第17話 新パーティ発足

 シュラ国で兵士の息子として育ったが、ある時現れた勇者の存在を知り、仲間になるべく方々をさまよっている、という設定にしておくことにした。


「へえ、それで悟ははるばるシュラ国から勇者を追いかけてユウの国まで来たわけね」


 ユウの国の主都の一角にある喫茶店で悟とアオイとタカオミは同じ席についていた。ユウの国の勇者の演説の騒動で民衆にもみくちゃにされたアオイは悟によって助け出され、タカオミと無事合流を果たしたのだが、どうしても悟にお礼がしたいとこの店に入ったわけなのだった。


「シュラ国からってことはもしかして小僧が言ってんのは勇者千春のことじゃねーのか?」


「勇者千春を知っているのか?」


 タカオミの言葉に食いつく悟。ユウの国の勇者は空振りだったが、思わぬところで情報が拾えたと喜ぶ。


「ええ、千春とは最初シュラ国のギルドで出会って、ここに来る前にダイブン国で再会したの。千春たちとは同じ目的を持った仲間同士なのよ」


 それを聞いて悟は驚く。まさか千春たちに別行動しているNPCの仲間がいるとは。つまり効率的にゲームを攻略していることになる。千冬から聞いた話だとかなり手こずっているように悟は聞いていたのだが……、ゲームの難易度の設定と言い疑問点が一つ増えたことに若干の違和感を悟は覚えた。


「そういえば、千春にいちゃ、じゃなかった勇者千春のパーティに千冬って人はいなかった?」


 悟は一番気になる千冬のことを尋ねる。


「千冬?……そんな人はいなかったわ」


「パーティにいたのはアシュリーって女騎士とラナっていう盗賊の娘っ子だけだったな」


 どうやらアオイ達は千冬の存在を知らないらしい。たまたま、ログアウトしていただけか、はたまたアオイ達と同じように別行動をとっているのか。まあ、いずれ会えるだろうとこの時の悟は大して気に留めなかった。


「なあ、良かったら俺をアオイ達のパーティに加えてくれないか?」


 悟はそう提案した。このままダイブン国に行って千春たちと合流する道もあったが、アオイ達が千春たちの仲間であれば行動を共にしていれば近いうちに出会えるだろうと思ったのだ。それに別行動している仲間がいるということは少なからず千春は早くゲームをクリアしたいはずである。戦力的に言えばアオイ達の方が厳しいことは見た目から明白だ。タカオミはまだしも、アオイは本当に戦闘が出来るのか怪しいレベルである。目が見えない上に小学生の見た目なのだから当然と言えば当然である。


「……なんか怪しいな。俺たちのことを知っていれば仲間にしてくれって輩はそうそういねえんだが……、小僧何か企んでるんじゃねえか?」


 タカオミが机を挟んで馬乗りにメンチを切るように悟の顔面に近づく。ただでさえ体格の良い人狼族である。迫力は満点だ。悟は思わず息をのむ。額からは冷たい汗が流れた。


「タカオミ兄さん!」


 慌ててアオイが制止しようとするが本気になったタカオミを止められるものはいない。


「いいや、言わせてもらうぜアオイ。ひょっとするとアオイを助けたのだって計算なんじゃねえのか?」


 タカオミの顔がどんどん悟の額に近づいていく。人狼族とはいえ頭部は完全に狼なのだから悟からしてみれば牙向いた野生の狼に今にも食われようとしているのと相違ない。もの〇け姫の主人公をちょっと尊敬した悟である。


「おめえ、もしかして……」


 悟のごくりと喉を鳴らす音が何よりも大きく聞こえた気がした。緊張の沈黙が一瞬流れる。


「アオイに惚れてるな?」


「「……は?」」


 奇しくも悟とアオイは同じ反応をしてしまった。それが可笑しかったのか途端に破顔した。二人は顔を真っ赤にして見合わせる。


「ちょ、何言ってるのタカオミ兄さん!」


「いや、わりぃわりぃ。つい、からかいたくなっちまった。冗談だよ。そう怒るなって」


 タカオミはそう言いながらも顔を真っ赤にして怒るアオイを見てこれはまんざらでもないなと感じ取っていた。


「もう!タカオミ兄さんは冗談ばっかり……」


 アオイは頬を膨らませて怒っている。悟はそんなアオイを見て怒っている顔も可愛いと思ってしまっていた。


「……悟。本当に仲間になってくれるの?」


「ああ!任せてくれ!これでもタンクは得意なんだ。アオイは俺が絶対に守って見せるぜ」


 その光景をニヤニヤ見つめるタカオミ。それに気づいて追いかけるアオイ。一見幸せそうに見えるこの光景もとある偶然が積み重なって起きていることを知るものはいない。


 その偶然の一つ、悟がNPC表示になっていること。それはまだ本人すら気づいていないことだった。

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