第2話 白鱗再び
「よし、これで3体目だ」
千春達一行はミカサノ盆地を目指して街道を進んでいた。ナシ町で店員にドン引きされながらも入手した水晶でモンスターを捕まえながら進んでいた。
「しかし、こんなに捕まえてどうするんですか?」
「いやなに。自分のスキルはちゃんと把握しておかないといけないだろ」
いままで半透明になるという中途半端な能力しかなかった千春。いや、正確に言うと半透明になるのはシステムバグなので能力ではないが。それにしてもやっと主人公らしい強い能力が手に入ったのだ。しかもこれは勇者である千春にしか使えない能力である。ついにまともに戦える剣を手にしたと言っても良い。しかも、勇者が倒した魔王の能力を得られるのであれば、この先魔王を倒せば倒すほど強くなり、冒険が楽になるということだ。
「まあ、そうよね。一番使えそうなあのドラゴンは制御不能で実際ただの無差別兵器だもんね」
ラナが呆れたように言う。ラナが言う使えそうなドラゴンというのはエクストラミッションで捕獲した『究極魔王竜サトル』のことである。確かにこのモンスターは苦労しただけあってレベル300越えの文字通りの化け物だが、レベル差がありすぎるせいか、水晶から出しても千春の言うことは全く聞かなかった。ダイブン国に入る前の荒野で一度水晶から出してみたものの、数秒でそこら一帯を焦土と化した。理性があるかどうかすら不明である。
「あのドラゴンの使い道はこれから考えるとして、やはりさっきの店で大量に水晶が買えたのはラッキーだったな」
大量に水晶を入手したおかげで試し打ちが出来、大体のこのスキルの傾向が見えてきた千春。
まず、自分よりレベルが低いモンスターはほぼ100%捕獲できること。水晶がモンスターに当たりさえすればいいので戦闘回避にも使える。自分よりレベルの高いモンスターはそのレベル差によって捕獲率が変わるようだ。若しくは戦闘でモンスターの体力を削ると捕獲率が上がることを確認している。
次に捕獲したモンスターは基本的に千春の指示通りに動いてくれる。そのモンスターに不可能な動きや技は無理だが、動くなと命じれば戦闘が終わってもずっと動かない。多少レベルが高いモンスターでも捕獲に成功すれば今のところ指示通りに動いてくれるので『究極魔王竜サトル』が例外すぎるのだと分かる。そして、戦闘した後の経験値などは入らないらしい。つまり、戦闘に参加してもモンスターのレベルは上がらない。しかし、モンスターのステータスを見るとそのモンスターごとに上限レベルが設定されている。例えばスライムLv7/15という具合だ。ということは捕獲した後は全くレベルが上がらないか、若しくはモンスターのレベルを上げるには特別手段、アイテムが必要かだろうと千春は考えている。
そして、ここが重要なのだが水晶の所時上限、捕獲上限、召喚上限がないということだ。現状バッグに入るだけが上限というのが実情である。出来ることなら実証事件をやりたいところだが、金もバッグの中身も有限であるので今後の課題といったところだろう。
「ちょっと休憩しない?わたし疲れちゃった」
ラナが口を尖らせて街道沿いの大きめの岩に腰掛けた。確かに昼にナシ村を発ってからずっとあるき通しだった。体感で3時間ぐらいだろうか、陽も大分傾ている。
カチ
土と岩ばかりの街道には不似合いの機械的な音が響いた。
「……?なんだ、今の音?」
「!!……ラナ!動かないで!」
アシュリーが血相変えてラナを制止する。
「な、なによ……?」
「恐らく、今の音ジライイワです」
「ジライイワ?」
「ええ、昔ダイブン国の兵士と合同演習をしたときに聞いたことがあります。ダイブン国には岩に擬態したモンスターがいると、それがジライイワです。一見ただの岩ですが上に何か置かれるとスイッチが入り、その重さが無くなると爆発すると。旅人などが良く被害に遭うらしいです」
その情報だと現実世界の地雷に近い。恐らくこのダイブン国を作った人物の仕業に間違いないだろう。
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、今私が座ってるこの岩って」
ラナが恐る恐る下に目線を移すとぎょろっとした目がラナが座っている岩に付いていた。目が合うとラナは小さく悲鳴を上げる。
「どどど、どうすんのよ!?じゃあ、ここからどいたら……」
