第36話 クラス対抗戦3
「ギャルは炎系の魔法が若干得意じゃった」
ドラゴン師匠は試合会場でガッツポーズを決めるシュリカを眺めながら得意げに話し始めた。
「でも、他の魔法も使ってたじゃないか。風と水とか」
千春が質問するとドラゴン師匠はもちろんと頷く。
「そもそも、Sクラスは適性が低いだけで全ての属性に適正があるものが多い。今回はそれが良かった。習得には膨大な試行回数が必要になったが、一週間みっちりやればどんなに適性が低くとも中級レベルの魔法は習得出来る。上級以上になればさらに習得に必要な試行回数が増えるため、一週間では無理じゃったが、まあ学生のレベルなら上等じゃろう」
「と言うことは、シュリカは他の属性魔法も習得出来たってことか?」
「もちろんじゃ、ギャルは全ての属性の中級レベルの魔法を既に習得しておる。得意の炎系の魔法であれば上級レベルの魔法まで習得しておるでな、炎系の魔法を軸にした複合魔法が一番威力が高いと言うわけじゃ」
「ぜ、全属性……?」
驚いたことにシュリカはわずかこの一週間で全属性魔法を習得してしまったらしい。さすがはドラゴン師匠のお墨付きアイテム「ミエルンデス」と「フエルンデス」といったところであろうか。ふざけた名前のくせに効果はバッチリのようである。
「勝者Sクラス、シュリカ・エザイン!」
ドラゴン師匠と千春たちが話している間にシュリカは二人目の選手も倒してしまった。
「わー、すごいねえ。このままシュリカさんだけで全員倒してしまうんじゃないかな?」
目を輝かせるマリンに対してドラゴン師匠はふぉふぉと笑いながら「それはどうかの?」と口にする。
「そんなに簡単にいけば良いがの。わしの予想では次の試合はかなり厳しいじゃろうて」
そう言ってドラゴン師匠が取り出したのは千冬が調べてくれた各クラスの出場選手と得意とする魔法や戦法が書かれたトップシークレットノートである。
「あのケツ姉ちゃんの情報が正しければ次の相手は……」
「次の相手は私よ!」
そう高らかに叫んで盗賊ならではの軽快な身のこなしを存分に生かしたフォームで試合会場に降り立ったのは他の誰でもない、ラナ・ブラージアであった。
「あなたやるじゃない!初戦で私の出番があるとは思わなかったわ!」
「……そりゃどうも」
さすがのシュリカも警戒しているようであった。それもそのはず、ラナは一度全クラスメイトの前で神獣:フェニックスを召喚している。
「それでは始め!」
審判の先生の掛け声で無情にも試合は始まってしまう。
「とにかく先手必勝!先にやらせてもらうから!火よ!風よ!」
先に動いたのはシュリカだった。シュリカは先程と同じように複合魔法で火柱を作り出す。しかし、一方ラナは一切慌てる様子もなく目を閉じて集中しきっている。
「……来なさい」
ラナがそう言った瞬間、神獣:フェニックスは何もない空間から突如姿を現した。
「ケエエエェェェェ!!」
すると驚いたことにフェニックスはシュリカが出した火柱を体全体で吸収してしまったのだ。
「げっ」
しまったと冷や汗をかくシュリカだがもう遅い。シュリカの魔法を吸って一段と身にまとう炎を大きくしたフェニックスはそのままシュリカに対して突進する。
「うっ!」
凄まじい熱波が会場中を包み込む。その中心にいるシュリカは堪ったものではないだろう。フェニックスが突進を終えてラナの元に戻った時にはシュリカの魔法障壁は跡形もなくなってしまっていた。
「よーし、戻って」
ラナがそう言うとフェニックスはまた虚空へと消えていった。
「勝者Dクラス、ラナ・ブラージア!」
途端にDクラスの面々が歓喜に沸く。
「ふぉふぉ、やはりギャルの相手としては最悪の相性じゃったのう。まいったまいった」
シュリカが負けたと言うのにドラゴン師匠は気楽に笑っていた。
「まいったまいったじゃないよ!どうするのさ、相手は神獣でしょ!どうやって勝つのさ?」
「案ずるでない、もちろん策はある。もやし男よ、出番じゃぞ」
「……僕の名前はポットって何回も言ってるのに」
呼ばれたポットは不服そうに立ち上がる。
「さっさと出てきなさい!残り2人も一気に蹴散らしてやるから!」
ラナは得意げにそう言い放つ。とても上機嫌のようであった。
