第十二話 クエスト前のお・た・の・し・み♥
「ふぅ……」
ほんのり上気した、ヴェルチの頬。その彼女の口元から、甘い香りの交じった吐息があふれだした。さっきまで身にまとっていた重厚な
「ああ……。この銀色に輝く瞳、そしてこの繊細でやわらかな手ざわり。もう、本当にたまらないな……」
ルビコンの酒場を出た彼らは、
彼女が所望したのは、美少年
「……」
マルタンは、ただひたすらに無言だった。慣れない刺激に耐えつつも、あえてなにも考えないようにしている、といったほうが正しいのかもしれない。そんなマルタンの
「ハア……ハァ……ハア……ハァ……」
だんだん、呼吸が荒くなっていくヴェルチ。全身をくまなく
「……っ!」
そして、ついに欲望を我慢することができなくなった彼女は、マルタンをその屈強な両腕でぎゅっと抱きしめると、その頬をマルタンの横顔にすりつけた。
「ああーーっ! もう、たまらんっっ! ネコちゃん、かわいいいいいいいいいいーーーーん!」
「ニャアアアアアアアアアア!」
「……大丈夫ですかねえ、マルタンさん」
「しょうがねえだろ。
アイシアとシクヨロはドアを隔てた部屋の外で、ヴェルチとマルタンの様子をうかがっていた。
「まあ、でもよかったです。私、十八禁的ななにかがはじまっちゃうのかと、ちょっとドキドキしちゃいました」
「ま、
「
「……たぶんな」
「それにしても、ヴェルチさんはなんであんなにネコちゃんがお好きなんですかね?」
「さあな。やっぱ
一方通行なのがかわいそうだけど、とアイシアは思った。
「——じゃオレ、ちょっと出かけてくるから。
帽子を手にしてそう言うと、シクヨロは出ていってしまった。
「え? あ、はい。行ってらっしゃい」
「ああんもう、かわいかわいかわいかわいかわかわかわいいーーーーん!」
「ギニャアアアアァァァァ————————」
部屋の中からは、ヴェルチの嬌声とマルタンの悲鳴がいつまでも響きわたっていた。
「あー、いいなあ。私もモフモフしたかったなあ……」
アイシアは、背中をドアに寄りかからせながら、口惜しそうにつぶやいた。そしてしばらくすると、彼女はその場にしゃがみこみ、そのまま寝息を立てはじめてしまった。
結局、ヴェルチのお楽しみモフモフタイムは、二時間三十三分四十二秒にもおよんだのだった。
「やあっ、待たせたな!」
身支度を終え、ヴェルチは寝室を出てきた。満面の笑みをたたえたその顔は、まさにツヤツヤのテカテカ。
「どうやら、ご満足されたようですね」
「ああ! おかげさまで」
そう言って、ヴェルチは手洗いの方に向かった。アイシアはマルタンのことが心配になり、そっと寝室のドアを開けた。
「あのぉ……マルタンさん、大丈夫ですか?」
「……」
ヴェルチの
「マルタンさん?」
「……この姿を見て大丈夫だと本気で思ってるのかこの
消え入りそうな小さな声を、なんとか絞り出したマルタン。
「大変でしたねえ」
「……もういい。ちょっとほっといて……」
ゆっくりと起き上がり、魔法の杖・ジンジャーを手にすると、マルタンはふらふらと部屋を出て行った。そのまま、シャワーを浴びにいったようだ。その姿を、アイシアは黙って見送った。
「さ、用意できたぞ」
いつの間にか外出から帰ってきて、ずっとキッチンにこもっていたシクヨロが、アイシアに声をかけた。
「あ、なんですか? シクヨロさん」
「メシだよ、メシ。
続く
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