第四十一話 迷宮探偵、ホントの力を見せたげて
「迷宮探偵、だと? いまどきは、そんな
「いや、迷宮探偵はオレだけだ。いまんとこ、この世にオレひとり」
「ハンッ! 見たところ剣も鎧も魔法も持たず、力や技の素養もまるで感じられぬ。そのおまえが、我の相手だと?」
鼻息も荒く、
「ちぇ、言ってくれるなあ。……まあ、ほぼその通りなんだが」
そう言いながら、肩をすくめるシクヨロ。だがすぐに気をとりなおすと、眼前に人差し指を立てた。
「それじゃあここで、
「ああ? なんだと……?」
その質問の意味がわからず、思わず聞き返してしまう
「なぁにをくだらぬことを! おまえは、とくになにもしておらぬ。ただ、運が良かっただけではないか」
「ピンポンピンポン! 正解!」
「ぬう?」
「そうなんだよな。ただ運が良かった、それだけ。でもな、そこが一番重要なんだぜ」
シクヨロは、背広の裾を正しながら言った。
「じつはこのオレ、とにかくメッチャメチャ運がいい男なのさ」
「おまえがなにを言っているのか、さっぱりわからぬ! いったいどういうことだ?」
「おっ、
「さて、と。ちょっと長くなるが、聞いてくれるかい?」
シクヨロの方も、そのへんにある適当な大きさの岩を見つけて腰を下ろすと、タバコを取り出して火をつけた。
「運がいいっていうのは、べつに例え話でもなんでもねえ。じつは、この
「隠しパラメータ、だと……?」
「ああ。そしてその中に、『運気』ってのがある。これは文字どおり、生まれついての運の良さのことだ。平均的な一般人の数値は三十あたりから、高くても四十そこそこってとこ。運気のポイントを上げる特殊なアクセサリーかなんかでゲタを履かせたとしても、まず五十以上にはならねえ。だがなあ——」
シクヨロは、タバコの火をつま先でもみ消しながら言った。
「
「運気が九十九だと! いや、そのまえに——」
「つまり、おまえは一度死に、その直後に
「へへ、しかも一度や二度どころじゃねえぜ?」
シクヨロは巨大な
「驚くなよ? オレはこれまでに、あわせて『四千九百四十五回』死んでいる。しかもそのたびに、まったく新しいパラメータを備えた別の自分に転生しているんだ」
「なんと……」
「だれもが死んだら終わりの『ドラゴンファンタジスタ2』で、どうしてオレにだけそんなことが起こるのかは謎だ。そもそも、昔のオレがどんな
シクヨロはマッチを擦り、新しいタバコに再び火を灯した。
「そのくせ死にザマだけは、今でもくっきり鮮明に覚えているときた。四千九百四十五回分の自分の最期、その全部だぜ? いったいオレに、なんの恨みがあるっていうんだかな」
そう言って、紫煙を吐き出すシクヨロ。
「だがな、オレは四千九百四十六回目の
シクヨロは、話を続けた。
「そこでオレは、とあるツテを利用して、自分の隠しパラメータを確認してみることにした。これには時間と労力と人脈とカネが、かなりかかったぜ」
すると、
「そうしておまえは、自分の運気ポイントが九十九であることを知ったのか?」
「そういうこと。ちなみに運気九十九ってのは、いかなる要因があろうとも、百回挑戦したら九十九回成功するって意味だ。この世の摂理として百パー成功ってのはありえねえから、実質これが
「迷宮の中にかぎっては選択にほぼ失敗しねえし、死ぬこともまずありえない。オレは、四千九百四十六回目となるこの命を心に刻むために、4946という数字を自分の名前にして生きていくことに決めたのさ」
「まあそうは言っても、オレの運気以外のパラメータは正直ひどいもんだ。運だけでは
「だから、オレは迷宮専門の探偵になった。強くて経験豊富な仲間を雇って、迷宮探索の依頼を受ける。探索者としてはなにひとつ役に立たなくても、仲間の安全だけは運気の力で保証する。それが、オレの
「なるほど、そういうことであったのか……」
長々と語ったシクヨロに対し、
「ところでおまえ……いや、シクヨロとやら」
「そもそも、どうしてこんな話をわざわざ我に話したのだ?」
「んんー? ……いやあ、へへっ」
そのとき、
「シクヨロさーん! この宝箱の中にありました、ありましたよ! これ、間違いなくマカラカラムの
アイシアはそう言って、複雑な
「
アイシアの姿を確認し、指を鳴らすシクヨロ。そして、愕然とする
「なにぃ! いつの間に?」
「
「お、おのれぇ〜〜〜〜っ!」
あわてて立ち上がった
「はい外れ! 外れ! 外れ! また外れ! ……っと危ぶねっ、けど外れ!」
シクヨロは炎の弾丸を避ける素振りすら見せず、棒立ちのまま。それなのに、
「ぬおおお! 当たらん! 当たらん! ぜんっぜん当たらんぞおおおおお!」
「運気九十九ってのはな、逆に言うと百発に一発は命中するってことだぜ? も少しがんばんな」
「シクヨロさん、大丈夫ですか?」
「おう、ご苦労さん。あの宝箱、よく開けられたな」
「はい。いろいろ試したんですけどダメだったんで、けっきょく
「さすがだな、アイシア! やっぱお前さんは、超一流の
「シクヨロさん……」
この冒険中、シクヨロにはじめてちゃんとほめられたように感じ、アイシアは思わず赤面した。
「さあ、そのマカラカラムの
「えっと、でも私……」
「どうした?」
「魔法、いちども使ったことないんですけど……」
続く
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