第8話 洞窟

 ミカサノ盆地の中心部、魔王の城がある所に行くには必ずどこかの洞窟を抜けていかないといけないという。つまりそれぐらい高い山に囲まれているということだ。


「千春、洞窟の前に何かありますよ」


 どうにかアオイたちをやり過ごし、千春たちはミカサノ盆地へと抜ける洞窟の前まで来ていた。


「何か書いてあるわね、なになに~。『この先魔王の城、洞窟を通るのに十分な魔力量を持たない者の通行を認めない』?なんだが偉そうね」

「……発行元がダイブン国になっていますね。つまり、国が設置した看板ということになりますが、理由がわかりませんね。洞窟を抜けるのに魔力が必要だということは文章で分かりますが……」


 なんとなく危険な雰囲気は伝わってくるが、いまいちピンとこない千春たち。


「とりあえず入ってみるか」

「ここにいても仕方ですしね」

「仕方ないわね。私が先頭に行くわ。でも気を付けてよね。強力な魔物がいるかもしれないし、魔王軍と出くわす可能性もゼロじゃないわ」


 盗賊の探知スキルを持つラナを先頭に先に進むことにした千春たち。洞窟の大きさは高さと幅が3メートルといったところだろうか。そんなに狭い訳ではないが、戦うのに十分な広さでもない。中で戦闘になったら面倒くさそうではあった。隊列はラナ、千春、アシュリーの順番で進むことにした。


「どうだ?何かあるか?」


 ランタンの光を持って先に進むラナに話しかける千春。ラナは「う~ん」となにやら歯切れの悪い返事をした。


「今のところ探知スキルに反応はないわね。びっくりするぐらい何もないわ」

「……私も特に体の変化などはありませんね」


 特に何もないまま千春たちはしばらく洞窟の中を進んだ。


「……おかしいわね。敵どころかコウモリ一匹出てこない。静かすぎて逆に不気味だわ」


 ラナが一旦止まって辺りを確認する。確かに周囲には生き物の気配すらなく、不気味な静寂が立ち込めていた。


「……あれ?」

「どうしたラナ?」

「探知スキルが使えない!なんで……」


 何故か探知スキルが使えないと言った瞬間ラナの姿が消えてしまった。


「ラナ!」

「動かないでください千春!何かのトラップの可能性があります!」


 いきなり姿が消えたラナに驚きを隠せない千春だったがアシュリーは冷静だった。ラナがランタンごと消えてしまったので真っ暗になった中でアシュリーは予備のランタンを取り出す。アシュリーはラナが消えたあたりを注意深く照らして観察する。


「……おかしいですね。消え方からして転移させられたのかと思いましたが、そのようなトラップは見当たりませんね」


 アシュリーが言うように確かに何もないように見える。


「ん?……千春、ステータスを確認してもらっても良いでしょうか?」

「ステータス?」


 千春は言われた通りにステータス画面を確認する。特に変わったところは見つけられない千春。


「MPが減っていませんか?」

「あ!まじだ。何でこんなに減っているんだ?」


 見ると千春のMPが7/87という表示になっている。基本MPとHPは時間経過で徐々に回復するのでMPを使用しない限りは常に満タンのはずである。特に千春はMPを消費するスキルをあまり持っていないので今まで気にしていなかった数値である。もちろんMPを使うようなことは無かったはずである。だとすれば考えられるのは。


「恐らくこの洞窟内では常にMPが回復せずに減り続ける状態だということですね。とにかく、一度撤退しましょう千春。ラナのことは一度体制を立て直してから……」


 アシュリーがそう言っている間にアシュリーも消えてしまった。


「アシュリー!」


 千春も自分のステータスを確認するとMPはもう2しか残っていなかった。みるみるMPが減っていく。そして0になった瞬間周りの景色が歪みだして、視界が一瞬にして消えた。


「あ、千春も帰ってきた」


 気が付くと洞窟の前に戻ってきてしまっていた。胡坐をかいてやる気なく頬杖を突くラナがいた。アシュリーもいる。


「千春、どうやらこの洞窟は常にMPが減り続ける呪いのようなものがあり、そしてMPが0になると自動的に洞窟の外に転移させられる術式が組み込まれているようです」

「そ、だから探知スキルを使って先に進んでいた私のMPが先に枯れて一番最初に入口に転移しちゃったってことね」


 なるほどと千春は納得するが、このままでは魔王の城に行くことが出来ない。どうしたものかと頭をひねる。


「千春、一度ダイブン国の主都に行ってダイブン国王に話をしてみるのはどうでしょう。どうやらこの仕掛けにダイブン国が関係しているのは看板からみてほぼ間違いないですし、頼めばこの仕掛けを解除してくれるかもしれませんよ」


 アシュリーが言うようにそれが一番可能性がある。このままここにいても埒が明かない。


「そうだな、ダイブン国の主都に行ってみるか」


 千春たちは一路ダイブン国主都に向かうのであった。

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