第十六話 漆黒の闇の奥より、せまり来るもの
「いやいやいや」
「いやいやいや」
マルタンの思いがけない
「あのなあ、第十三迷宮は全十階層だぜ? なんで地下十三階があるんだよ」
「そうだな。探索者ギルドが出している最新の公式ガイドブックにも、そのように書かれている。なにかの間違いじゃないのか?」
「なに? ぼくが魔法をミスったっていうの?」
ふたりの言葉に、気色ばんで反論するマルタン。
「座標感知魔法は、迷宮内の位置情報をぼくの頭の中に正確に浮かび上がらせるんだ。絶対、間違えっこないよ」
「でもほら、GPSとかでもよく現在位置が変に表示されたりするじゃないですか。
「あー、和光か川口あたりで勝手に下道に降ろされそうになったりするやつな」
「ぼくの魔法はカーナビじゃないよ!」
「まあまあ。とにかくだ」
そんなやりとりを、ヴェルチがなだめた。
「マルタンの情報が確かだとすると、この第十三迷宮には隠された階層があったということだな。それも、いままでにどの探索者も足を踏み入れたことのない、未踏中の未踏エリアだ」
「そうだ、たしか未踏エリアを正確に
「ホントですか? いますぐやりましょう!」
アイシアは、荷物の中から
「待て待て。おまえは一体、ここになにしに来たんだよ」
「あ、そうでした。早く『マカラカラムの
「でも、もしその
「なぜわかるんだい? マルタン」
ヴェルチが、自分も懐から出していた筆記用具をしまいながらたずねた。
「だって、これまでにどの探索者にもギルドにも、その存在すら知られていないレアアイテムだよ?
「それじゃ、私たちはこの迷宮に足を踏み入れて最初の第一歩で、いきなり隠された階層への封印を解いてしまったということなのか?」
「それは、よくわかんないけど……。まあ考え方を変えれば、途中の過程をぜんぶすっ飛ばして、アイテムのある場所まで最短距離でやってこれたとも言えるかも」
「へー、すごいじゃないですか! それって、めちゃくちゃ運がいいってことですよね?」
「運がいい? ……ま、そうかな」
アイシアの言葉に、なぜかシクヨロは複雑な表情を浮かべた。
「……さて、そこまで運がいいかどうか、まだわからないぞ」
「え? どうしたんですか、ヴェルチさん?」
「
その言葉で、探索者パーティーに緊張が走る。彼らは隊列を整えると、各々の武器を握りしめ、まもなくはじまる戦いに備えた。
迷宮に入る以上、モンスターとの戦闘をそれなりに覚悟していたアイシアだったが、いざそのときとなると、腹の底から湧き上がってくるような恐怖をあらためて感じていた。
「し、シクヨロさん、モンスターって……」
「ああ。ここは地下十三階だからな。さすがに、ヘビやコウモリってことはねえだろ。ま、オレの場合、スライムベスですでにヤバいんだが」
「……よかったな、シクヨロ。どうやら、敵はスライム系じゃないようだぞ」
そんなヴェルチの声も、すでにアイシアやシクヨロの耳には届いていなかった。暗い回廊の奥からゆっくりと姿を現した巨大な影を、ようやく彼らは視認することができたのだ。
「そ、そんな……」
「マジかよ」
そして、マルタンが声を上げた。
「
説明しよう。
攻撃方法も、物理に魔法となんでもあり。痛烈な通常攻撃に加えて、毒と麻痺の追加効果のある特殊攻撃を持ち、さらに灼熱および冷気の全体魔法をつかいこなす。また、体力はやや低いものの防御力は高く、高確率で魔法攻撃を無効にするなど、とにかく隙がない。そのうえ、
以上、説明終わり。
「迷宮最初の敵が、よりによって
パーティーの先頭に立つヴェルチから、リーダーとして行動の選択を迫られるシクヨロ。
「どうするって、おまえ……」
▼ にげる
にげる
にげる
(逃げるしかなくね?)
シクヨロは、頭の中に浮かんだ唯一のコマンドを叫んだ。
「逃げるぞ!」
その声に、彼らは脇目も振らずに走り出した。
しかし まわりこまれてしまった!
——現実は非情であった。
続く
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