第28話 決戦

「というわけで俺たちは去ります」


 千春達は魔王サトルに別れを告げに再度魔王の間を訪れていた。


「……は?」


 予想外の返答だったようで魔王サトルは目を丸くしてすっとんきょーな声を上げた。


「君は別に王国に攻め入る気もなければ人を害することもない。生贄として連れて来られた女性たちは皆ここに残りたがってる。俺たちに出来ることはもう、ここを去ることだと以外にないだろ?」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ。お兄ちゃん勇者でしょ?魔王倒さなかったら一体何をしに来たのさ?」


 至極当然の疑問だとは思うがまさかその言葉を魔王本人から聞くことになろうとは誰も考えなかったであろう。千春としてももうちょっと魔王なら魔王らしいやつが良かったと思うのだった。やりにくいったらない。


「……はあ。まあ、お兄ちゃんたちがそれでいいんならいいけどさ。で?これからどうするのさ?」


「まあ、とりあえず別の魔王がいる土地を目指すかな」


「行けないよ」


 さらりと魔王は否定する。今何と?


「この世界には僕を含めて7人の魔王がいる。その土地の魔王を倒さないと次の土地には行けないんだよ。クリアを目指すならここで僕と戦い、倒す以外道はない」


 さらりとここがゲームの世界だと知っていることを明かす魔王サトル。千春は否が応でも警戒する。


「ああ、ちなみに僕はプレイヤーじゃない。NPCだよ。ちょっと特別な、ね。このキャラクターが作られた時にそういう情報が既に入れられてあったってだけの話。まあ、今はあまり気にしなくていいよ。そのうち分かるさ」


「……お前は一体何者なんだ?」


 アシュリーとラナとタピオカはよく分からないのか首を傾げていた。


「言ったじゃないか。ちょっと特別なNPCだって。ちなみに僕を倒すとご褒美にこのゲームの情報が一つ開示されるようにプログラムされているよ」


 これまた、驚きの事実が飛び込んできた。今まで謎に満ちていたこのゲームの情報が得られるというのだ。これは否が応でもやる気が出るというものであろう。


「お、いい目になったね勇者のお兄ちゃん。僕は戦争とか殺し合いは嫌いだけど、バトルは大好きなんだ。さあ、魔王と勇者のバトルを始めようじゃないか」


「……後悔するなよ魔王様」


 千春は剣を構える。しかし、魔王はレベル1で村の子供よりステータスが低い。どうやって戦うというのだろうか。


「ああ、悪いけど場所を変えよう。ここだとちょっと狭いからね。付いて来てくれる?」


 そう言って魔王は椅子から立ち上がりさらに奥の部屋に消えた。


 仕方なく千春達も後に続こうとした。


「まって!」


 いきなり、ラナが千春の行く手を遮った。


「ちょっと、罠だったらどうするのよ?盗賊の私が先陣を切るわ、千春達は後から付いて来て」


 そう言うとラナは先頭に立って歩きだす。こういう時盗賊スキルを持つ仲間がいると重宝するなと千春は感心した。魔王が消えた扉をくぐるとそこには下に続く石のらせん階段があった。魔王の姿は既に見えないが下から聞こえる足音で魔王が下に降りて行っているのは分かる。


 千春達は用心しながら降りて行った。


「わあー、ひろいねえ」


 階段を降り切るとそこには古代ローマ帝国のコロッセオを彷彿とさせる巨大な円形闘技場が姿を現した。タピオカが何故か嬉しそうに飛び跳ねている。地下にこんなものがあったとは誰も予想だにしなったはずである。


「おーい、こっちこっち」


 見るとすでに魔王サトルは闘技場の真ん中でスタンバっていた。千春達も続いて闘技場の真ん中に降りていく。


「なるほど、バトルにはおあつらえ向きってわけだ」


 いつの間にか、魔王サトルの前にはアモンが立っていた。もしかしたら魔王サトルの代わりに戦うのだろうか。


「千春!気を緩めないでください。十中八九魔王は何か隠し玉を持っています」


 アシュリーが剣を構えながらそう叫んだ。


「さて、と」


 魔王サトルは自分の目の前に手のひらサイズの水晶玉のようなものを三つ投げた。


「じゃあ、始めようか」


 水晶玉が光ったと思った瞬間、いきなり巨大なモンスターが三体現れた。


 一匹は三つ首の魔獣、地獄の番犬ケルベロス。

 二匹目は全身が固いうろこに覆われた鎧竜。

 三匹目は身長10メートルはあろうかという顔のない巨人。


「ちょ、なんだあれ。冗談だろ?」


 三匹の魔獣のステータスを確認していた千冬が絶句する。


「……三匹ともLv100越え!?ちょっとどうなってるのよ」


 ラナがほぼ悲鳴のような声を上げる。


 ケルベロスがけたたましい咆哮を上げる。これだけでHPが無くなるような絶望感を千春は感じていた。


「く、タピオカ!頼んだ!」


「がってんだー!」


 こうなればまともに太刀打ちできるのはタピオカしかいない。即座に巨大なドラゴンに変身するタピオカ。


「へえ、その子モンスターだったんだ!しかもインフィニットドラゴン?超激レアじゃん!」


 タピオカの姿を見た魔王サトルは歓喜の声を上げる。


「悪いけど、貰っちゃうね」


 次の瞬間、魔王サトルの手の中にあった水晶玉がものすごいスピードでタピオカに向かってぶっ飛んだ。


「え?」


 その凄まじいスピードにタピオカは避けることも出来ず、もろに顔面に水晶玉を食らってしまう。すると次の瞬間信じられないことが起こった。


 突然、タピオカの体が光り出し小さくなっていったのだ。そしてある程度小さくなったところで先程の水晶の中に吸い込まれてしまった。


 すると糸でもついているかのようにまっすぐ魔王サトルの手の中に水晶玉は戻っていった。


「これでまた僕のコレクションが増えたよ。ありがとう竜騎士のお姉ちゃん」


 魔王サトルはタピオカが入っていった水晶玉を再び地面に転がす。


 すると、水晶玉が光り出しタピオカが飛び出してきた。


「……タピオカ?」


 千春が呼びかけるも反応は無い。むしろ近づく千冬にタピオカは渾身のドラゴンクローを叩きつけた。


「っと、あぶないわね!」


 すんでのところでラナが千冬の服を掴んで引き寄せる。


 どうやら、タピオカはあの水晶によって魔王サトルに奪われてしまったらしい。


「うわあああ、ちょ、嘘だろ!?わたしのタピオカがああ。何時間かかって出したと思ってんだ!返せこのやろう!」


 千冬は怒り心頭である。


「これが僕の能力だよ。Lv1がMaxで城からも出れない制約の代わりにこの水晶を使えばモンスターであれば全て例外なく自分のものに出来る。その名も「ゲットダゼ」。さあ、バトルしようよ。勇者のお兄ちゃん」


 凄まじいチート能力である。何かあると千春も思っていたが、まさかこのような反則技を隠していようとは。やはり魔王の名は伊達ではないようである。

 千春は改めて戦況を確認する。


敵軍、魔王サトルLv1、アモンLv45、三つ首の魔狼:ケルベロスLv100、鎧竜:グランドラスLv100、巨人:ギガンテスLv100、インフィニットドラゴン:タピオカLv25

勇者軍、千春Lv20、アシュリーLv55、ラナLv38、千冬Lv25


 数でも、レベルでも圧倒的差であった。誰が見ても勝敗は明らかである。


「ロード」


 もはや、これ以外の選択肢は無かった。

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