第10話 魔法学園入学

「ではこれから魔法適正テストを開始します」


 語尾に“ざます”とかつけそうな眼鏡をかけた試験官の女性魔法士はおもむろにでかい水晶を取り出した。千春が持っているモンスター捕獲用の水晶の何倍もありそうな大きさだった。これでどうやら魔法適正とやらを判別するようである。


 ダイブン国王との謁見のあと、すぐに編入の手続きが取られ、千春たちはすぐにウェノガ学院に案内され、学院内のこの部屋に案内された。王の計らいで筆記試験などは免除になっているが、クラスを分けるこの適正テストなるものは絶対に受けないといけないらしい。


「今からこの水晶に両手で囲うように翳してもらいます。その時に変化した水晶の色で適性が分かるようになっています。例えば赤なら攻撃系の魔法に適正があり、緑なら補助系の魔法に適正があるといった具合です」


 どうやらウェノガ学園ではその適正ごとにクラスが分かれており、そのクラスに適した授業計画が定められている為、まずはどこのクラスに入るかを決める必要があるらしい。


「では、私から行きますね」


 アシュリーが先陣を切った。手をかざすと黄緑色に淡く光り出す。


「アシュリーさんは回復系と補助系の魔法に適正があるようですね。少し黄色が強いようですので回復系のクラスで良いでしょう。Bクラスですね」


 アシュリーはBクラスに決まったようだ。神速や幻惑などのスキルを使っていたので補助系かと千春は勝手に思っていたが回復系の方が適正は高いようだ。


「アシュリーが回復魔法を強化してくれると助かるかもな」

「はい!任せてください!」


 アシュリーは千春に期待されてやる気になったようだ。


「次は私ね!よーし」


 次はラナが手を翳す。すると水晶の色が薄い紫色に淡く光り出した。


「おや?これは珍しい。召喚系統の適正がある方のようですね。見たところ攻撃系統よりも召喚系統の方が強そうですし、Dクラスで良いでしょう」


 ラナはちょっと特殊なクラスのようだ。盗賊に必須な探知スキルなどを多く習得していたのでてっきり補助系かと思っていた千春としてはかなり以外であった。


「召喚ってのはどんなものを召喚できるんだ?」

「基本的には精霊を呼び出して戦闘に役立てるものが多いですね」

「へえ、なんかカッコいいわね!気に入ったわ!」


 ラナもやる気満々のようである。


「最後は俺か……」


 千春はなんだか悪い予感がしていた。思えば最初にシュラ国で能力を見せてくれと言われてから、良いことなんて無かった。ここまで来れたのは仲間であるアシュリーやラナ、千冬が協力してくれたのと知恵を凝らしたからである。どうせ、ここでも最低の成績で行くクラスがないとか言われるのかと千春は覚悟して水晶に手を翳す。


「……こ、これは!」

「え?チハルすごくない?」


アシュリーとラナが同時に驚きの声を上げる。なんと水晶が眩く虹色に光っていたのだ。千春はあまりのことに驚きを隠せずにいたが肝心の試験官の女性はかなり冷静に


「これは……綺麗に全系統分かれましたね。Sクラスに行くしかないですかね」


 と言った。


「Sクラス?」

「去年から新設された新クラスでして、勇者様のように全系統に適正がある方用の特別クラスです」

「全系統!すごいじゃないですか千春」


 まさに英雄の誕生とばかりに手を取り合って喜ぶ千春たち。その横で凄く申し訳なさそうに試験官の女性が「あのー」と遠慮がちに手を上げる。


「基本的に全系統適性があるということは能力が高いというわけではないんです」

「……なんだって?」

「一般的に適性は少ない方が優秀だとされています。例えば攻撃魔法系統ならより赤に近い方がその系統を伸ばしやすく、より高等な魔法を扱えます。しかし、適性が一系統の人材は殆どいません大体3、4系統適性がある方が普通でアシュリーさんやラナさんのように2系統の方は大分優秀です。全系統の方は確かに全系統使えますが、初級以下の魔法しか習得できない人がほとんどで……」


 最後かなり言いにくそうに言葉を濁す試験官の女性。つまりはハズレということであろう。普通虹色に光ったらすごいと思うだろと千春は心の中で愚痴った。千春はショックだったが、段々こういう状況に慣れてきている自分がいることに気づきそっちの方がショックだった。


「まあ、あくまで適正試験なので。適正試験の結果はいまいちでも在学中にメキメキ力をつけて優秀な成績を残した学生もいましたし。これからの頑張り次第ですよ」


 最終的には女性試験官に慰めの言葉を頂く千春。いまいちな千春でもこれからの頑張り次第では何とかなるかもしれないらしい。


「それでは各クラスの担任の教師に挨拶に行きましょうか。今日は学院は休みですが、教師は在中しておりますので」


 試験官の女性は千春たちを廊下の方に促した。千春たちが部屋から出ると試験官の女性は扉に鍵を掛けた。


「では、私についてきてください」


 言われた通りに試験官の女性に続く千春たち。廊下を歩いているとAやBと書かれたプレートが刺さっている部屋が目に入る。ここが教室だろうか。千春が中をのぞくと大学の講義室のような立派な講堂だった。さすがはダイブン国1番の魔法学院。施設のレベルもかなり高いと見える。


「ここが各クラスの教室になります。座学は基本ここで受けていただきます」

「へえ!ここで私たち授業を受けるのね!」


 ラナはよほど学院に入れるのが嬉しいのか明らかに声が弾んでいた。


 さらに進むと教官室と書かれたプレートが目に入った。その先にまたAとかBとかが書かれたプレートが部屋の扉に貼られていた。


「ここからが教官室です。アシュリーさんはBの教官室に、ラナさんはDの教官室にお入りください」

「はい」

「わかったわ!」


 アシュリーとラナはそれぞれBとDの教官室に入っていった。千春は自分のSクラスを探すがどう見てもA~Dのプレートしか見当たらない。そういえば教室もA~Dまでしかなかった気がすると千春不思議に思っていた。


「勇者様はSクラスですので二階になります。付いて来ていただけますか?」


 どうやらSクラスは別の場所にあるらしい。千春は女性試験官と一緒に階段を上り二階に向かった。


「こちらです」


 女性試験官が手を皿にして示した先には確かにSクラスと書かれた紙が扉に貼られていた。そう紙である。プレートではない。しかもA~Dクラスは金属のプレートにかっこよく印字されていたのにSクラスは紙に手書きで書かれていた。しかも若干8に見えなくもないお粗末な字であった。


「あのーここですか?」

「ええ、Sクラスは去年新設したばかりのクラスで2階の空いているこの部屋しかなかったもので」


 聞けば聞くほど不安しか出てこないSクラスである。一体担任はどんな人物なのか。いやな予感しかしない千春である。ちらりと女性試験官を見ると無言でにこりと微笑む。早く中に入れと言わんばかりだった。千春は観念して扉をノックした。すぐにどうぞ―と女性の声がする。


「っつれーしまーす」


 中に入ると両サイド背の高い本棚があり、その先にこれまた本に支配された机が目に入った。その机の前にその女性教官は立っていた。


「あなたが勇者様ですね。私はSクラスの担当教官の竹田千夏と言います。これからよろしくお願いいたします」


 女性教官は恭しく頭を下げた。千春は思わず絶句した。それもそのはず、その竹田千夏という女性に千春はバリバリ見覚えがあったからだ。


「……千夏……なのか?」

「え?あれ?千春兄さん?」


 あまりの衝撃に二人は向かい合ったまましばらく動けないでいた。

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