第十七話 牙を剥く狂戦士! 過激なヴェルチ
迷宮内での最初の
「グオアアアアッ!」
まず、
「くっ!」
ヴェルチは、その攻撃を斧槍・アヴァランチで受け流し、すんでのところでダメージを回避した。つづいて
「……っと、
そして、シクヨロたちにとってもうひとつの幸運は、
「どうやらやるしかないようだな、みんな!」
「ああ。さすがに逃がしちゃくれねーか」
「ま、しょうがないね」
「私ドキドキして、口からさっきの中華が出ちゃいそうです」
彼らは、ついに覚悟を決めた。逃走という選択肢を持たない
なお、このモンスターを「
「つぎは、ぼくが魔法を——」
魔法の杖・ジンジャーを構え、攻撃呪文を唱えようとしたマルタンを、シクヨロが制した。
「いや待て、マルタン!
「……っ!」
マルタンは、
「気にすんな。これからまだおまえさんには、いくらでも活躍してもらうからよ」
「……」
シクヨロの言葉には答えず、代わりにマルタンは帽子のつばに手をかけ、うつむくようにして目元を隠した。
「でも、魔法なしでどうするんですか? 相手は三体もいるのに……」
「私がやる」
「ヴェルチさん?」
「すまないがアイシア、ちょっと預かっててくれ。重いぞ」
そう言うとヴェルチは、アヴァランチをアイシアに向かって放り投げた。
「ええっ? ……うわっとっと!」
あわてて手を伸ばし、なんとか斧槍を受け取ったアイシアだったが、そのあまりの重量にあやうく落としそうになってしまった。
(やれやれ。まさか、こんなに早く披露することになるとはな)
ヴェルチは、今が緊迫した戦闘中とは思えないほど、ゆっくりした歩調でパーティーの前に出た。
「ヴェルチさん、武器も持たないでなにを——」
「まあまあ、ここはヤツに任せとけ」
心配するアイシアをなだめすかすように、シクヨロは彼女の肩に手をかけた。こういうピンチのとき、ヴェルチがもっとも頼れる存在であるということを、彼は知っていた。
「来いよ、
ヴェルチは丸腰のまま、ニヤリと挑発した。
「グオオオォォォァァン!」
「ヴェルチさんっ!」
たまらずアイシアが叫んだその瞬間、ヴェルチの体が閃光を放った。それと同時に、彼女の身につけていたフルプレートアーマーが、赤いマントと衣服ともども四方八方に
「ウオリャアアアアッ!」
渾身の気合を込めたヴェルチ。一糸まとわぬ姿のまま発したそのすさまじい咆哮は、この階層はおろか、この迷宮すべてに響き渡るようだった。そして次の瞬間、彼女の肉体は大きく変化を遂げたのだ。
均整のとれた筋肉質の肢体はさらに隆起し、荒々しい獣毛が全身を覆った。口元には鋭い牙が、指先からは尖った爪が伸び、凄まじい武器を形づくった。両目に宿ったその金色の眼光は、まさに二本足で立つ野生の
「……シクヨロさん、こ、これは」
「『
こうなると、もはや勝負は一瞬だった。
つづいて、
「……しかし、なんど見てもすげえな、こいつは」
最後に残った
かくして、第十三迷宮での最初の
「——終わったぞ、みんな。ケガはないか?」
戦いが終わり、晴れやかな表情で元の姿に戻ったヴェルチに、マルタンが言った。
「前を隠しなよ、ヴェルチ。すっぽんぽんなんだけど」
続く
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