第19話 AGI
「しかし、不思議なことが一つあるんだが」
相変わらずヤーランドの宿屋である。
「……兄ちゃん、私が何でも知ってると思ったら大間違いだからな。まあ、いいけどよ」
千冬はあきれた様子だが、話は聞くようである。千春は遠慮なく話を進めた。
「ここが誰かが作ったゲームってのは分かったが、未だに半信半疑だ。その大きな理由の一つがアシュリーみたいなNPCの存在なんだが。どう考えてもプログラムで動いているようには見えないんだが。どういうことなんだ?」
「……それ本気で言ってるのか?私でもAGIぐらいは知ってるのによ」
「AGI?アジリティのこと……じゃないよな?」
千春はアジリティと言い始めた段階で千冬の顔が険しくなったのを確認して間違いだと悟った。
「汎用人工知能のことだ兄ちゃん。本当にどうしちまったんだ?こんなの中学生の授業で習う内容だぞ」
そこでいきなり千春の脳裏に衝撃が走った。思わず頭を抱えうめき声をあげる。
「お、おい!兄ちゃん大丈夫か?」
千春の頭の中に一部の記憶が蘇ってきた。AGI、汎用人工知能。プログラムされたことだけではなくAIが自ら学習して成長していくシステムだ。長年実現不可能なAIシステムだとされていたが現代では既に完成され徐々に導入する企業が増えてきている。このインフィニットオーサーはゲーム業界で初めてAGIを導入して話題になったゲームだった。プレイヤーが設定した初期設定から主人公たちと行動をすることによってNPCが自ら学習し成長していく。その為、同じゲームをしてもプレイヤーが違った行動をとることでNPCもそれに合わせた行動をする為、シナリオが無限に分岐する。かなり自由度が高く話題にはなったがプレイヤーを選ぶゲームであった。
「……少し思い出したよ。そうかAGIシステムかなるほどな」
一昔前はこのAIが発展した未来でAIが人間を滅ぼそうとするなんて内容の映画もあった。現在はまだ、実用化が始まったばかりだが、そんな未来が来る日もあるかもしれないと千春は意味もなく考えた。
「ますます、攻略が難しくなったように感じるのだが?」
「まあ、それが一般ユーザー受けしなかった理由の一つでもあるからな。作る側もプレイする側も自由度が高すぎると途端に何をしたらいいのか分からなくなるもんだ」
「そりゃ、ふつうの人は『やーめーた』で済むかもしれないが、俺はクリアできるか否かで現実世界に戻れるかが掛かってるんだぞ!あー、なんか裏技でもないものか」
「私に言われてもなー。さっき言ったように攻略サイトもないから、地道にセーブ&ロードを繰り返して進んでいくか、作った人を探し出して攻略情報を聞き出すか……」
「うん?……ちょっと待てよ」
唐突に千春は閃いた。
「それだ!それだよ千冬!その手があった!」
「お、おい。揺らすな。どの手だよ!」
いきなり肩を掴まれた千冬は嬉しそうな千春とは対照的に冷めた目である。
「言っとくが制作者を探すとか不可能だからな。そりゃこの世界のどこかにいるのは確かだけどよ」
「ちげーよ、セーブ&ロードのことだよ!」
そうなのである。いままでセーブの存在を知らなかった千春である。今この状況でも死ねばまたあの魔法陣に逆戻りであるが、セーブが出来るのであれば話は別である。間違ってゲームオーバーになってもまたセーブポイントから始めることが出来るのだ。これがどれだけありがたいことか恐らく千春にしか分からないだろう。
「セーブが出来るんだよな?どこで出来るんだ?」
目をキラキラさせながら聞く千春とは対照的にこれ以上ないくらいあきれ顔の千冬である。
「あのさ、兄ちゃん。悪いことは言わねーからさ」
頭をポリポリとかく千冬。
「説明書見ようぜ」
ポンと千春の肩に手を置く千冬の表情がマウント取り気味のどや顔だったので千春はわりかしイラっとした。
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