「ち、好き放題言ってくれちゃって。悔しいけど後は頼んだよポット」
「う、うん」
シュリカはポットの行く手を遮るように立つと片手を上げた。
「なにしてんの?ハイタッチでしょ」
「あ、ああ」
おずおずと手を上げるポットの手をシュリカは自ら叩きに行った。そしてそのままポットの背中をバシン!と叩く。
「やられんなよ」
ウインクして戻るシュリカ。構図としてはオタクに優しいギャルと言った感じである。ポットは叩かれた右手を見つめてぎゅっと握りしめると試合会場に向かった。
「……なんかさえないのが出てきたわね」
次の対戦相手であるポットを見た瞬間ラナは明らかに脱力した。
「おいおい、本当に大丈夫なのか?」
不安になった千春は思わずドラゴン師匠に聞くが、ドラゴン師匠はふぉふぉと笑う。
「まあ、見ておれ。そのうち分かるわい」
ドラゴン師匠はとても楽観的である。
「それでは始め!」
そして審判の先生の掛け声によって試合が開始される。
「まあ、いいわ。速攻で終わらせるから」
ラナは神獣:フェニックスを召喚するべく目を閉じて集中し始める。
「静寂の守り手よ、……ディスペル!」
その一瞬のスキをついてポットは何か魔法を唱えた。するとラナの目の前に魔方陣のようなものが現れ、ガラスが割れるかのようなエフェクトが発生して消えた。目を閉じて集中しているラナはそれに気づいていない。
「……来なさい!」
ラナが力強く神獣:フェニックスを呼び出そうとするが、不思議なことに何も起こらなかった。
「……あれ?」
何故か姿を見せない神獣:フェニックス。ラナは慌てて何度も呼び出そうと試みるがフェニックスが出てくる様子は一切なかった。
「無駄だよ」
ポットは勝ち誇ったように告げる。
「僕のディスペルは相手の魔法を一つ封印する魔法でね、悪いけど君の神獣召喚魔法は封じさせてもらったよ。他の魔法で戦うんだね」
「な……、嘘!そんなのズルい!」
なんとポットは魔法を封印する魔法を習得していたのである。
「もやし男はどちらかと言うとデバフ系の魔法が得意な傾向にあったのじゃ。ディスペル以外にも相手の攻撃力や魔法防御を下げたりと言った魔法を数多く習得しておる」
ドラゴン師匠は得意げに話す。
「なるほど、シュリカは攻撃魔法を得意としてそれを伸ばし、ポットはデバフ系の魔法を伸ばしてバランスをとるようにしたわけか」
「それに、あのケツ姉ちゃんの情報によればあの相手の娘っ子が習得しておる魔法は……」
すると試合会場に立つラナに異変が起こっていた。なにやらプルプルと震えている。
「……い……わよ!」
「え?」
ラナの声が良く聞こえず、ポットが聞き返すとラナは恥ずかしそうに叫ぶ。
「だから!フェニックス召喚しか出来ないって言ってんの!」
ラナは悔しさからか顔を真っ赤にしていた。
「確かに神獣:フェニックスの召喚魔法はかなりの脅威じゃ。そこら辺の魔法使いでは到底太刀打ちできぬ。しかし、それだけしか使えぬのであれば付け入るスキはいくらでもあると言うわけじゃな」
相変わらずドラゴン師匠はふぉふぉと笑っていた。
「……舐めないでよね。魔法が使えなくたって私にはこれがあるんだから」
ラナはそう言って腰の短剣を慣れた手付きで抜いて構える。
「……ひっ」
これにはさすがにポットもたじろいだ。無理もない、超優秀校とはいえまだ魔法使いのたまごの学生が戦闘経験などろくにあるわけがない。
その時試合終了を告げる笛が鳴った。
「Dクラス、ラナ・ブラージア失格。勝者Sクラスポット・フット」
「ちょ、なんで私が失格なのよ!」
いきなり失格にされたラナは納得いかないとばかりに審判の先生に食って掛かる。しかし、審判の先生は呆れたようにラナを見るのだった。
「最初の説明を聞いていなかったのか?これは魔法の力を試す対抗戦だ。魔法付与されていない武器の使用は認められていない」
「そ、そんな……」
へなへなと座り込んでしまうラナ。よほどショックだったのだろう。
「Dクラス全滅、よって一回戦の勝者はSクラス!」
「よっしゃー―――!!!」
こうしてSクラスは初戦を白星で飾ることが出来たのだった。
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