「爆発します」
ラナは半分泣きそうな目で狼狽えている。盗賊という職業で見た目と違いいつも冷静な判断をするラナも自分の知らないモンスターには警戒していなかったのだろう。貴重な光景である。
千春とアシュリーは顔を見合わせてラナから距離をとった。
「ちょっとーーー!うらぎりものーー!なに逃げてんのよ!」
「ラナ、良く聞いてください。ジライイワはそこから動かない限り爆発しません。今のうちにこの状況を何とかする方法を考えましょう」
「じゃあ、逃げなくてもいいじゃない!戻ってきなさいよーー!」
ラナは泣きそうな顔でピーピー叫んでいる。
「……実際この状況で何とかする方法があるのか?」
「その時ダイブン国の兵士の話によると、代わりに重りとなるものを上手くスライドさせるように置き換えると爆発しないらしいですが、少しでもズレると爆発するのでかなり慎重さと正確さを要求されるそうです」
「本当に地雷みたいだな……あとはそれをどっちがやるかだが」
流石にラナを見捨てることは出来ない。
「……ちょっと待てよ。あれも一応モンスターなんだよな?」
「そうですが……まさか千春」
そう、モンスターであれば水晶で捕獲できる可能性がある。千春はバッグから水晶を取り出す。やってみる価値は十分ある様に思えた。
「チハル!助けてくれるわよね!死んだら絶対化けて出るわよ!」
「分かってるって!いいか、ラナ!そこから動くなよ!」
ラナは必死さがとても伝わってくる叫びをぶつけてくる。千春はぎりぎり水晶が届く位置まで近づいてから水晶を投げた。
こつんと水晶がジライイワに当たり、一瞬で水晶に吸い込まれていった。
「いたっ」
おしりから地面に落ちたラナは小さく悲鳴を上げる。水晶にはジライイワLv14/25という表示が出ていた。
「おお、一か八かだったが成功したな。……これバッグの中で爆発したりしないだろうな?」
ジワイイワをゲットした。しかし、動けないのであれば戦闘には役に立たないだろう。
「ん?千春!あそこにもモンスターがいますよ!」
アシュリーが茂みの方を指差す。千春がその先に目を向けるとそこには草の茂みから首だけ覗かせた狼のモンスターがいた。
「お、狼型のモンスターか。通常狼って群れで行動するもんだと思ってたけど一匹だけか。まあ、いいさ。ついでだから捕まえてしまおう」
千春は水晶を思いっきり茂みから顔を出す狼型のモンスターに投げた。
ガン!
めちゃくちゃ痛そうな音がしてその狼型のモンスターに当たった水晶はそのまま地面に落ちる。モンスターが水晶に吸い込まれることは無かった。
「あ、あれ?おかしいなあ?」
こんなことは初めてである。捕獲が失敗するにしても今まで水晶に吸い込まれなかったモンスターはいなかった。あの究極魔王竜サトルでさえ水晶に吸い込まれたのだ。何か特殊なモンスターなのか。まだ、千春が知らないルールが存在するのかもしれない。
「もう一回投げてみるか。おりゃ!」
また、力いっぱい水晶を投げる。
ガン!
またもや水晶は痛そうな音を立てて狼型のモンスターに当たって、地面に落ちた。狼の頭部には大きなたんこぶが二つ付いていた。よく見ると狼の顔に青筋が浮かんでいる。
「……コロス!」
狼型のモンスターは押し殺した声でそう言った。めちゃくちゃ怒っている。今にも喉元食いちぎられそうな迫力である。そして、その口癖に千春は覚えがあった。以前この言葉を言われたことがある。
「いきなりものを投げつけるとはどういう了見だ!?ああ!!」
茂みから出てきたのは狼頭のマン〇ィズアミッション、ではなく人狼族であった。水晶で捕獲できないのも当たり前である。だってモンスターではないのだから。
「あはは、ダメよタカオミお兄ちゃん。たんこぶぐらいで殺さないで頂戴」
狼の獣人の後ろから両目眼帯の少女が現れた。そこで千春は完全に思い出した。シュラ国のギルドで出会ったこの少女「アオイ」のことを。
「……白鱗の」
アシュリーが小さく呟く。驚いているのだろう。確かあの時アシュリーは言っていた。この世界に存在する伝説級のパーティの一角、「白鱗」。それがいま再び目の前に現れたのだ。
「久しぶりね千春。元気そうで良かったわ」
アオイの口元は優しく、ほほ笑んでいた。
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