第35話 クラス対抗戦2

「これより一年生のクラス対抗戦を開始する。皆存分に日頃の研鑽を発揮するように」


 実技演習場には一年生が勢揃いしていた。今日は年に一度のクラス対抗戦。この対抗戦が事実上その年最も優秀なクラスを決定する唯一の機会である。


 学園長の挨拶が終わり、降壇すると今度はルール説明するために千夏が登壇する。


「えー、今回のクラス対抗戦のルール説明をします。まず、参加できるのはクラスの代表3名だけです。それ以外の生徒は観客席で試合を見学するようにしてください。競技は3対3の団体戦勝ち抜き方式の総当たり戦で行われます。つまり大将が負けたチームが負けです。また、直接的な魔法付与などしていない武器を使用しての攻撃は禁止です。あくまで魔法を使用した攻撃のみが有効です。勝敗ですが、参加者には事前に魔法をある程度遮断する障壁が張られております。それが無くなるか、場外に出てしまったら負けとなります。それ以外の細かいルールに関してはクラス対抗戦協議規定によるものとします。以上」


 千夏はそれだけ告げると降壇する。司会役の別の教師が試合は10分後に始まるからそれぞれ準備をと呼びかけていた。


「一回戦ってどこだっけ?」


「DクラスとSクラスらしいよ」


「じゃあ、トイレ休憩じゃん」


 そんな生徒たちの会話が聞こえてくる。この時Sクラスが勝つことなど誰も想像していなかったに違いない。


「最初はチハルが相手なのね!手加減はしないわよ!」


 Dクラスの大将はラナのようであった。元気に人差し指を突き付けてくる。


「あー、ラナ。俺は出場しないんだよ」


「え?そうなの?なんだつまんないの」


 明らかに不服そうに頬を膨らませるラナ。Sクラスだと千春以外は眼中にない感じである。


 Sクラスの陣営は先方シェリカ・エザイン、中堅ポット・フット、大将マリン・アオンコとなっている。そこに監督役のドラゴン師匠とサポートの千春がいる感じだ。


「さて、そろそろ始まるようじゃ。皆準備は良いかの?」


 ドラゴン師匠の問いかけにシュリカとポットは頷く。


「やっとあいつらに目にもの見せてやる時がきたのね!」


「や、やってやりますよ」


「……」


 やる気満々の二人とは対照的にマリンはあまり元気がなかった。


「どうしたポンポコ?元気ないな」


「あー、うん。私大丈夫かなーって思って」


「心配性だな。ドラゴン師匠に特訓してもらったんだろ?」


 どうにも歯切れの悪いマリンである。千春は不思議に思い訳を聞こうとするが。


「ふぉふぉ、弟子一号なら大丈夫じゃて」


 ドラゴン師匠はとても楽観的に笑っていた。


「本当か?ポンポコは大将なんだろ?一番重要なポジションじゃないのか?」


「心配いらんわい。わしの計算では弟子一号の出番は恐らくない。あったとしてもそこで勝てば良いだけの話じゃ」


「……本当かよ」


 あまりに威勢よく豪語するので逆に不安になる千春である。


「何も心配はいらん。弟子一号よ、自信を持て。お主は秘密兵器なのじゃ」


「……秘密……兵器!」


 その言葉の魅力に目を輝かせるマリン。あまりにちょろい。そして千春はどこかのバスケ漫画の太い先生を思い出していた。


「それではDクラスとSクラスのの先鋒は前へ」


 試合会場の審判の先生が両クラスに声を掛ける。そろそろ試合が始まるようだ。


「じゃあ、行ってくるわ」


 片腕をストレッチするように上に伸ばしながら意気揚々と試合場に向かうシェリカ。


「シェリカがんばれよ!」


 千春が声を掛けるとシェリカは振り返らずにグッドサインを出す。何だかカッコいい。恐らく他のSクラスの面々も観客席から見守っているはずである。緊張の瞬間だ。


 試合会場内にDクラスとSクラスの生徒が向き合う。


「それでは、はじめ!」


 審判の先生の開始の号令を上げる。


「悪いけど、遊んでる暇はないんでね。さっさと終わらせてもらうぜ」


 不敵な笑みを浮かべるDクラスの男子生徒は何やら唱えながら片手で空中に魔方陣を描き始める。


「大いなる風の精霊よ、我が求めに応じよ……」


 すると魔方陣が緑色に輝きだし、そこから3体の手のひらぐらいの大きいさの風の精霊が姿を現した。


「うわ、一度に3体も召喚出来るなんてさすがDクラスの代表選手だね」


 マリンが驚きの声を上げる。


「すごいのか?」


「普通精霊召喚魔法で召喚できるのは一体だからね」


 しかし、シェリカの顔には絶望の色など微塵もなかった。


「同感ね……」


「何?」


「私も遊んでる暇は無いってこと。さっさと終わらせちゃうから」


「はあ?何言ってるんだよ?魔法も使えないくせに」


 そう言うとシュリカは目を閉じて意識を集中する。


「火よ、……風よ」


 するとシュリカの右手と左手にそれぞれ人の頭ほどの大きさの火の玉と風の玉を作り出す。


「え!?……は?」


 困惑するDクラスの男子生徒。驚いたのはDクラスだけではない。その光景に会場中がどよめいた。それは信じられない光景だっただろう。


「『ファイアストーム』!!」


 シュリカが腕をDクラスの生徒に向けると火と風の玉が突進し、驚愕の表情のDクラスの生徒の前で合わさる大きな火柱となる。


「……これは」


 千春はこの魔法を見たことがあった。ドラゴン師匠が最初ぶちかましてちょっとした騒ぎになった複合魔法である。火柱は容赦なくDクラスの生徒の魔法障壁をすり減らしていく。


「う、嘘だろ!なんでSクラスが魔法使えるんだよ!」


「水よ」


 さらにシュリカは同じく人の頭くらいの大きさの水の玉を発生させて火柱の中に叩きこむ。


「『フレアバースト』!!」


 瞬間火柱の中心が白く光ったかと思ったあとの爆発、あの時のドラゴン師匠の魔法と全く同じである。


 会場があまりの大番狂わせに静まり返る中、爆発の煙が徐々に晴れていく。するとそこから完全に魔法障壁が失われたDクラスの生徒が現れた。


「し、勝者Sクラス、シュリカ・エザイン!」


 審判の先生がシュリカの勝利を声高に叫ぶと会場中から戸惑いの声と歓声が入れ混じる。「え、なんでSクラス魔法使えるの?」「おいおい、しかも複数の属性魔法を合わせた複合魔法だと!?」「どうなってんだよ!」


 そのざわめきすらシュリカには心地よかった。見るとSクラスのメンバーは諸手を上げて喜んでくれている。


「こっちだって伊達に何万回も杖振ってないからね」


 こうしてSクラスの快進撃が始まったのである。

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