第21話 進むべき道
セーブしますか?
→はい
いいえ
「おおおおお!!出来る!セーブが出来るぞおお!!」
村の入り口にある女神イチヴァ像の前で喜びの雄たけびを上げる男が一人。竹田千春である。そう、この眼鏡かけた女神像がセーブポイントだったのである。
「……神よ!」
「セーブが出来るだけでこんだけ喜ぶの多分兄ちゃんぐらいだぞ……」
その後ろで呆れ顔の妹、千冬。
千春は千冬に言われた通りにメニュー画面の説明書を見て色々な事を知識として得た。説明書を見ると色々と便利な機能の説明が書いてあった。今までのあらすじが見れるあらすじ機能、自分の職業から習得可能なスキルを確認できるスキルツリー機能。火や水と言った属性優位表やワールドマップ等々。
「こんなにも便利な機能があるとは驚きだ」
「私はそれを知らなかった兄ちゃんに驚きだけどな」
そんな二人の会話を少し離れた位置から見ているのがアシュリーだった。
「……どうでもいいですが、お二人とも兄妹という割にはとても仲が良いですね」
何故か不服そうに言うのだった。
「はあ?仲がいい?別に普通じゃないか?」
千春は何言ってんだと言い返すが、千冬の方は何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「そうだなー、私たち普通の兄妹だもんなー」
千冬はわざと千春の腕に抱きついて見せた。
「うお、なんだこいつ急に気持ち悪いな」
千冬はちらりと横目でアシュリーを見ると、それはもう分かりやすく悔しそうに顔を赤らめていた。
「そ、そうですか。私には関係のないことです!それよりこれからどうするんですか?」
無理矢理会話を終わらせようとするアシュリー。千冬は面白いものを見つけたと内心ほくそ笑むのであった。
「そうだな。とりあえず魔王軍と王国軍に追われているのは変わらないし、南下して魔王を倒しに行くか」
「そうですね、幸い千冬殿のドラゴンのおかげで両軍多少なりとも疲弊しています。しばらくは体制を立て直す為追手は来ないでしょう。これを機に魔王に攻め込むのも良いかと」
現段階で一番の戦力は千冬のインフィニットドラゴンである。あれだけの大軍を蹴散らす能力があるのだ。これは魔王戦も楽勝なのではないかと千春は考えていた。
「まあ、私のタピオカなら魔王でもある程度太刀打ちできると思うけど」
「そういえばあのバカでかいドラゴンはどこにいるんだ?村の外で飼ってるのか?」
千春は村の外に目をやるがあの巨大なドラゴンを隠すようなものは見当たらない。
「んー?その辺にいると思うけど。呼んでやろーか?」
極めて軽く、まるで犬でも呼ぶかのように「タピオカー」と言い放った。千春は慌てて千冬の口をふさぐが遅かった。
「バカか!お前あんなでかいドラゴンこんな小さな村に呼んだら……」
「よんだー?」
可愛らしい幼女が二人手をつないだままとてとてと歩いてきた。一人には二つの大きな角が生えている。
「お、レナと遊んでたのか」
二人の幼女は満面の笑みで「うん!」と元気よく返事をした。
「……え?」
千春はまさかとは思いながらも幼女を指さした。
「そう、こっちの角が生えてるのが『タピオカ』。こっちは友達のレナだ」
「あ、戦場でちびってた兄ちゃんだ」
「ちびってないわ!」
さすがはゲームの世界と言ったところか。この世界ではドラゴンは人間の姿になることも出来るということなのであろう。
「もしかしてこっちのレナって子もドラゴンなのか?」
「まさか、レナは普通の女の子だ。インフィニットドラゴンが特別なんだよ。こうして人間の姿にもなれる」
するとアシュリーは二人の前で膝を付き目線を合わせた。
「私はアシュリー・スノースマイルという。アシュリーと呼んでくれ。戦場ではおかげで命拾いした。ありがとう」
「ふふーん、どういたしまして!タピオカ強いでしょ?」
「ああ、とても強かった。これからも宜しく頼む」
タピオカは得意げにふんぞり返る。
「あの、ちふゆお姉ちゃん。王都には……」
今まで口を閉ざしていたレナと呼ばれる幼女が遠慮がちに口を開いた。こちらはタピオカと違って引っ込み思案な性格のようだ。
「ああ、ごめんなレナ。王都にはしばらく行けそうにない」
「そう、……ですか」
しょんぼりと俯くレナ。
「どうしてこのレナって子は王都に行きたいんだ?」
「このレナは最近村の近くで魔王軍に身売りされそうになっていたのを助けた子でさ。攫われる前は王都に姉と二人で暮らしていたらしい。姉が心配だから早く帰りたいらしいんだが、この状況だと王都に送り届けることが出来ないだろ?恐らく今回の件でヤーランドは王国から目を付けられた」
「なるほどな」
「可哀そうだけど、魔王を倒して現状を変えないと王都に行くのは無理だろうし」
千春はこの幼女の為にも、自分の為にも早く魔王を倒す決意をするのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノシクチ地方、シュラ国の南に位置し、魔王城があるさらに南のラクサー平野に行くには避けては通れない道である。魔王城を目指す千春一行は思わぬ所で足止めを食っていた。
「どうだった?」
ドラゴンに乗って帰ってきた千冬に千春は問いかける。
「ダメだなー。何か見えない壁に阻まれて上空からも侵入できないぜ」
千春達はノシクチ地方最南端のブロッサム砦に来ていた。この砦を超えれば魔王のいる城まであと一息というところなのだが、ここで大きな問題が発生していたのだ。
「……打つ手なしですか。この先に進むには何とかしてこの砦を抜けるしかないのですね」
三人は合わせたようにため息を吐いた。王国から手配書が回っている為、砦の中を通って抜けることは不可能。砦の中には王国兵士がごまんといるからだ。そこでタピオカに乗って上空を行く作戦を提案したのだが、見えない壁というRPGにはありがちなシステムで阻まれてしまった。
「いっそ、タピオカに突進させて砦を壊して突破するのは?」
「さすがのタピオカでもあの砦を壊すのは不可能だぞ兄ちゃん。施設は高確率で破壊不可能なオブジェクトになってるからな。一度間違って街の民家を踏みそうになった時、そんなメッセージが出て踏めなかった」
万事休すと言うべきだろうか。ここを越えなければ魔王城にはたどり着けない。
「砦の中を強行突破するのは?」
「……やめておいた方が良いでしょう。砦には少なくても1000人以上の兵士が常駐しています」
うーんと頭をひねる三人。
「……これはもしかして攻略の順番が違うか、必須イベントを見逃しているのかもしれないな」
「先にシュラ国をどうにかするってことか?」
うへぇと千冬はめんどくさそうにため息を吐く。それもそのはず、現状王国軍から追われている千春達が今更和睦など出来るわけがない。であれば道は王国を力づくで従えさせるか王の首を挿げ替えるか。どちらにしても面倒ごとになるのは間違いないと思われた。
「こうなったら地味だがあれしかないか?」
「あれって何だ兄ちゃん?」
千冬は眉をひそめる。
「地道にセーブ&ロードしかないだろ」
千冬はさらに嫌そうな顔をするのであった。
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