第6話 ダイブン国
「千春―、行きますよー」
アシュリーが町の出口付近で手を振っている。実はもうこれで3回目のゲームオーバーである。選択肢はどちらを選んでも結局殺された。2回目に「いいえ」を選んだ時は千春が知らない筈の情報までしゃべってしまったため、先程の3回目のチャレンジでは「いいえ」を選択した上でぼろが出ないようにしたのだが、結局仲間にしない理由を問いただされ「ワールドイズマイン」を使われ、全滅した。
「……選択肢が問題ではないのか?」
もう、こうなってくるとアオイ達に遭遇すること自体が死亡フラグの可能性が高い。あのチートスキル二つには到底敵わない。で、あれば千春が取れる手段は一つ。
「アシュリー、ラナ。予定変更だ。ダイブン国の主都に向かうぞ」
アオイ達に会わなければいいのだ。千春たちは魔王のいる城へ至るための洞窟を抜ける手段を探るためミカサノ盆地を目指していてアオイ達に遭遇した。であれば反対方向のダイブン国に進めばいいのである。いつかは対立する予感はするがそれはもっとこちらが力を付けた後の方が良いだろう。その分取れる選択肢も増えるはずだ。
「え?話が違うじゃない?どうしたのよ?」
ラナが訝しがる。説明してもいいが、余計な不安を与えることもないだろうと千春は自分の胸にしまい込んだ。
「もしかしたらダイブン国の国王もシュラ国と同じくロクでもないことやってるかもしれないだろ?先にそれを確認しにいこう」
「……まあいいけど」
「千春がそう言うなら私は構いません」
二人とも不思議には思っているようだが特に反対はしなかった。というわけで千春たちは一路ダイブン国へと向かった。
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「へーここがダイブン国の主都ね。なかなか立派ね」
街路を歩くこと3時間ほど、ダイブン国主都の城壁が見えてきた。シュラ国の城壁と比べると低い城壁だがその分変わったものがあった。
「なんか巨大な半透明なバリアみたいなものが見えるがあれは?」
「ダイブン国は魔法国家ですからね。あれは巨大な街を覆う魔法障壁です。魔物などが入らないようになっているんですよ」
アシュリーはダイブン国に遠征に行ったことがあるようなので知っているらしい。ジライイワの件といい、アシュリーの知識には助けられる。
「こんにちは、旅の方ですか?」
城門の前まで来ると門番の兵士が話しかけてきた。
「私たちは魔王討伐を行っている勇者一行です。ダイブン国王に謁見を申し込みたいのですが」
アシュリーは堂々としていた。千春が出る幕はなさそうである。
「なんと!勇者一行でしたか。それは失礼しました。もしや、ユウの国から?」
「いえ、私たちはシュラ国からですが、なぜユウの国と?」
ユウの国はダイブン国の西にある、確か千春の記憶では現代の熊本県にあたるところのはずである。
「ユウの国に勇者が現れたと行商人たちの間で噂になっていたもので、すみません」
「……そうですか、私たちはユウの国には行ったことが無いので別人でしょう。どんなパーティなのですか?」
「さあ、私も小耳に挟んだ程度なので、剣士を含む4人のパーティとは聞きました。あ、あと、最近魔法使いが力不足でパーティから追い出されたようですね。新たに魔法使いを募集していると噂になってましたよ。ダイブン国は優秀な魔法使いも多いですからこちらに来てくれるのではないかと言っているものもいましたね」
「そうですか、ありがとうございます。それでダイブン国王への謁見は可能でしょうか?」
気になる情報ではあったが、これ以上は門番も知らないようなので話を進めるアシュリー。
「おっと失礼しました。王への謁見は順番に行われておりますので、本日申請しても早くて明日以降になるかと思われますが……」
「構いません。申請はどこに行けば良いですか?」
「いいえ、申請は私どもで行っておきます。日取りが決まりましたら宿に知らせを出します。ちなみに宿はお決まりですか?」
「いや、まだですが」
