第14話 学園生活

「えー、これから皆さんと一緒に勉強する仲間を紹介します」


 千夏が千春と一緒に教壇に立ってそう切り出した。それじゃまるで、小学校での転校生紹介みたいだなと千春は少々げんなりする。


 登校初日、千春が初めて入った教室は想像以上に狭かった。そのうえ、Sクラスの生徒は見るところ5人しかいなかった。その5人もなんだか目に光がない。とても覇気があるクラスとは言いづらい。


「はい、じゃあ自己紹介して」


 千夏は何故か嬉しそうである。自分の兄を転校生として紹介する機会なんてないだろうからそこを楽しんでいるのかもしれない。


「えー、竹田千春と言います。よろしくお願いします」


 とりあえず千春は言われたままに自己紹介をした。


「あのー先生、質問ー」


 やる気のない目をした少しギャルっぽい雰囲気の子が手を上げる。


「なんですかシュリカさん。転校生への質問はホームルームが終わった後にお願いしますね」

「いや、違くて。その転校生の隣にいるのは?そっちも転校生?」


 千春の隣に視線を移すとそこには何故かどや顔をしたアシュリーが立っていた。


「……あのー、あなたは?」


「ああ、気にしないで頂きたい。私はアシュリー・スノースマイル。勇者千春と誓いを立てた騎士です。この身は常に勇者千春と共にあります。気にせず続けてください」


「いえ、そうではなく。アシュリーさんですよね。あなたのクラスはBクラスでしたよね?なぜここに?」


 多少狼狽える千夏に全く動じることはなくアシュリーは胸を張った。


「私はBクラスである前に勇者千春の騎士です。千春の隣にいるのは当然と言えるでしょう」


 そこにいるアシュリー以外の全員が「これは何を言ってもダメだ」と諦めの空気を出していた。


「アシュリー、自分のクラスに戻ってくれ」


「!何故ですか千春!騎士の誓いが果たされないなど、あってはならないことなのですよ!」


「半日クラスが別れるぐらいで大げさだな。いいから自分のクラスに戻りなさい」


「ち、千春~~」


 千春はあーだこーだ言うアシュリーの背中を押して半ば無理やり教室の外に押し出した。


「え、えーと、じゃあ、千春にい……じゃなかった。千春さんはあの空いている席、マリンさんの隣に座ってください」


 千春は少ないクラスメイト達を見ながら後ろの席に座った。


「よろしくね!僕、マリン・アオンコ!」


 元気のないクラスの中ではかなり浮くぐらい元気に挨拶してきたのはマリンと名乗る獣人の女の子であった。獣人と言ってもタカオミ・ゴッドイーターみたいに顔がまんま狼というわけではなく、顔などはほとんど人間の顔である。ただ、ちゃんと耳としっぽが生えている。丸い耳と太い大きなしっぽを見るに現実世界でいうたぬきに近い印象を千春は受けた。


「ああ、これからよろしくな【ぽんぽこ】」


「【ぽんぽこ】?」


 多少の不安要素も伴いながらこうして千春たちの学園生活がスタートした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あはは!それでチハルに追い出されたって、まぬけ~」


 学園内にある食堂でラナはアシュリーを指さして笑っていた。とても楽しそうである。腹が捩れるのお手本みたいだ。


「仕方ないではないですか、クラスが別々では万が一の時に千春を守ることができないのですよ」


「ひーひー、あー面白かった。別に何日も会えない訳じゃないのよ?今もこうやって一緒にご飯食べてるじゃない」


「……いや、アシュリーは講義一つ終わるたびに来てるぞ」


「え、……まじ?」


 講義と講義の間の約10分程度の休憩時間さえ訪れていると知ったラナはさすがに若干引いていた。千春としてもここまでべったりされるのは想定外で、正直戸惑っている。確かに今まで、アシュリーとラナは常に千春のそばにいて、それが当たり前のようになっていた。


「ラナのクラスの方はどうだ?」


「私?私の方は特に問題ないわよ?みんな私に優しいし」


 千春としては初めての学園生活にウキウキしていた分、理想を裏切られたりしないか心配だったが、本人はそうでもないみたいだ。この分なら友達も早く出来るかもしれないと千春は思った。


「おい!お前ら見ない顔だな。どこのクラスだ?」


 ほのぼのと三人で食事していると、いきなり上級生っぽい三人に絡まれる千春たち。リーダーっぽい男はローブを着ているが人相の悪いまるでチンピラであった。魔法使いでもこんなガラの悪い奴がいるのかと千春は興味深く観察してみる。


「何見てんだコラ!」


 観察していたら、いちゃもんを付けられる。


「俺たちに何か用でも?」


「用なんかねーよ。どこのクラスかって聞いてんだよ」


「Sクラスだけど」


 今にも切りかかりそうなアシュリーを制して千春は答える。


 すると、魔法チンピラどもは顔を見合わせて笑い出したのだ。


「Sクラスだってよ。まじか。よくここに顔を出せたもんだな!」


「Sクラスだとここにいたらダメなのか?」


「ダメに決まってるだろ。落ちこぼれのSクラスは見すぼらしい自分たちのクラスから出てくるなよな」


 おやおや、と千春は思う。どうやら、Sクラスとほかのクラスでは大分格差があるようであった。Sクラスは魔法適正が低いクラスだとは聞かされていたが、まさか学食を使っているだけでいちゃもんを付けられるとは完全に想定外である。


「え、やだ。なんでSクラスがいるの?」「うわ、近づくとこっちまで魔法適正が下がっちまうぜ」驚いたのは、絡んできた魔法チンピラだけでなく、同じ学食にいた他の生徒まで陰口を言い出したことだ。


「分かったか?Sクラスの居場所はここにはねーんだよ。迷惑だから早く出て行ってくれねーかな」


「千春行きましょう。こんなところにいても不快になるだけです」


「なんだとこら!」


 魔法チンピラの一人がアシュリーの肩を掴んだ瞬間、アシュリーの渾身の右ストレートが魔法チンピラのあごに見事にヒットした。


「てめえ!なにしやがんだ!」


 仲間がやられた魔法チンピラたちは揃ってアシュリーに掴みかかるがアシュリーはいともたやすくかわして反撃する。ついでにラナも参戦し、魔法とは何ぞやと言わんばかりのただの肉弾戦が繰り広げられた。千春が止める暇もなかった。


「……あちゃー」


 頭を抱える千春。その下には三人の魔法チンピラが横たわっていた。

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