第十九話 つきとめろ! 護符の隠された部屋

「おいおい、アイテムの隠し場所なんていっちゃん大事なとこだろ! アイシアちゃんよぉ、なんでいままで黙ってたんだよ」


 さすがに、思わずちょっと大きめな声が出てしまうシクヨロ。


「だって、このあたり記述がすごく難解で、ほとんど意味わかんなかったから読み飛ばしてたんですもん。マルタンさんがこの鍵の紋章エンブレムのことを言ったから、ようやく思い出したんですよ」


 アイシアは、両手に抱えた古文書で口元を隠すようにして答えた。重要な核心部分に気づかなかった自分を、一応は恥じているようだ。


「いや、そういうこともあるんじゃないか? 私も、読んでて内容がむずかしいところは、つい後回しにしちゃうぞ。漫画まんがだけど」


 ヴェルチも、本を読むらしい。漫画まんがだけど。


「そうなんですよ! とにかくややこしい古代文字ばっかりで、ずーっと読んでると目がチカチカして、私でも頭が痛くなってくるんですよね……。もっとわかりやすい、カラーイラストとかマップが載ってればよかったんですけど」


「つーか、古文書はファミ通の攻略本じゃねえからな」


「まあ、それはもうしょうがないとしてさ」


 マルタンが口を挟んだ。


「肝心の、護符タリスマンの隠してある部屋ってのは、どこにあるのかわかるの?」


「んー、それがですねぇ……。そもそもこの古文書って、そのものズバリが書いてあるわけじゃなくて、たとえ話みたいになってるから、ハッキリとはわからないんですけど……」


 アイシアは、荷物の中からかなり年季の入った字引を取り出すと、首っ引きになって古文書の解読をはじめた。


「だいたいでいいんだよ。あんまり、悠長に読みふけってるヒマはねえぜ」


「なあシクヨロ、護符タリスマン在処ありかも大事だが、ボヤボヤしてるとまたつぎのモンスターに襲われるぞ」


「そうだな。遭遇エンカウントのたびに、ヴェルチおまえさんに全裸になってもらうのも忍びねえしなあ。……なあマルタン、なんとかなんねえか?」


「うーん……。結界魔法を使えば、一時的にモンスターに気づかれずに行動することができるかもしれないけど」


「それはいいじゃないか、マルタン! さすが、熟練魔導師マスターウィザードだな」


 ヴェルチが口にした「熟練魔導師マスターウィザード」とは、魔導師ウィザードの中でもとくに優れた知識と技能を持つ者に、王国から特別に与えられる称号である。マルタン・オセロットは二年前、なんと弱冠十歳にして熟練魔導師マスターウィザードへの昇格を果たしたのだ。もちろん、けた外れの最年少記録である。ちなみに、結界魔法はレベルの低い魔導師ウィザードが使っても、たいした効果は得られない。


「でも、ここは最下層のさらに下の地下十三階だし、このあたりの強力なモンスターにどこまで効果があるかはわからないよ?」


「とにかく、よけいな戦いをあるていど避けられれば十分だ。パパッとたのむぜひとつ」


「ふぅ……。カンタンに言ってくれちゃってさ」


 シクヨロの指示に、ため息まじりに答えたマルタン。パーティーメンバーが迷宮を進む準備を整えると、彼はジンジャーを構え、結界魔法の呪文を唱えはじめた。




「——なあ、これって、ホントに効いてるのか?」


 隊列を整え、ふたたび第十三迷宮の地下十三階の回廊を歩みはじめたパーティーメンバーたち。マルタンがかけた結界魔法の効果に、シクヨロはいまひとつ懐疑的だった。


「ちゃんと発動してるよ。ほら」


 マルタンが、薄暗い前方を指差した。そこにいたのは、体長が三メートル以上はあろうかという爬虫類のモンスター、バジリスクだった。


「うおっ?」


「シッ! 声を立てるな、シクヨロ」


「……!」


 モンスターの出現にまったく気づかなかったシクヨロが、驚いて思わず叫びそうになったところをヴェルチが制した。


 バジリスクは巨大なトカゲかヘビのようなモンスターだが、四対八本の脚を持つのが特徴だ。その鋭い牙は猛毒を含むと言われているが、もっとも危険なのは石化効果のある金色の眼光である。バジリスクににらまれたが最後、洞窟に立つ石像と化し、深層階から二度と戻ってこられなかった探索者は数知れない。


「……こいつ、見えてないのか?」


「そうだよ」


 バジリスクの眼は、たしかにシクヨロたちの姿を捉えているはずだが、まったく気づいている様子はない。マルタンの張った結界の外を、八本の足を動かしながら悠然と通り過ぎていく。バジリスクは、迷宮内での散歩を楽しむかのように、そのまま暗闇の奥へと消えていった。


「すげえな! これなら、地下十三階でも安全だぜ」


「ぼくも、バジリスク級のモンスターに結界魔法が効くとは思わなかった。まあ、持続時間は三十分くらいだけどね」


「いやぁ、本当にすばらしいよマルタン! ごほうびにスリスリ……」


「だからやめてって」


 マルタンは、ヴェルチの申し出を本気で断った。




 シクヨロたちは、なおも迷宮の回廊を進んでいく。複雑に折れ曲がってはいるものの、分岐や小部屋などもなく、長い一本道であった。また途中で何体かのモンスターとも遭遇したが、結界の効果は絶大で、戦闘バトルになることはなかった。


「……マルタン、そろそろ三十分経つんじゃねえか?」


 シクヨロが、マルタンにたずねた。


「うん、結界を張り直さないと——」


「わかりました!」


 そのとき、それまで一言も発していなかったアイシアが、いきなり大声を上げた。


「——おい、びっくりさせんなよアイシア。いったい、なにがわかったんだ?」


 どうやらアイシアは、パーティーが回廊を進んでいる間、歩きながらずっと古文書の解読をつづけていたようだった。


「ようやく、詳細が判明したんです! 『マカラカラムの護符タリスマン』が納められている部屋にたどり着く方法が!」




続く


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