「では、カワセミ亭という宿をご利用ください。そこに使いを出しますので。勇者様とお二人のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「こちらが勇者千春。私が騎士のアシュリー、で、ただの仲間のラナです」
「ちょ……」
ラナが一瞬抗議の声を上げるがアシュリーに抑え込まれた。
「勇者千春様に騎士のアシュリー様、そしてラナ様ですね。承りました。それではしばらくの間このダイブン国をお楽しみください」
門番にしては凄く丁寧な奴だなと千春は思った。まるで観光協会の人間に案内された気分である。
「行きましょう千春、そこの魔法障壁は魔物で無ければ普通に入れますので」
すたこらさっさと前に進むアシュリーに続いて千春も魔法障壁に恐る恐る入ってみた。
「あ、ほんとだ。全然抵抗とか無いのな」
スルリと抵抗なく魔法障壁の中に入る千春。すんなり行き過ぎて本当に魔物に効果があるのか疑いたくなるレベルである。
「ちょっと!ただの仲間ってなによ!」
門番から離れてアシュリーが抑え込んでいたラナを解き放つと開口一番文句を言う。
「あら?盗賊と紹介しても良かったのですが?あなただけなら勝手にしても良いですが勇者の仲間が盗賊だというのは体裁が良くないことぐらい分かりますよね?」
「ぐぬぬ!」
納得はいかないようだがラナは押し黙った。アシュリーの言うことも一理あるからだろう。
ともかくダイブン国王への謁見は明日以降になりそうである。宿も決まったことだし、少しゆっくりしようかと千春は城門から中に入る。
「おお、これは」
城壁の中は活気にあふれていた。シュラ国の王都もかなりの賑わいではあったが、ダイブン国も負けてはいない。メインストリートの路肩には行商人たちが景気よく客の呼び込みをしていた。シュラ国と違うのは魔法使いの風体をした人が多いことだろうか。
「この先に噴水があってそこを左に曲がった先のすぐ左手が例のカワセミ亭みたいですね」
アシュリーが地図を見ながら通路の先を指さす。どうやら先程の門番から地図をもらっていたらしい。
「ねえチハル!宿屋に荷物を置いたら街を見に行きましょうよ!どうせ明日までやることないんだし」
「まあ、別にやることもないしな」
先程の不機嫌さは一変して千春じゃれつくラナ。アシュリーは若干面白くなさそうに見ているが特に何も言わなかった。
少し歩くとアシュリーの言う通り巨大な噴水が見えてきた。
「おお、結構でかいな」
巨大な噴水に感嘆しながら千春は視線を下に移して背筋が凍りついた。
「久しぶりね千春。元気そうで良かったわ」
その巨大な噴水にちょこんと座っていたのは白鱗のアオイ、そしてその隣には難しい顔をしたタカオミが立っていた。
「……なんでここに……」
ここにはいない筈の二人との遭遇に千春はかなり動揺した。
「なんでって冷たいのね千春。久しぶりに会ったっていうのに。それとも私たちに会いたくない理由でもあったのかな?」
眼帯の少女は可愛らしく首を傾げた。
「ねえ、千春。このちっこいのとでっかいのは知り合いなの?ってどうしたの?すごい汗よ」
ラナは千春の動揺に気づいたようである。アシュリーもそれに気づいて千春とアオイ達を双方見比べる。どうしたらいいのか分からないようであった。
「シュラ国のギルドで私が千春に出会った時、千春たちは仲間を募集していたのだけれど、私たちがちょうどヒナタの国のクエスト中でパーティになれなかったの。だから、次に会った時には千春の仲間になるって約束していたの」
アオイが代わりに説明する。千春は心臓に落ち着けと繰り返し念じるが効果はない。
「ねえ、千春。今なら私たちをパーティに入れてくれるかな?」
そして千春が二度と見たくないまがまがしいウインドウの選択肢が現れる。
本当に【アオイ・ゴッドイーター】と【タカオミ・ゴッドイーター】を仲間にしますか?
→はい
いいえ
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