第5話 目が覚めて
「召喚に成功しました。魔法陣の起動を終了します」
目を開けると青く光る線が見える。薄暗い体育館ぐらいの広さの部屋の中にイケメン騎士とローブを着た魔術師が4人。どこかで見たことがある景色だと千春は既視感を覚えた。
「気分はどうですか勇者様」
爽やかなイケメン騎士が手を差し伸べてきた。どうみてもアシュレイだった。
「アシュレイてめぇ!!騙しやがったな!」
勢いよく起き上がり胸倉に掴みかかる千春。よくおめおめと俺の前に顔を出せたものだと殴りかかる直前でおろおろと情けなく慌てるアシュレイの姿が目に入る。
「ど、どうしたんですか勇者様。私が何か粗相をしてしまったでしょうか?」
まるで何も知らないような様子のアシュレイに千春の激昂が少し収まる。
「……何かって、アシュレイお前何も覚えていないのか?」
「失礼ですが私には勇者様が何を言っているのかさっぱり分かりません。そもそも何故私の名前を知っているのですか?」
一気に冷静になる千春、アシュレイの胸倉から手を放す。体をよく見てみるとアシュレイに斬られたはずの体は傷一つなく、トラバサミに挟まれた右足も綺麗に治っていた。しかもここは最初に召喚された地下室である。今までが夢だったのか、それとも生き返ったのか、千春の頭の中はかなり混乱していた。
「……すまん、勘違いだったみたいだ。許してくれ」
「そうですか、少々腑に落ちませんが深くは聞かないことにしましょう」
意外にもアシュレイはあっさり引いた。
「アシュレイ様大丈夫ですか?」
ローブの男の一人が心配そうに近づいてくる。
「大丈夫ですよ、ご苦労様でした。勇者様は私が王の元へお連れします」
それを聞くとローブの男たちはローブを脱ぎ始めた。「はー、終わった終わった。暑すぎるんだよこのローブ」「今時爺でもこんなローブ着てねーよな」「仕方ないでしょ決まりなんだから」「あ、アシュレイ様お疲れース」
ローブの男たちは軽い感じで去っていった。前回と一緒である。
「では我々も参りましょうか」
「王様の所にだろ?」
「話が早くて助かります」
経験済みなのだから当然である。何がどうなったかは分からないが、どうやら召喚された時に巻き戻ったらしい。しかも前回の記憶を完全に引き継いだままである。千春は少し考えることで冷静さを取り戻していた。
「ああ、すみません。まだお名前を聞いていませんでしたね。教えて頂いても宜しいですか?」
どうせ教えたところで勇者様としか呼ばないくせにと千春は思ったが特に言及しなかった。
「俺は竹田千春。よろしくな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王との謁見が終わり部屋に通された千春はベッドに腰掛けた。もちろん前回のようにできもしない能力発表会などしていない。王には能力など身に覚えが無いとはっきり告げた。その結果勇者はまだ能力に目覚めていないという話になり、しばらくの城への逗留を許された。ここまでは前回の流れとほぼ同じだ。何故生き返ってしまったのかということは謎のままだったが、考えても分からないのでひとまず保留とした。
ここからが肝心である。このまま前回と同じ流れで進めばまたアシュレイに斬られて終わりである。せっかく巻き戻ったのならバッドエンドは回避しなくてならない。千春の間隔ではそろそろあれが来る頃である千春は静かにその時を待っていた。
「勇者様、アシュレイです。開けても宜しいですか?」
「いいよ、入って」
来た。やはりここも前回の通りである。
「失礼します、勇者様明日仲間を募りにギルドに行ってみませんか?」
今回は半透明のスキルは使っていない。
「へえ、いいね。ギルドには何があるんだ?」
前回殺された原因の一つは間違いなくこの半透明になる無能なスキルのせいだ。なのでこのスキルは誰にも知られてはならない。
「仲間の募集が出来ます。私の他に優秀な仲間がいれば魔王討伐にも拍車がかかるというものです。あと勇者様まだ丸腰でしょう?武器防具なんかも買うことが出来ますよ」
まあ、拍車どころか風車もびっくりの空回りをかますことになるのだがそれは置いておいても行く以外に選択肢はないだろう。ここでもし行かないのであれば他の提案をする必要があるし、えもしれぬ疑いを掛けられる可能性もある。リスクが高い。
「なるほど、ぜひ行きたいな。出発は朝?」
「はい、朝食が終わったくらいに迎えに参りますので準備をお願いします」
あっさりと話が決まった。
「勇者様、そのあまり気に病まないでくださいね」
アシュレイは去り際にそんなことを言ってきた。
「能力はそのうち目覚めるはずですから。二人で頑張りましょう」
ばたんと扉が閉まる。靴音が遠ざかるのを確認して千春は息を吐いた。
「全く、どっちが本当のアシュレイなのか」
大体アシュレイは優しく千春を励ましてくれていた。しかし、前回の最後はまるで別人のようであった。ただ今の段階では誰も信じることは出来ない。状況をもっと詳しく知る必要がある。もう、殺されてなるものかと千春は決意を新たにするのだった。
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