる。
「……悪あがきを、もういい終りにしてやる」
アストンは少し苛立たし気に逃げたシュリカを追うために試合場の中央まで移動する。
「火よ、……風よ」
すると何を思ったかシュリカは再び複合魔法を発動する為に両手に人の頭ぐらいの大きさの火と風の玉を作り出す。
「ああ、何してるんだよシュリカ。それはさっき効かないって証明されたのに!」
千春が頭を抱えて狼狽える。
「まったく弟子2号は騒がしいのう。良いから黙ってみておれ」
一方のドラゴン師匠は全く動揺していなかった。まるで計画通りとでも言いたげである。
「『フレイムウォール!!』」
「ふ、まだ無駄だと言うことが分からんか。『マジックシールド!!』」
案の定魔法障壁を展開するアストン。炎の柱が勢いよく燃え上がるが二重の魔法障壁に阻まれてアストンにダメージを与えることは出来ない。
「……無駄なことを」
「果たして本当にそうかしら?」
「……何?」
絶対的に不利な状況にあるはずのシュリカは何故か不敵に笑う。
「自分の足元をよく見てみることね」
「足元だと……なっ」
そこには先程シュリカが放った2種類の下級魔法が転がっていた。しかもそれはアストンが展開した魔法障壁の内側にあったのだ。つまりシュリカは逃げたのではなく、自分の放った下級魔法の所にアストンを誘導したと言うことになる。アストンが魔法障壁を展開することを見越して。
「ふぉふぉ、マジックシールドは展開してからしばらく消すことが出来ぬでな」
ドラゴン師匠はいつものように笑いながら酒を飲んでいる。先程シュリカに入れ知恵していたのはこのことだったのかと千春は感心する。この作戦は予め相手が魔法障壁を使えると知っていないと成り立たない。千夏のレポートはかなり詳細に書かれているようである。
「お貴族様はたまには下も見ないと足元掬われるわよ!『バースト!!』」
「うおおおおおお!!」
途端にシュリカが仕込んでおいた下級魔法が合わさり、アストンが展開した魔法障壁の中で爆発し燃え上がる。『バースト』は『フレアバースト』に比べれば威力は低い。しかし、今回のように密閉された狭い空間で使えばその威力は『フレアバースト』と同等かそれ以上になる。
「……くっ」
魔法障壁の効果が切れ、現れたアストンは膝をついていた。そして審判の教師に施された魔法障壁も0になっていた。
「勝者シュリカ・エザイン!よってSクラスの勝利!」
こうしてBクラス戦も勝利してSクラス完全勝利まで残すはAクラス戦となったのである。
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