第29話 天啓
「作戦会議をする」
魔王の城にセーブポイントが無かった為、ブロッサム砦まで戻ってしまった千春一行。ちょうどこれから魔王の城に向かうところである。
ちなみにアシュリーは物資の積み込み、ラナはタピオカの砦探検に連れまわさせている。つまりここには千春と千冬しかいない。
魔王戦からロードして戻ってきたため、千春と千冬以外はまだ魔王の城に着いていないことになっている。
「作戦って言ってもなー。あれこそ無理ゲーってやつじゃないか?」
まあ、ぶっちゃけ千冬の言う通りである。魔王自体は檄弱であるがその取り巻きのモンスターが強すぎる。
「……まあ、そうだな」
千春は頭を抱える。考えろ考えろ。自分がプレイしてきたゲームで見たようなことは無かったか。千春は今までプレイしてきたゲームを思い返していた。
「……考えられるとすれば、『負けイベント』である可能性だな」
「負けイベント?」
「ああ、よくRPGなどで発生する絶対に勝てないバトルのことだ。ただ、シナリオ上負けることが前提として作られているから、負けてもストーリーは進む」
「……なるほどな。RPGはあまりわからねーが、そういうこともあるんだな?なら、一回魔王戦に負けてみればいいってことだな」
Lv100のモンスターが3体はさすがにやりすぎと言えなくもない。
「それに、全滅してもまたここに戻ってくるだけだしな」
千春達は再び魔王に挑むことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数時間後、千春達はまた、このブロッサム砦に戻ってきていた。
「……おい、にいちゃん。普通にぼこぼこにされて死んだぞ」
千春達は再度魔王に挑み、見事に全滅した。
「……まじかよ。あれが負けイベントじゃないだと?」
恐らく戦闘時間は1分も持たなかった。瞬殺もいい所である。
「いやいやいや、おかしいでしょ。Lv100が三体だぞ?ラスボスより強いんじゃないかあれ」
「……魔王はLv1だし、モンスターさえかわして魔王だけ攻撃すれば倒せる……かあ?」
「まあ、何でも試してみるしかないからな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さらに数時間後。
千春と千冬は頭を抱えていた。
「いや、……無理だろ、あれ」
千冬が呻く。既に何回か魔王だけを攻撃できないか何度か試した後である。
「兄ちゃんが半透明になって魔王の後ろに回り込むとか良い作戦だと思ったんだけどなー」
「あくまで、半透明だからな。透明ならまだ行けたかもしれないけど、結構見えるからな半透明、むしろ背景次第では逆に目立つから」
夜とかであれば少なからず有能な半透明スキルもここでは全く役に立たなかった。
「ていうかあのスキル『ゲットダゼ』は反則だろ……、ギリギリだし。むしろギリギリアウトの方だし」
「……これ言っちゃいけない気がするすんだけどさー、まじでアシュリー達が羨ましいんだよね。こっちは何回もやり直してるってのにさ」
5億年ボタン押した人と5億年体験する人みたいな感じであろうか。
「……何かが足りないんだろうけどな」
千春は思わず空を仰ぐ。とても気持ちいい青空が広がっていた。
「まったく関係ねーかもしれねーんだけどさ、聞いてくれるか兄ちゃん?」
「おお、何だ。言ってみなさい妹よ」
地面に胡坐をかく千冬。男っぽい性格の妹ではあるが、やっぱり女の子なのでもう少し女の子っぽくすればいいのにと思う千春である。
「ここさ、シュラ国っていうじゃんかー。何か聞いたことあるなーと思ってたんだ」
「……どういうことだ?」
「察しが悪いな兄ちゃん。私たちが住んでるこの福岡県がなんて呼ばれているか忘れたのか?」
「あー、『修羅の国』な」
いわゆるインターネットスラングの一つである。福岡県は犯罪件数や指定暴力団が多いことから主にインターネット上で荒廃している世界が舞台の漫画の『修羅の国』と掛け合わせて表現される。
「それで思ったんだけどよー、このブロッサム砦がある地方をノシクチ地方って言うだろ?反対から読んだらどうなる?」
「反対から……?ノシクチだろ?ち、ちく……しの。あ、まさか筑紫野か……?」
筑紫野市は福岡県の中西部。筑紫地域に位置する市である。千春は急いで地図を取り出して確認する。
「確かにこの地図を見ると福岡県の形によく似ているな。このゲームは福岡県を元に作られたってことか?」
「わたしも同じことを考えてた。そう考えるとヤーランドは位置的に糸島だろ?そして、魔王の城があるラクサー平野は……」
「らくさーだろ?いや、らくさあか。……朝倉!朝倉市か!」
朝倉市は福岡県の中南部、筑後地域に位置する市である。
「もしかしたら何だけどよ、この魔王の城がある場所に行けば何か分かるんじゃねーか?」
それは突拍子もない意見に思えた。しかし、いきなり千春の脳天から雷が落ちたような閃きが舞い降りた。
「……千冬、頼みがある。一度現実に戻って、この魔王の城がある場所を現在の地図に照らし合わせて、何があるか確かめて来てくれないか?」
「……にいちゃん?」
「もしかして、そこにマンションかアパートがあるんじゃないか?」
千春の中でそれは確信に変わりつつあった。
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